love greetings
玄関に置かれた注連飾りは、
洋風のモダンなお屋敷にはちょっぴり似合わないかも。
青なんて視界に入れようともしない。
注連縄とか見るともう今年も終わりというのを強く感じる。
「沙矢」
しげしげと眺めていると青が、声をかけてきた。
夜の真っ暗な中、注連飾りを凝視するのはさすがに変な人か!?
「ん。分かった」
今日は、二ヶ月振りにマンションへ戻る。戻るって表現はおかしいかな。
不器用な愛を育て、やがて共に暮らしたマンションは二人の想い出と記憶がたくさん詰まっている。
朝食の時にお義父様にはご挨拶したし、操子さんにも行ってきますを言った。
青が仕事から戻ってくるのを待って、現在午後六時半。
屋敷内の大掃除は数日かけてやったため、今日はマンションへ行く準備をしていた。
お屋敷は閑静な住宅街の中(その中でも一際目立つ)にあるのだが、
夜は余計に物寂しい雰囲気がある。
ご近所も里帰りとかで外出しているのだろう。
車が走り出しても大通りに出るまでは他の車に出遭うことがなかった。
年越しと年明けの食料を買う為に大型スーパーに寄った。
お節は昨日作って、青と私の分をもらってきたので、後はお蕎麦等などを買う必要がある。
やはり今年最後の日ということでかなり混んでいたが、
青が誘導してくれるので人ごみもスムーズに移動できた。
高い位置にある商品は青が取ってくれ、低い位置にある商品を取る時は、腰を屈める。
青が身を屈めて顔を近づけてくると未だにドキッとする。
普段は見上げないと届かない青の顔が、間近だもの。
顔を赤らめている私に目を細める青。
「青、あれ取って」
私は商品を指差した。
すいと目の前に青が商品を差し出した。
笑顔になり軽い足取りで、レジに向かう。
カゴは青が片方持って隣を歩き袋は、二人で仲良く持った。
「ありがとうございました」
ごきげんに袋を振って歩く。青とちらちら目を合わせては笑った。
車に乗り込んでシートベルトを締める。
頬にこてんとした感触がした。温かい。
ん? って横を向いたら青が紅茶を手渡してくれた。
黄色い缶の定番商品。
取り出しやすいよう一番上に入れてたねえ。
プルタブを開ける小気味良い音が響く。
青はブラックコーヒーだ。
このメーカーの物は味が良いから好きだといってたっけ。
「美味しいー」
「まあな」
ちょっと飲んで一息つくと車が動き出す。
青は信号で止まった時に缶を口にしている。
最近通ってないけれどこの道は、しっかり覚えてた。あと何度右折して
左折し、直進するか知ってる。頭の中にあるものとぴったり同じ道。
抜け道とか青しか分からないルートは、ともかく。私が知ってる道順を間違えるわけはない。
青は地下駐車場に車を停めると、助手席のドアを開けてくれた。
腕を引かれて降りると手を繋いで歩く。
暖色の灯りに照らされたエントランスからエレベーターに乗る。
エレベーターを降りて目的の場所に辿り着くと部屋のドアの前で深呼吸をした。
青が無造作に扉を開ける。
広く縁取られた玄関からは正面にダイニングが見えて、やっぱり懐かしさが込み上げる。
つい2ヶ月前まで住んでいたのに不思議なものだわ。
足取りも軽く多くの時間を過ごしたリビングへと入ると、
「あんまりはしゃいで転ぶなよ。お前一人の体じゃないんだから」
「あ、その言葉じーんって感じ。子供がいるんだって実感沸くの」
「そっか……で終ると思うなよ。今まで何度転びそうになった」
強い口調。こんな風に怒ってくれるのは心配しているからに他ならない。
射すくめられそうになりながらも真っ直ぐに青の目を見つめた。
「心配かけてごめんなさい」
「気をつけろよ? 俺はひやひやしてたまらないんだから」
くしゃくしゃと髪を掻き混ぜられた。
手櫛で梳いて、撫でてくれる。
飴とムチで私に接してる。怒った後はちゃんとフォローしてくれるし
甘いばかりじゃなくて私を咎める時も温かい愛情を感じるのだ。
「ご飯作るから、青は待ってて」
「ああ」
そう告げてダイニングキッチンに歩いていく。
一人で夕食を作るのは久しぶりで何だか新鮮な気分だ。
お屋敷ではいつも操子さんが作るのを手伝うばかりで、
