SHINE



 この部屋には、ベッドサイドのランプなんてない。
 豆電球があれば十分だと思い、用意しなかった。
「……照明落として」
 キスで掠れた声で、請う。
「明るいままでも構わないだろ。俺の醜い所も暴いてしまえばいいよ」
「あなたに醜い部分なんてないわ」
 全てにおいて、醜悪さなどないのだ。
 男性の怖い部分も彼だと魅力でしかない。
「可愛いお前を一日中ベッドに縛りつけていたい。
 醜い欲望が、渦巻いているのさ」
 どきん、彼の言葉に反応して神経が高ぶる。
 平静は口にできない言葉を、自然と唇がつむぐのだ。
「その欲望なら私にだってあるわ。おあいこなの。
 あなたの腕の中で目が覚めなければいいのにって」
「朝が来なければいいのにじゃなくて? 」
「朝が来ても、目が覚めなければ夢の中にいられるでしょ」
「俺は夢の中じゃなくて、現実でお前を抱きたいけど。
 目覚めないどころか寝かせてなんかやらないし」
 頬をなでる指先が、くすぐったい。首筋に触れられて肌があわ立つ。
 ボタンがはずされる音を聞いて、顔を覆った。
「恥ずかしがる余裕がまだあるのか」
 低音のささやきが耳に落ち、私は本格的に侵略され始めた。
 鎖骨の上をきつく吸われる。
 躊躇いなく、背中で外されたブラジャーは床に放られる。
 覆い隠したくて彷徨わせた腕は、ベッドに縫いとめられる。
 片腕なんて器用すぎる。何で同時に色々できるの。
「小さい手じゃ見え隠れして逆にヤらしいな。
この間一人でヤったから分かるだろうけど」
 ニヤり。笑う気配がした。
「っ!」
「その仕草止めろ。どうせ誘っているようにしか見えない」
 頂きが、歯に挟まれて、声にならない声を上げる。
 駆け抜けるのは痛みよりも強い感覚。
 舌は、膨らみの上を這う。彼の瞳は私を見ている
 潤んだ視界では、何もつかめない。肌で感じ取るのみ。
 ちゅ、と音を立てて、吸い上げられる。
 私は声に鳴らない声を上げた。
 腰が浮いていることに、長い腕に押さえつけられて気づいた。
 は、と吐息を漏らす。
「奔放だな。俺がそうさせたんだけど。
 夜だけ奔放で普段は清純ってのがいいな」
 胸元で話すから心の中まで撃ち抜かれるみたい。
 膨らみを包み込んだ手のひら。小刻みに動かされる五本の指。
 中指で弾かれて、背をのけぞらせた。
 ふくらみを強く揉まれる。指先で、両方の頂きを捏ねられる。
 気持ちよさに眩暈がする。
 薄っすらと開いた唇に、キスが落ちる。
 啄ばむキスの音とは別の音も、している。
 耳朶に這う舌先。歯を立てられると、ぱっと火花が散った。
「……っあ……あん」
 沈む体を投げ出した私の視界には、ゆらりベッドを降りる彼の姿がある。
 息を整えていると彼が戻ってきた。
 ほろ苦いタバコの香り。紫煙が、立ち上る。
 半端に吸った吸殻を、灰皿に押しつけて、再び口づけてくる。
 混じるタバコの味。苦手だけど大好きな彼の香り。
「もうすぐ止める。俺の唇はお前が塞いでてくれるから必要ないんだ」
「何でそんなにドキドキさせるの」
「俺もお前にドキドキしてるんだぜ」
 膝を割られ、隙間なく密着した体。早く来てほしいと彼を呼んでいる。
 いつの間にやら素肌が、ぶつかっていた。
 長い指が、秘所の真上で硬い蕾を押し潰す。
 溢れるしずくを塗りつけて、快感を導く。
 何度か擦られるのを感じた後、柔らかな髪が、触れた。
 足を開いて、恥ずかしい姿をさせられている。
 腿の内側から踵まで唇が、辿る。
 敏感な場所を突かれるまで、しばらく時間がかかった。
 吐息を弾ませて、彼を待ち受ける。
