パンドラ


開けてしまった禁忌の扉が閉まらない。
戻れない道を突き進む私に待っているのは地獄か、
それとも……。

頭も体も理解していたはずだけれど、
感情が言う事聞かなかった。

心にだけは逆らえないのが人の性。
だって好きという気持ちに嘘はつきたくない。
予期せぬ出会いで、無防備な私は堕ちていったけれど、
始まりがどんなだろうと関係ないのだ。
その人が幸せならそれでいいんだもの。


会えない日々は、歯軋りをしてやり過ごす。
狭いはずのシングルベッドが、異様に広く感じる。
そこに横たわるのは私ヒトリ。
彼はいない。
熱を与えてくれるあの人ー青ーはいない。
だから思い出すの。
抱かれた時を思い浮かべるの。
宙に腕を伸ばそうが虚しく空を切るだけで、
温かい背中はありはしない。でも……。
鏡に映せない自分の姿がそこにあるだけだ。
ああ。私、何してるんだろうなと我に返って
慟哭を繰り返しているわ。
寂しいよ。
会いたいよ。
惨めね、私。
それでもあなた以外と夜を過ごしたくないもの。
寂しいからって、他の誰かに身を任せるほど
私は愚かでも安い女でもないのよ。
好きでもない人に抱かれたくないもの。
パラドクス?
矛盾しているのかもしれない。
確かに私は出会ったその日にあの人の前に 身を投げ出したわ。
青は、ぎりぎりの所でモラルを守って、 私を大切に扱った。
こちらを気遣ってくれたから 好きになった。
自分勝手に抱かれたのではないから。
普段見せない純情な顔を時折、あの人は
見せてくれる。昔馴染みの歌を流し、口ずさみながら、
子どものように笑う。
そういう彼も好きなんだ。
滅多に見せてはくれはしないが。
危ない恋。
人って危険な道ほど迷い込みたくなるものだ。
子どもの頃よく、ここは危ないから通っちゃいけませんという
道を通りたくなったものだが、それと一緒だ。
十二時になっても魔法は解けなくて、
再会した時、想いが膨れ上がったのだ。
会うたびに想いは募るばかりで。
きっとあの人は私が深みにはまることを恐れて、会わない
約束をさせたんだ。まさか逆効果になるとはね。
もう逃がさないから。
私を本気にさせたこと後悔させてやるわ。

既にもう手遅れじゃない?
会う回数が増えてきたもの。
本当の恋人になれたということかな。
形も見えない愛人みたいな関係じゃなくて、
ちゃんとした想いの通い合ってる二人になれたのかしら。
そうだといいな。


夜空に浮かぶ月が私を見ていた。
ヒトリ眠る私を見つめていた。
冴え冴えとした光は決して冷たくはなく、
私は一人じゃないと教えてくれる。


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