最近は自分一人で腕を振るうことも少なくなっていた。
そういえば年越しそばを二人で食べるのも初めてだ。
お蕎麦を茹でながら、別のお鍋で、だし汁を煮る。
味を確かめつつ鰹の煮汁に醤油を加えたものに、別茹でした蕎麦を入れて出来上がり。
器に盛り付けて、上からねぎを刻んでのせた。
「あ、忘れるところだった」
買い物袋の底から、一味唐辛子を取り出してテーブルに置いた。
「ご飯できたわよ」
リビングの方に内線電話を掛けても返事がない。
どうしたんだろう。
青が行きそうな場所を頭に思い浮かべる。
あ、もしかしたら。
案の定、寝室の扉を開けるとベッドの上に青がいた。
ベッドヘッドに背中を凭れさせて、頭の後ろで腕を組んでいる。
何か考え事かしら。見破れるようになりたいなあ。
私の考えてることなんて十中八九当てられちゃうものね。私って顔に出ちゃってるのかな。
彼がくいと指を動かした。
こくんと頷いて彼の隣に座ると腕を引かれて
青の膝の上に、乗せられた。腰に腕が回っている。
私も青の上で足を伸ばす格好になる。
「どうしたの?」
きょとんと斜め上に首を動かす。
青の顔がリアルだ。たまには観察してみようかな。
止めとこう、妨害されそうだ。
唇が触れる距離にいるんだけど触れない。じっと覗き込んでくる瞳。
逸らしそうになる私の顎を掴まれた。
「青?」
「沙矢」
「って…………え!?」
深く唇が重なった。
微かに開いた唇の隙間から、吐息が漏れる。
「んんっ」
出てゆく赤い舌が妙に艶っぽい。
濃厚なキスは一分にも満たなかったが息はかなり乱れてしまった。
「いきなりやめてよ。心臓に悪い」
鼓動が早鐘を打つ。鼓動の打つ回数は、人それぞれ決まっているっていうし
早死にしたらどうしよう! ドキドキも度が過ぎると危ないわ。
こんなこと考える私の頭は平和そのものに違いないな。
「沙矢の頭、意外に高速回転だろ」
「青には負けますとも。何考えてるか未だにわかんないもん」
「お前に関するすべてだよ」
「何もかもそれで誤魔化さないでね? 辛い時は言わなくても良いから我慢しないで」
「あ、誤魔化されたなんて思ったことないわよ、勿論」
慌てて取り繕った。本当にそうだから。
「…………ああ」
一瞬、腕の力が緩くなった。
青は天井を見上げている。
きっと彼は無理を無理といわないだろう。そうやって生きてきたから
それが当たり前だったから、隣にいる私が察してあげられなければならないんだ。
青を抱きしめる。特別な言葉をかけるよりも普段通りにすればいい。
「青、ご飯よ」
「悪い。呼びに来てくれたんだな」
「内線出なかったから」
「心配した?」
悪戯っぽく笑う青が、ちょっとだけ憎らしい。
「全然」
私も口の端を吊り上げて応じた。
夕食のお蕎麦を食べ終わった私たちはリビングで紅白を観始めた。
一人盛り上がる私の頭を抱き寄せて胸に囲うのは旦那様こと青。
今年は好きなドラマの歌を唄う歌手が出たりで、結構楽しみにしていたのだ。
途中見れなかった部分とレコード大賞は、後でビデオで見よう。
とりあえず私が見たかった歌手は二人とも生で見れたので良かった。
「あー終っちゃった」
ふわあ…………あくびが出ちゃった。
「そうだな」
テレビが消えると、部屋は無音状態。静けさが、支配する。
「あ、あと十五分……」
今朝まで今年が終る寂しさを感じてたのに、焦燥を感じて
新年が近づくと早く明ければいいのにって思う。現金なものだ。
「どうせ寝付けやしないんだから」
忍び笑いをしながら、青は私の腕を引いた。
二人、寝室のベッドに潜りこんで、枕を並べる。
ベッドサイドランプをつけると仄かな灯りが顔を照らす。
「色んなことがあったね」
ぽつり、今年を回想する。
あと十数分じゃ全然足りないけれど、強く胸に刻まれた想い出を脳裏に思い浮かべた。
「ここで暮らし始めてからもうすぐ一年か。何かもっと経った気もするけど」
「抱き合った数が多いから?」
青は性質の悪い顔で軽い口調で言う。
「えっと、他に言いようがない?」
「的確な発言だと思うが」
「そ、それだけじゃないでしょ!」
つい声を荒らげてしまった。青ってば最後の日まで……。
髪をかき上げて流し目!?
