どうしてあなたじゃなくちゃダメ?  


 柔らかな光が、照らし出す。
 そっと手を伸ばし抱きしめれば、全身を光の渦が包み込んだ。
 朝の太陽のような黄金の乙女。
「ルシア……」
 身を預けてくるしなやかな体をきつく抱きとめる。
 少女を脱した美しい女は、ゆるやかに瞬いてこちらを見つめるのだ。
「クライヴ」
 澄んだ眼差しが、そこにはある。
「お前じゃないと駄目なんだ。 こんな気持ち生まれて初めてだ」
 どうしてなんだろう。
 飽きてしまうと思っていたのにあっという間に絡め取られた。
 年下の少女の魔力に。
「……まあ」
 くすくすと笑ってはにかむ可憐さがまぶしい。
「私も同じですよ?」
 腰にしがみつき、背中に腕を回してくる。
 金髪を撫でて、ひと房を掬い指に絡めることを繰り返す。
「大好き……」
「フン。俺の方がもっと好きだ。分かってるだろう」
 耳元に息を吹きかければ、身をよじる。
「っ……何するんですか」
「お前のせいだろ」
「人のせいにしないでください」
「無邪気に笑いかけるな。心臓に悪い。
 神経全部持っていかれるじゃないか」
「……クライヴだって、たまにしか笑ってくれないくせに
 私にばかり文句言わないでください」
「笑ってるだろう」
「そんな悪魔面じゃなくて、もっと優しくてふんわりした笑顔ですよ。
 似合うのに、何故もっと見せてくれないの」
 ルシアの勢いに、圧倒されて口をつぐむ。
「……そんなの俺が常に浮かべてたら逆に恐ろしくないか。
 自分でも受け入れられないんだが」
「いいえ全然。その後ろ向きの根暗っぷりどうにかならないんですか。
 こうなったら、天使の笑顔が自然になるように毎日練習です」
 ルシアはぽんと手を打った。
「は。何故そんなことをしなければならない」
「クライヴが万人に好かれるようにです」
 にっこり笑ったルシアが、腰に手を当てて俺を見つめる。
 いい考えだと言わんばかりで、溜息が出る。
「俺はお前にだけ好かれていればいいよ」
「くっ……殺し文句攻撃ですか」
 既によろめいているルシアは、きょろきょろと視線を彷徨わせている。
「本気だ」
 素早く口づけを落とすと、途端に大人しくなった。
 とろけた瞳で見上げている。
「仕方がないですね。お得意の意地悪な顔で満足してあげます」
「上から目線か……図太くなったな」
「私は生まれつき図太いんです」
 こんなやり取りも楽しく、日々が過ぎていく。
 丸めこまれたのはきっと俺の方だ。


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    恋十題by乙女の裏路地



     

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