クライヴはルシアの腕を引いて階段を上がる。
 魔方陣を描いたあの部屋まで戻る為。
 痛いほど強く腕を引かれているがルシアは、苦しそうな表情を見せない。
 自ら望んだことだからだ。
 クライヴは嘲笑を浮かべていた。
 素直で純粋で穢れない魂は逆に痛みを呼び起こす。
 ルシアは柔らかく微笑んだ。
 クライヴは、階段を駆け上がり、その先の扉を開けた。
 結界が張られたままでも通れるのは結界を施した本人とその従者だけだ。
 薄暗さは相変わらずだが、不思議と小綺麗な場所である。
 壁にしつらえた蜀台の明かりが煌々と燃えている。
 クライヴは、ルシアの腕を離すと東方の壁に向かって歩き出した。
 ルシアも一定の距離を保って後をついてゆく。
 クライヴは壁に手を触れると呪文を唱えた。
 ぱっと見ただけでは普通の壁だが、なにやら仕掛けがあるらしい。
 壁は淡く光り、押すと音を立てて開いた。
 ルシアは目を瞠っている。
 こんな場所があったなんて。
 部屋のほとんどを大きなベッドが占めている。
 クライヴは脚が竦んでいるルシアの腕を掴む。
「怖いのか? 」
 何がなんて愚問だろう。
「いいえ」
「もしかしていつもここで寝ているんですか?」
「そうだ」
「クライヴって神出鬼没ですよね」
 突然いなくなったと思ったら、いつの間にか側にいる。
 瞬間転移で、自由に城内を行き来できる彼は、ルシアを  いつも驚かせていた。
 ルシアの気も知らずクライヴは平然としているのだが。
「得体が知れないんだろう」
 クライヴは無表情だった。
 一日ずっと側にいるわけじゃないから、彼の行動を把握しているはずもないのだ。
 もっと、知りたい。けれど怖い。相反する気持ちがルシアの中で鬩ぎ合う。
 クライヴはくいと顎を持ち上げて正面からルシアを見つめる。
 吐息が触れる程の近距離にクライヴの顔があってルシアの胸が高鳴る。
 うるさいくらいに鳴り響く心の臓。
 騒ぐ胸を右手で抑えるとその腕は、クライヴに捕らえられる。
 一歩後ずされば、とんと壁に体がぶつかる。
 壁に両腕をつき、ルシアの体を閉じこめた。
 耳に息がかかるとかあっと体に熱が昇った。
 顔を背けようとしても、鋭い瞳が許してはくれない。
「クライヴ……」
 ルシアは名前を呟いて見上げる。
 何を考えているか分からない紺碧が、青い瞳を映す。
「歳はいくつだ、ルシア?」
「17です」
「まあそれくらいか」
 納得したクライヴは再び詰問を投げる。
  「恋人はいたのか? 」
「いいえ。ずっと憧れている人がいたけれど、
 彼は姉と結婚してしまいましたから」
「その男が好きだったのか? 」
答えるまで逃がさない。瞳が語っている。
有無を言わさぬ口調と、射抜く瞳。
 クライヴ自身未だ自覚していないが、あからさまなルシアへの執着だった。
「好きとは違ったかもしれない。あの人が姉と結婚しても
 それほど心が騒いだりしませんでしたから。今こうやって目の前にいる
 あなたの方が余程、私の心を掻き乱しているわ」
 クライヴを見つめ、瞳を揺らしたルシアは、眩しい光を全身から放っていた。
 クライヴはルシアの髪に指を差し込んで、梳いた。
 柔らかな髪の感触。甘い匂い。
 身を任せているルシアが瞳を閉じる。
 髪に触れられて気持ちがいいのだろう。
 唐突に体を引き寄せて掻き抱いた。
 華奢な体がすっぽりクライヴの腕の中に収まる。
 恐る恐るクライヴの背に回された腕は緩やな力を持ち、こみ上げる衝動を抑えられなくなっていく。
 少女は紛れもなく女。
 清廉な外見に秘められた何かを暴いてみたい。
 指を口に含ませて、唇をこじ開ければ、自然と淫らな表情になる。
 クライヴが望むものにはまだ及ばないが。
 指を取り出して唇の輪郭をなぞる。
 唾液が唇に塗られ、歪に光った。
 濡れた唇に誘われて舌を差し入れる。
 歯茎をなぞり、彼女のそれを探り出し絡ませる。
 激しい口づけに慣れていないルシアは、苦しそうな吐息を漏らす。
「ん……はあ……っ」
 肩で息をしながら必死に口づけに応える様にクライヴは煽られる。
 処女の清らかさとはなんと恐ろしいのか。
 無垢であるからこそ、これから自分が色々教えてやることができるというもの。
 おずおずと差し出してくる舌に己の舌を絡ませる。
 少しずつ追いつめて、ゆっくりゆっくりとベッドに近づける。
 距離を詰められ戸惑うルシアの体を指で、とんと押した。