「青、あのね」
「何だ」
「私、赤ちゃん産んでも女としての魅力失わないよう頑張るから、青も」
「沙矢」
「ん」
「子供を産んだ女は女性としてより成熟するらしい。
下らない情報を鵜呑みにするな。魅力がなくなるなんて間違いだからな」
「うん」
青の言葉に甘えないで自分磨きを怠らないでいたい。
愛しい人に寄り添いながら、顔を見つめて。
語り尽くしても言葉なんかじゃ足りないものね。
こうやってそばで眠ってる事に集約されてる。
青はいつの間にか私のお腹に顔を埋めてる。
腕を伸ばして髪に触れた。
「青、明けましておめでとう」
「おめでとう、沙矢」
青が目を細める。
「動いた」
少し声を弾ませて言うあなたはきっとうっとりしちゃうような笑顔だ。
「明けましておめでとう」
お腹の赤ちゃんに向かって語りかけている青に胸がくすぐったさを覚える。
「届いてるよね、私と青の子供だもの」
「当たり前だろ」
真綿で包むみたいにふんわりと抱きしめられた。
「おやすみ」
眩しい朝陽が部屋に差し込んでいる。
新鮮な気分だ。瞼を持ち上げると隣りには愛しい人の横顔がある。
初めて一緒に迎えた新しい年。
お腹の中の新しい命も一緒というのも勿論初めてで。
初めてづくしの新しい一年が始まる。
また来年は三人家族で迎えるのだろう。
「青、おはよう」
ああ、最初に瞳に映ったのが貴方でよかった。
去年は新たな始まりの予感を密かに感じながら、最初に瞳に見たものは、
小さなマンションの部屋の天井だったから。
「ああ」
いとおしむ仕草で、頬に触れるあなたの指。
頬を寄せ合えば、朝陽が眩しく二人を照らした。
「朝ごはん、お雑煮食べるでしょ」
「操子さんに藤城家のお雑煮の作り方教わったの」
「出来るの楽しみだな」
壁に背中を凭れさせる青を見送って、部屋から出た。
小一時間もあれば、すぐにお雑煮は完成した。
こんぶ、スルメでだしを取って薄口醤油で味付け。
具の鶏肉からもいいだしが出るのだ。
蒲鉾を入れて三つ葉を乗せて出来上がり。
良い匂いが漂ってきた頃、タイミングよく青が姿を現した。
テーブルの上にお雑煮、箸置きの上にお箸を置く。
テーブルに着くと、手を合わせて頂きますをした。
「ど、どう?」
待ちきれんばかりに青に出来栄えを訊ねる。
今飲み込んでお茶を飲んだばかりだから、急かしすぎてるわ。
でも気になるんだもの!