 やがて熱の塊が、私の入り口に、押し当てられた。
「これでもつけてるんだけど、分かる」
「聞かないで……よ」
誕生日が来て20歳になったら、ピルを飲み始める予定だ。
 その時は、直に抱かれることを望んでもいいだろうか。
 朝は来ようが、私たちの夜は中々終わらない。  勢いよく奥を突かれて、甘い叫びを上げた。
 背中にしがみつく。短く切った爪でも、しっかりと跡が残っただろう。
 低い呻きが聞こえ、ゆるやかに抽挿が始まる。
「お前もう少し自分を意識しろ」
 いきなり、激しく貫かれた。
 耳を塞ぎたくなるような、二人の交歓を示す音。
 体勢が入れ替えられて、彼の足を跨ぐ格好になる。
「……ああっ」
 ず、と音がし、沈んでいく。彼を飲み込む。
 先ほどよりも深く当たるソレに、呻く。
 奥を突いた彼は、内部をかき混ぜた。
 腰を揺らして、彼を導く。包み込むように、きっと絡んでる。
 啼いて、泣き叫ぶ彼の名前。
「青……ああ……っ」
「恐ろしいほど綺麗だ。汗も、涙も、お前の奥から溢れる物も」
「何言ってるの……変態だわ」
 口元から笑みがこぼれる。抱き合いながら笑うなんて。
「雄の本能が言わせてるんだ。しょうがない」
 この人は、こういう時とてつもなく恥ずかしいことを言うのだ。
私も理性なんて邪魔なものを消し去っている。
「もしかして、体の具合が悪い時って」
「知ってるじゃないか。種の保存本能ってやつで性欲が増幅するのさ。
 死ぬ前に、お前と繋がれたら本望だな」
「っ……やだ……あ」
 擦れて刺激が走る。腰が、砕けるかと思った。
「それは、悲しいな」
「そのことが嫌なんじゃないわ……あなたのせいよ」
「やだは、イイってことだろ。止めないでと言え」
「っ……もう……無理」
 蕾に触れるように動かされ、腰から体全体に痺れが広がっていた。
「女の固くなるこの部分って、最高に感じやすいよな。
 そりゃ男のそれ……と」
「い、言わなくてもいいわ……いや……っん」
 擦りあげられて、体が傾ぐ。
 青の言おうとしたことを察し、余計に感じてしまった。
 何で分かってしまったの。すっかり彼に染められてる。
「ん……ぅ」
「イヤラシイ顔だな」
 もう何も聞こえない。体から起こる波が、激しく打ちつける。
 繋がったまま彼の体の上に倒れる。大きな手のひらが、ふくらみを押し包む。
 きゅ、と立ち上がった頂を潰され、荒々しく揉みしだかれた。
 じゅん、と潤った場所が、彼と共鳴する。
「あ……あっ」
「沙矢……くっ」
 体同士で会話しているみたいに、溶けて混ざり合った。
 収縮するのは、彼自身と、私が彼を受け入れている場所。
 たくましい胸元に引き寄せられる格好で、崩れ落ちた。
 私は彼を感じて昇りつめ、彼も私の中で果てた。
「ん……」
 伸びをしようとしてもできない。
 ふと確認すれば未だ抱き込まれたままだ。
彼は下着を履いているようだ。
 事後処理まで、きっちりしてくれている辺り恥ずかしい。
 それでもシーツには、昨夜の激しさを物語る証が残されているけれど。
 目も当てられず、そっと横に転がる。
 巻きついた腕の持ち主も同じく横向きになった。
「なんか当たってる」
「口に出すんだ。へえ」
 喉で笑われて、急いで布団を引き被った。
 腰の辺りに触れてくる物は、大きく硬い。
「お前から若さのエキスをもらって  俺はどんどん若返ってるな。
お前の側で寝てたら、してなくても状態は変わらないだなんて」
 満更でもない風に言われ赤面した。
「元々若いじゃない! 」
 綺麗に年齢を重ねているというのだろうか。
 褒めたのに、何故わざと腰をくっつけてくるの。
