×××(キスキスキス)
ずっと一緒にいたいと願った人と共に迎えることができた聖夜。
カーテンの隙間から零れる朝の光の眩しさに目を細める。
ベッドを抜け出してカーテンを開けると
すべてを塗り替えるような白が目に飛び込んできた。
「綺麗」
去年のクリスマスは、菫子と涼と伊織の三人でクリスマスパーティーをした。
彼はは内心二人きりがよかったんだろうけど、
薫と別れたばかりなのにけじめついてない気がしたから、断固三人で!と主張した。
伊織は、二つ返事でOKしてくれた。
友達三人での賑やかなクリスマス。
カラオケ行った後、菫子の部屋に集まってケーキを食べて、楽しいひと時を過ごした。
今年のクリスマスイヴは、初めての二人きりのクリスマス。
同じ夜は何度となく越えたけれど、クリスマスはやはり特別で、気持ちも違った。
ベッドライトの薄明かりだけに照らされて寄り添い合っていた。
窓から見える景色は真っ白な世界が広がっている。
「くしゅん」
「寒いんやろ? 」
「へ、平気」
隣りには涼がいる。
シーツを被って巻きつけてるだけの格好で。
我に返ると照れるからどうにか平静を保とうと必死ったが
表に出ているかは自信がなかった。
「雪の上に光が降りてるみたい」
「あの白が反射してるから余計明るいんやな」
いきなり、触れたそこから電流が走った。
「ひゃあ」
「ん? 」
「だって……」
からかって笑われるのに違いないから、菫子は、むっと口をつぐんだ。
肩がふいに触れて心臓がどくんと跳ね上がったのだ。
昨夜……いやほんの数時間前までの情熱的な時間が
まざまざと蘇って、頬が火照り全身にまで火が灯っていく気がした。
額、頬に唇が降りてきて首筋にちくりと甘い感覚。
「りょ……うちゃん」
あの波に攫われる予感。
どきどきとうるさく鳴る心臓は、彼に再び愛されることを待ち望み
期待しているから。
ひょいと抱えられて、ベッドの上に横たえられる。
気づけば自分の頭の横に涼の頭があって、耳元から首筋に淡い熱が走る。
ゆっくりと誘われていく。
肌を指が辿る度、動悸がどくんどくんと鳴った。
指を噛んで、身悶える。
「また写真撮ろうかな」
「や……やめてよ……ド変態」
「冗談や。俺の瞳と心にだけ焼きつけとくことにする」
リップノイズ。
触れては離れる唇がもどかしくて、強請るように突き出す。
指が、唇に触れてこじあけた。
キスをし、湿ったそれが糸を引いた。
奇妙な快感が、目覚めて体を燃え上がらせる。
絡めて、送り合う熱い雫。
息が上がり、火照りをごまかせない肌が、涼を求めて騒いでいた。
「ええ感じに色づいてるで」
散々もてあそばれ、濡れて誘っているかのようだった。
羞恥以外に悦びも感じてしまうから、悔しいと思う。
揺さぶられて、体ごと揺れた。
唇と長い指が、肌の上を行き交い菫子の感じる場所ばかりを攻めた。
声とはいえない喘ぎが、響き、それに煽られるように涼の行為も一層激しくなっていく。
膝を立てられ、開かれる。
声を上げて、崩れ落ちた時長い腕に抱きとめられていた。
髪を梳かれているのに気づいてぼんやり眼を開ける。
欲情に濡れた瞳が、菫子を射抜き、絡め取った。
焦がれて、欲していたのだろう。
お互いに視線を交わして頷いて抱擁した。
鋭い衝撃とともに、涼を受け入れる。
はじめはゆっくりと、菫子の声のリズムが変わるのにつれ、
涼の動きも早くなっていく。
荒い息を貪るキスで封じて、夢を見るようにお互いの世界に没頭していた。
「……やっぱ綺麗や」
「ん……涼ちゃんの腕の中でだけ綺麗になるって言ったじゃない」
「ほんま、ニクらしい女やな」
「っ……や……」
「ええんやろ」
試す動きに、思考があやふやになる。
夜を重ねる度に、彼は饒舌になった。
愛し合っている時は普段よりおしゃべりではないが、
絶妙のタイミングで話しかけてくるから性質が悪い。
狙っているとしか思えなかった。
「いくか?」
ぎゅっ、と手のひらを絡め合わせる。
荒波の中、二人で打ち上げられる。
二度目の行為は、登りつめるのも早く、
最初よりも気がおかしくなりそうだった。
(眠いなんて言ったら子供扱いされるよね。
だけど眠い。お腹いっぱいな上にアルコールまで摂取しているんだもの)
二人で食べきるにも大きいサイズのケーキをしっかり平らげ、
シャンペンまで飲み干してほろ酔い加減で、仄かに頬を染めていた。
菫子の部屋より幾分広い涼ちゃんの部屋でクリスマスパーティー。
口いっぱいにチキンを頬張り、頬に生クリームまでつけた姿で、
涼がにっこり笑う。
こちらを見てつんつんと指を指している。
「何が言いたいの? 」
ぐいと引き寄せられ、顔と顔が接近する。
唇が涼の頬を掠めていた。
触れてしまったら開き直るしかない。
そのまま唇を押付けて、クリームを舐め取ると、涼はえらく満足気に髪を撫でた。
「来年はもっと積極的になってくれることを期待」
「無理」
「俺はこんなに積極的に愛を示してるのになー、