「慣れないのによく作ったな」
その一言ですべてが伝わった。
「練習も何度もしてやっと自分で納得できる味にできたの。
まだまだ藤城家の味は出せてないかもしれないけど、頑張って
もっと美味しく作れるようにするわ」
「藤城の味に拘らずに、沙矢の料理を作ってほしい」
「うん」
「それより早く続き食べたいんだけどな」
にっこり笑む青に、顔が朱に染まった。
「あ、食べて。私ったら急かしちゃって」
二人同時にお雑煮に箸をつける。
咀嚼し一息ついた後で、
「実家で食べてたお雑煮は焼いてから煮るから新鮮な感じがしたのよね」
「うちは、昔からこれだった。
沙矢が操子さんに教わったのはおふくろが作ってくれてた味だ」
青のおふくろの味かあ。
「顔にやけてるぞ」
青は口角の左側を持ち上げて指摘した。
「青のおふくろの味をもっと覚えたいなあ。
帰ったら操子さんに教えてもらっちゃおう」
「初詣、何時から行くんだっけ?」
着物は勿論、持参ずみ。
邪な私は自分が着飾るよりも青の和装姿を楽しみにしているのだが。
「一、二時間後には出よう。一人で着付けできるか?」
「帯を締めるの手伝ってくれるかな。きつくしちゃったらいけないから」
素直に甘えようと思った。
甘えすぎは良くないが、頼りなさ過ぎは逆に可愛げがない。
青は甘すぎるくらいだけど、徹底してる所は徹底してるからバランスは取れてるのかも。
「了解」
青の返事を聞くと私は自分の使っていた部屋に向かった。
住んでいた時のまま、ほとんど手付かずで残している。
お屋敷には家具が予めあったので、洋服のみ持って行けばよかったのだ。
部屋に入り、ベッドの上に着物の包みを広げる。
実は、この着物は、お義父様が仕立てて下さったものだ。
ここへ来る日の少し前に、出来上がったばかりだったりする。
その時、お義父様に先に着た姿を見せているのだが、青には秘密。
怒りはしないかもしれないが、気分は良くないだろう。
否、鋭い青のことだ。既にばれていたりして。
お義父様は本当に私のことを可愛がってくれている。
実の父にもらえなかった温もりをもらってる気がする。
そういえばまともに着物を着るのは成人式以来だ。
当たり前だけどあの時はお腹に赤ちゃんいなかったしなあ。
ちょっと我慢しててね。心中呟いた。
赤い色の生地に牡丹が描かれている豪奢なお着物。
帯は緩めにしなければお腹に負担がかかる。
ああ、髪もやってもらわなきゃ。
「青ー」
帯を体に回して、青を呼んだ。
こんこんとノックの音がする。
「何遊んでるのー、入ってきたら良いじゃない」
「つれないな」
明らかに本気っぽく嘯いてる。
青はすっと部屋に入ってきて、私の後ろに回った。
ちらっと振り返ると、口元が笑っていた。
「似合うな。さすが、センスはいいようだ」
「だって青のお父様だもんね」
帯が締められていくのがわかる。
きつくなりすぎないようにしてくれてるみたい。
「娘がまた出来て親父も嬉しいんだろう」
何だか照れてしまう。
青の奥さんってことはつまりは、お父様の娘でもあるんだ。
改めてすごいことなんだなって思う。
気持ち理解してるんだね、青。失礼なこと考えた私が恥ずかしくなった。
「できたぞ」
羽織っただけじゃなくて、ちゃんと着付けられた状態になった。
「ありがとう」
「髪はアップにするか、そのまま流すか?」
「アップでおだんご」
化粧台の前に座ると青が櫛で梳いてくれる。
さらさらと輝きを増す髪。
自分でやるより綺麗になる気がするのは何故。
同じことをしてるはずなのに、不思議。
「青も着替えるんでしょ?」
確認ではなくおねだり。
あからさまな私に彼はどんな反応をしたんだろう。
今は、髪型をセットしてもらってるから動けなくて、見られないのが残念だ。
ふうと息を飲む気配が伝わる。
「ああ」
「うふふ、待ってるから早く着替えてきてね!」
ルンルン。歌い出しそうなくらい軽やかな口調。
いかにも御機嫌だというのを主張しているみたい。
ぽんと肩を叩かれて、鏡を見つめると髪を結われた私がいた。
頭の上でしゃらんって音を立てて飾りが揺れる。
「やっぱりこの隣りには紋付袴姿よね」
かなり興奮していた。
「着物の姿のお前の隣には俺しかいないだろ」
振り返れば自信たっぷり、不敵に笑う青がいた。
「う、うん」
もう一度肩に手を置くと、青は耳元で囁いた。
「よく似合ってる。綺麗だ」
「……あ、りがと」
青が着替え終わるのを待って二人で車に乗り込む。
和装の彼は、いつもに増して長身に見える。
お互い草履なのよね。うん、車の運転にも支障なさそう。
とか思ってたら青は草履を脱いでこちらに渡した。
「後ろに置いてくれないか」
「はーい」
草履で運転は青的に許せなかったようだ。
足が汚れることよりもビジュアルを優先するなんて、青らしいというか。
道路は案の定、混み合っていて渋滞に巻き込まれた。
皆、初詣に行くのだろうか。
顔を傾けて横顔を覗き込むと髪飾りがしゃらんと揺れた。
運転に集中している時だろうが、私の視線に青が気づかない時はない。
こっちを見たりしなくても感じ取れるのだ。
「…………チッ」
「なあに青」
普通に聞き返した私に喉からのくっくっくって笑い声が……。
「舌打ちにツッコむなよ」
「え、ああそっか」
だって滅多にしないから慣れてないんだもの。
別に嫌な感じじゃないしもう一回くらい聞かせてっていうのも変かな?