 彼は上半身裸で、私は何も身に着けていない。
下着越しに押しつけられて、声が漏れる。
 膨らみは背中から回された手に、やわやわと揉まれていた。
「っあ……やめて」
「まだ4時だよ。
寝ようと思えばまだ時間はある」
「ね、眠らせてください」
「どうしようかなあ」
「うう……」
 このまま触っていてほしい気持ちもあって葛藤する。
 流されてはいけない。そう自分に言い聞かせる。
「うそ、冗談だよ。俺はもっとお前と戯れたら
 もっといい仕事ができそうだけど、沙矢は逆に何かやらかしそうだ」
 巻きついていた腕が離れ、彼の方に体を向ける。
「あなたの責任よ」
 自分から抱きついて、ことん、と頬を預けた。
 柔らかく包み込むように抱きしめられて、瞳を閉じる。
「さすがに平日に三度は危険だな」
 眠りに落ちる間際不埒なつぶやきが聞こえたが、
彼の甘い声は眠りへ誘導してくれるようだった。
 ごろりと身じろぎすると、おおよそ朝にはふさわしくない  甘い声が耳に落ちてきた。
「おはよう、沙矢」
 頬には唇が押し当てられている。
 確認すれば自分は、素肌にパジャマを着ていた。
「……おはよ」
「コーヒー作ったよ。朝食は昨日の夕食が残ってたな」
 くすっと笑っている。大好きな顔だ。
 目を擦りながらこくんと頷く。ぽんぽんと肩を叩かれた。
 青は私を起こすと扉を開けて手招きした。欠伸が出る。
 シャワーの後着替えるため、ブラウスとスカートを持ち後に続く。
 青からは、シャンプーとボディーソープの匂いがする。
 カフェの店員みたいなエプロンをワイシャツの上からつけていた。
(色はこげ茶か。コーヒーみたいな色もいいなあ。
 こんな色っぽい店員さんがいたら、裸足で逃げるわっ)
 ダイニングキッチンへ行くと、コーヒーの香りがした。
「どうした。貧血か? 」
「……だるいのよ」
 頭がぼんやりする。未だ快楽の海に沈みこんでいるのだろうか。
 ぶるぶると頭を振る私に、笑う気配が伝わる。
「マジで飽きないな」
「お風呂に入ってくる」
 ふらふらと廊下を抜ける。
 洗面所(と呼ぶにはおしゃれで広い空間だ)で、鏡に映る自分の顔を見た。
「……お肌がつやつやだわ」
 ぺたぺたと頬に触れてみたり額から首筋までを辿ってみた。
 どうやら、抱かれた後はぴかぴかに磨かれているらしい。
 細胞が活性化しているのだ。
 ぱしゃぱしゃと顔を洗う。お化粧のノリはよさそうだ。
 軽くシャワーを浴びなければ。
 パジャマを脱いで、ラックから、タオルと下着類を出す。
 バスルームの扉を開ければ、青の使った後の熱気がこもっている。
 ボディーソープを泡立てて、体を洗う。
 頂や、秘められた部分に触れた時少ししびれた感覚がした。
(や……やだ。朝から! )
 まだ、感覚が残っていて敏感になっているらしい。
 そっと肌に触れて、何とか体を洗い終えた。少し時間をかけてしまったかも。
 頭を洗って、タオルを巻く。バスタブに浸かる。
 彼が、キッチンのスイッチで追い炊きしてくれたのだろう。
「ふう……」
 今日はあの部長の顔を見てしまうのか。
 少し憂鬱だが、青の笑顔を思い出せばがんばる。
 恋がパワーをくれるのであり、公私混同ではない。
ブラウスを着て、スカートを履く。
   いつもの手順で、お化粧をした。
「今日もがんばるわよ! 」
 拳を握り締めて気合を入れたのは、こっぱずかしさをごまかす為だった。
 人は単純な生き物という事実を思い知ったから。




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