恥ずかしがらずに素直になろな」
唇が奪われる。生クリームの甘い匂いが広がる。
イチゴの甘酸っぱい味なんてとっくに消えていた。
絡められた激しい熱に、翻弄されていく。
この行為に夢中になる。
必死で涼ちゃんのセーターの袖を掴んだ。
二年前は、こうして涼ちゃんといる未来を想像できただろうか。
友達ではなく恋人として。
兄のように頼ってしまったり、
情けない姿に一緒にいて支えてあげたいと思ったり、
とことん飽きない。かっこよい所もあればへたれだったりする。
色んな面があって面白味があるからずっと一緒にいたいって感じる。
過去を回想している隙に、涼が菫子に迫って来ていた。
いたって真顔で、顎に触れ、奪い去ろうとしている。
着ている物から心まで全部。
「ちょっ……」
望んでいるのに抗ってしまうのは、好き勝手に
振舞われることにストッパーをかけているということだ。
なけなしのプライドと意地で、嫌がってみせる。
腕に引っかかっているだけで着てないのと同じ状態の衣服に顔を真っ赤にしながら上目遣いに睨んだ。
いつもよりも強引な様子に一瞬怯むが、すぐにペースを取り戻す。
「寒い! 」
「すぐ熱なるわ」
「ん……っ」
再び濃厚な口づけ。
腕を掴まれ身動きが取れない。
涼は菫子をを見下ろしていた。
視線が降りている場所は考えたくない。
身長差の所為で、ちょうどいい位置に来るのではないかと思い至った。
「……りょ、涼ちゃんのえっち」
敏感な場所に火が灯る。
そこから全身へと広がる熱。
自然と濡れてしまう声に、涼は満足そうに笑った。
「すみれも同罪やろ」
「な、なんで」
ニヤリ。口の端を持ち上げる涼ちゃんを引き剥がそうと試みるが
無気力の抵抗では、太刀打ちできない。
嫌じゃないのだ。
身も心も悦んでる。
どんなに心地よい熱を与えてくれるか知ってるから。
相手が欲しがってるのと同じで、
自分も欲しがってるってこと見抜かれてるから
いつだって翻弄されてしまう。
「悪いな、董子。そんなとろんとした目されたら逆効果や」
耳元で囁かれた涼の声は通常の100倍位甘く聞こえた。
「愛してる」
「俺も董子をめっちゃ愛してる」
強い引力で引き寄せられて、背中に爪を立てる。
確かにすぐ熱くなった。
これはずっと醒めない熱だ。
朝が来ても、この恋が続く限り。
「……馬鹿! 」
「うわいきなり何や。雰囲気ぶち壊しやな」
何で私この人好きになったんだっけ。
浸っていたのにいきなり現実に戻された。
「そんな所に顔埋めて言う台詞じゃないでしょ! エロ!」
「男のサ・ガ」
語尾に音符でもついてそうだ。
「開き直るの……っあ」
「董子、自分の魅力に気づいてないんやな」
顔から火を吹きそう。
もうこれ以上反論する余裕はない。
「最高」
耳元にささやきが降った後、キスを贈られる。
きっとどんなお菓子よりも甘いキス。
抱きついたらもっと強い力で抱き返されて、
思わずうっとりしてしまう。
温かすぎてどんな暖房もいらない。
触れあえば、温もりを感じられる。
「嬉しそうな顔」
涼が頬を軽く摘んできたので
同じようにやり返す。
お互い変な顔で笑い転げる。
至近距離に大好きな人の顔が迫ってるのって
とてもドキドキして、胸が高鳴る。
視線も近く、吸い込まれていく感じだ。
じっと瞬きせずに見ていたい。
「おっきな目」
菫子は手を離したが、涼は未だこちらの頬を包み込んでいる。
大きくて骨っぽい手で。
「そう? 」
「ああ、董子の好きな部分の一つ」
「真面目な顔して言わないでよ」
「そっちこそ茶化さんで聞けや」
「だって、ドキドキするんだもん……心臓壊れたらどうするの!」
理由にもなってないのは重々承知だ。
「ぷっ……董子はほんまかわいいなあ。今まで何回も壊れてるやろ」
指先で頬をつつかれる。
頬を膨らませるのって子供っぽいのに、
何故かやってしまう。
「また壊れたら、ええやん。そん時は俺の心臓も壊れてるから」
クサいけど、嫌いじゃなかった。
嬉しくなって飛びつかんばかりの勢いで擦り寄った。
髪を撫でる手が気持ちよくて、眠りが忍び寄ってくる。
「おやすみ、俺のすみれ」
呪文のような言葉に、意識を手放した。
すうすうと吐息が聞こえてくる。
寝顔さえ笑みを刻んでる董子に、頬が緩む。
すみれって呼ぶのは菫の漢字が含まれてるだけじゃなくて、
隣に咲いていた小さな花だって意味があるって
いつか言ってやろうかな。
知ってるか、菫はアスファルトの地面でも
力強く咲くんや。
董子はそんなけなげな強さを持っている。
俺には本当は、勿体無いくらいの女。
移り香を感じて嬉しくなる。
あまくて、董子の香りやって実感できるから。
董子にも俺の香りが届いてるやろうけどな。
一人で笑ってるなんて気味悪いかもしれへんけど。
恋愛してると馬鹿になるやろ。
これが普通やって。
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