「苛々して悪い。久しぶりの沙矢とのデートが……」
溜息混じりに青はステアリングに突っ伏した。
色素の薄い髪が光に透けてる。
「思いっきり高速ぶっ飛ばしたい気分だ」
しみじみ呟く青に笑みが浮かぶ。
「……ふふ、五月くらいにどう。約束を果たすわ」
「今から探しておくか、ホテル」
「よ、よろしくお願いします」
笑いを含みながら言う私を青は腕を伸ばし引き寄せる。
ハンドルから手を離して大丈夫なのかな。
前列の車の人が、振り返ったら恥ずかしい。
「心配するな。渋滞はまだまだ抜けられそうにない」
体を硬くしている私に青が、耳元で囁く。
「え、でも」
「時間有効利用しなきゃ駄目だろう。ただでさえ俺たちは遠回りしたんだから」
いや確かにそうですけども。
「青……ちょっと……待っ……」
あまりにも近すぎる距離にいるせいで頬やら
首筋やら吐息がかかってしまい、思わず身を捩らせる。
私の反応を見て気をよくしたのか青の行動は更にエスカレートしてゆく。
首筋に触れる唇に、声が漏れそうになる。
「待ったらどうなるんだ」
ダイレクトに響く青の声。
心臓にまで届いている気がする。
「最後までするわけないだろ」
中途半端に煽られるのも辛いのよ!
とか考えてる私もそろそろやばいかも。
すっかり毒されてるわ、もう。
「あ……っん……」
遂に漏れてしまった声に慌てて口元を押さえる。
青は構わず首筋を吸い上げてる。
「姫始めの意味は?」
「新年最初に男女が交わること」
「もう一つは?」
「きゃっ」
耳を噛まれた。かぷって食べるみたいに。
「痛いけどそれよりも気持ち良さが勝ってる」
「素直になったな」
本気で感心しているらしい。
「はぐらかさないで。答え教えてくれないの」
「新年最初に姫飯……柔らかく炊いたご飯を食べること。
まあ平たく言えばおかゆだな」
「新年じゃないと姫初めじゃないの?」
「一年が始まって最初にするって意味で良いんじゃないか」
口元を緩く吊り上げた青に、墓穴を掘ったことを感じた。
「医者が日曜日休みでよかった。ついでに土曜日も半日勤務だし」
「え、どういう……」
「姫始めが楽しみだな、沙矢」
うわあ、未来が怖いよ。
「誘ったお前が責任取れよ」
青は何度も攻めまくった。
「半年分一気か、毎日少しずつとどっちがいい?」
「毎日って何!?」
「妊婦には適度な運動が必要だ。この際、水泳でも始めるか? 体力つくぞ」
止めを刺されるとシートに沈むしかない。
体力つくぞ=堪えられるようになれってことで。
口をぱくつかせる私に青が、意味深に微笑んだ。
私と青が車内で他の車を気にせずいちゃついている間に
ようやく渋滞を抜けてスムーズな流れになった。
青はちゃっかり良い時間過ごしたなと言いながらギアをチェンジしアクセルを踏み込んだ。
車は高速を走ってなくても私の心臓は、高速に動いてる。
昨日から頭も心も高速回転です。ああ、元旦早々……。
相変わらずな私たちに苦笑した。
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