「あっ」
 ベッドの上に倒れこみ、ルシアは瞳を揺らす。
 シーツに肘をついて拘束するクライヴを見上げる。
「俺は壊すことしか知らない。それでもお前はいいのか」
 逃すつもりなど毛頭無いくせにクライヴは問いかける。
 艶笑を滲ませて。
 yes,mymasterと心の中でルシアは唱える。
「私は壊れません。嘘だと仰るなら確かめてみて下さい」
 強い眼差しにクライヴは気圧され見惚れてしまったが、
 悟られぬよう瞬時に表情を変えた。
 口の端を吊り上げて、久々に抱く女はどんな声で啼くだろうと脳裏で思い浮かべていた。
「せいぜい楽しませろよ」
 クライヴは舌なめずりし、白い首筋に顔を埋めた。
 歯を立てて吸い上げれば赤い痕が浮かび上がる。
 白い肌に刻まれる鮮やかな赤を満足気に見下ろす。
 ルシアは手が白くなるほどきつくシーツを掴んでいる。
 強がっても未知の世界へと足を踏む出すことへの躊躇いがあることが見てとれた。
 だが、ここで救いの手を差し伸べる甘さをクライヴは持ち合わせてなどいない。
 しゅる。胸元に飾られたリボンを抜き取り、床に放り投げる。
 衣服の合わせが緩み、柔肌が見え隠れしている。
 乱れた衣服に手を入れて、柔らかな場所に指を這わせる。
 双丘を撫で上げて、感触を確かめると唇を首から胸へと移動させた。
 ルシアは羞恥に頬を染めて、慌てて腕を押しのけようとするが、
 クライヴは、キスで黙らせた。
 上唇を甘噛みし、吐息を絡ませて。
 無意識に労わっている自分にはっとした。
(らしくないな)
 胸の谷間に赤い華を散らしてゆく。
 次第に甘い声を漏らし始めたルシアに、ほくそ笑んだクライヴは、
 いきなり双丘の頂点をそれぞれ指と唇で刺激した。
「あ……はっ」
 片方は舌で転がし時には歯を立てて吸い上げて、一方は捏ねた後捻り上げる。
 ルシアの背中が弧を描いた。
(乱れろ。もっとだ)
 クライヴが、頂を擦りながら膨らみをやわやわと揉みしだけば、首を仰け反らせる。
 長い金髪がさらりとシーツに零れる。
 クライヴは笑みを刻みながら、衣服を剥ぎ取った。
 衣服を着ている時は華奢に見えたが、女らしい丸みを帯びた体をしているらしい。
 瞳を潤ませて訴えられても煽っている風にしか見えはしないのだ。
 露わになった白い裸身に、クライヴは自分の焦熱が疼くのを感じた。
 時々強い刺激を加えながら全身くまなく手の平を滑らせる。
 蕩けた表情のルシアは甘い吐息を紡ぐだけだ。
「いい声聞かせろ」
 胸への愛撫が再び始まり、秘められた場所に冷たい指が触れ、
 口元を手で押さえながら、ルシアは喘いだ。
 クライヴは、びくんと過度に反応する初々しい体が愛しくて
 狂おしくて、自分に歯止めを利かせられないのも道理だと開き直っていた。
「いや……やめて」
 首を振るルシアに、クライヴはますます楽しそうに口を吊り上げる。
「今やめたら余計辛い。お前は慣れていないだけだ。大丈夫だ直に慣れる」
 割れ目に指を突き入れて、花弁を撫で上げた。
 熱い泥濘は、クライヴの焦熱を欲しがっているようで、たまらない。
 彼の熱く張りつめたものも早く解放されたくて疼いている。
「……あああ……っん」
 花弁から蕾を探り当て爪弾くと一段と高い声が上がる。
 丹念に刺激を送ると硬く膨らんでゆく蕾。
 ルシアは、自然に漏れる声に今更ながらこの行為を意識する。
 恥らう表情がどんな風にクライヴに映っているかは知る由もなかったけれど。
 クライヴは、しどけなく開かれた唇にキスを重ねた。
 ひくひくと疼く秘所から手を外さないままクライヴは激しく口内を蹂躙した。
 互いの顎を伝い首筋に唾液が落ちる。
 蜜が零れる奥に指を入れて突き上げる。
 キスをしていた唇を離し、再び頂を口に含んだ。
 絶え間なく漏れる声は、毒のようだ。
 中に入れる指の数を増やして浅い場所を弄り回す。
「……っあ……!」
 クライヴがいきなり指を引き抜くとルシアは瞳を潤ませて見上げてくる。
「俺が欲しいんじゃないのか?」
 ルシアは、ますます涙目になった。
「どんどん艶っぽくなるな」
 クライヴの愛撫で色香を滲み出させてきたルシアは明らかに先ほどまでの彼女とは違う。
 クッ。満足気な表情のクライヴは秘所に顔埋めた。
 髪の毛が、そこに触れた途端ルシアは体を揺らす。
 唇で花弁をなぞり、舌で膨れ上がった蕾に触れると
 すすり泣くような声を上げて、体を大きく仰け反らせた。
 意識を飛ばした体は弛緩している。
 感じることに慣れていないこともあり、コントロールできないのだ。
 慣れれば、イク感覚も掴めるはず。

「気がついたか」
 ぱちりと目を開くと見下ろす瞳がある。
 ルシアは自分がどうなってしまったか理解して顔を真っ赤に染めた。
 よく見ればクライヴも衣服を脱ぎ去っている。
 黒い長衣も何もかも取り払ったクライヴはルシアを強く抱きしめた。
 肌同士の触れ合いに不思議な安心感を覚え、ルシアは瞳を閉じる。
 クライヴは頬を伝う涙を唇で啜った。
「……ん!? 」
 安らいだのも束の間だった。
 クライヴは、ルシアの膝を割り腰を間に入れた。
 初めて感じる男の焦熱。
 恐怖感が沸き起こったルシアはクライヴを押しのけようと体を動かす。
「それも煽ってるんだよ」
 クスッと笑い、クライヴは強引に腰を進めた。
 クライヴ自身を待ち侘びる濡れた場所に一気に焦熱を突き刺した。
「あ……あああああん! 」
 クライヴは最奥で一旦動きを止めてルシアの様子を見る。
 呼吸を乱し、肩で息をするルシアにそっと口づけを落とす。
 耳朶を舐めて舌を入れれば、背中に腕が回された。
 ルシアが落ち着いてきたのを見計らい、クライヴは動き出す。
「は……あ……っん」
 甘い嬌声に刺激され、最奥を掻き回す。
 狂いそうなのは、俺の方か。
「くっ……締めるな」
 離すまいと絡みついてくる女の本能。
 さすがに初めて男を受け入れた中はきつく、クライヴ自身も痛みを感じている。
 腰を緩やかに前後させ一番感じる場所を探した。
「あっ……ああ!! 」
 浅い部分に当てると甲高い声を上げた。
「へえ、ここがいいんだな」
突き止めた箇所ばかりを攻め続ける。
 律動を刻みながら、手は胸を愛撫する。
 薄く色づいた肌に汗が弾けていた。
 濡れた体はより艶やかで、刺激的だ。
 突き上げながら、硬くなった蕾を撫で回す。
 痛いほどに感じて、限界が近づいているのだろう。
 締めつけがより一層強くなり、クライヴは顔を顰めた。
 このまま、髪を振り乱し身悶える様を見ていたいがこれ以上無理を強いるのは得策ではない。
 自分の為にもルシアの為にも。
 まだ始まったばかりだ。
 これからも何度でもルシアを抱くことは、決定付けられた事実なのだから。
(最初はこれぐらいで堪えてやるか)
 クライヴはルシアの体を抱き上げると、一気に最奥を突き上げた。
「っ……あああああああっ」
 締め上げられ、クライヴは自身を解き放つ。
 ふわりとシーツに沈む体を抱きしめて、覆い被さった。
 名残惜しい気分に陥りながらも、繋がりを解く。
 自身は未だ硬度を保ったままだが、ぐったりと体を弛緩させているルシアに強制はできない。
「これで終わりじゃないからな」
 クライヴの挑発的な言葉に、ルシアが首を縦に振ったかに見えた。
 ルシアの顔中にキスの雨を降らせて、微笑みかける。
 クライヴとは思えない優しすぎる仕草。
 ルシアの背中に腕を回して抱擁すれば、ルシアは甘えるように抱きついてきた。
 汗ばんだ髪を指先で梳いてやると、ルシアは瞳を細めた。
 肘をついてルシアの寝顔を見つめるクライヴの眼差しは、愛しい者への眼差しだった。



「うう……ん」
 ルシアが瞼をうっすらと開くと隣には自分を抱いたまま眠るクライヴの姿があった。
 整いすぎた容貌は冷淡さを感じるものだけれど、寝顔は意外にも幼さを残していて無防備だ。
 欠伸を噛み殺し起き上がろうとすると、下腹部に激痛が走った。
 全身に漂う気だるさで、改めて自分がクライヴに抱かれたことを思い知る。
 強くなっていく想いにルシアの瞳から涙が零れた。
 恋の『好き』よりも深く重い感情。
「愛してます」
(甘美な牢獄に捕らえてくれたお礼に私があなたに愛を教えてあげます)
 クライヴは孤独な人だけれど、愛情が分からない人ではない。
 強引で、凄まじい波で翻弄しながらも端々に優しさが垣間見れたのだ。
 錯覚ではなく確信をルシアは強く感じていた。
 彼が、自覚していないならばちゃんと教えてあげよう。
 愛しているから、溢れる程の自信がある。
 ルシアはクライヴの手を握った。
 温かさが伝わるようにと願いを込めて。



2.契約の証     4.囚われの乙女
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