024:くだらない
「…くだらないね」
苦労して流した噂をあまりにもあっさりと一蹴されて、正直なところ彼女らは落ち込んだ。
あまりにも遅々として進展しないクラスメイトの恋路のために、頑張ってやったというのに。
。
冷静な相手というのは、時として扱いづらい。
事の発端は、たまたま部活の帰りに恋愛話が巻き起こったことだった。
きゃあきゃあ嬉しそうに自分やら周りの人間やらの恋について語る友人を、はただ適度に相槌をうちつつ見守っていたのだが、
そのうちに「好きな人はいないの?」という質問の矛先を向けられて。
「いるよ。でも今は付き合いたいってほど本気で好きじゃないから告白する予定はないな」
と、さらりと答えてしまったのが始まりで。
日ごろからわりにドライな彼女の「好きな人」発言に一気にボルテージの上がった周囲に相手を聞きだされ、
果てはなぜか「私たちがを本気にさせてあげる」と、言葉の断片だけ聞いたら
誰が誰を好きなのかわからないような台詞が飛び交うようになっていて。
それから数日、今あいつに彼女はいないらしいだとかのこと嫌いじゃないみたいだよとかいろんな情報を
求めてもいないのに提供された挙句、「とは両思いらしい」とかいう噂まで流される羽目になった。
それでが返した反応が、「くだらない」の一言だったというわけだ。
「え〜、なんでよ?せっかくのチャンスじゃん!」
「両思いかもしれないんだからさ、これをきっかけに話とかしてみたら…」
「やっぱり、くだらないよ。そんなの」
あっさりと自分たちの努力を切り捨てられて、の友人一同は多少なりとも落ち込んだのだが、
このドライな友人はそういう性格だと分かっているからか、それ以上たきつける気にもならなかった。
それに、彼女たちは心のどこかで確信しているのかもしれない。
本気になったら、は周りの手なんてかりなくても会話でも告白でも簡単にできるだろうと。
は友人たちの興味半分の厚意に苦笑した。
「うーん、もしなんかあたしの心境に変化あったらそのときはちゃんと報告するからさ、
今すぐ付き合わせようとかその辺は勘弁してくれないかなぁ。」
そこまで言われて食い下がるわけにもいかず、一様に苦笑を浮かべて引き下がろうとした友人一同の中に
突然といっていいタイミングで誰かが割り込んできた。
「なんだよそれ。」
「え?」
いきなりの展開に、ぽかんとした表情を隠しきれない友人たち。
不機嫌そうな表情で女子の輪に割り込んできたその人を、は冷静に見上げていた。
「おはよう、」
「おはようじゃねーよ。なんでそんなに冷静なんだよ、やっぱりお前が俺の事好きだってあれただの噂なのか?
こっちは3ヶ月ごしの片思いが実るチャンスだと思ってわざわざ話しかけにきたのに!」
「え?」
「なんだよ驚いた顔なんかしやがってさ。俺がのこと好きじゃ悪いのか?」
突然語気の荒い質問をぶつけられたの友人の一人が、おろおろと首を横に振る。
その反応は別にどうでもよかったのか、はそのまままくし立て続けた。
「畜生、なんかムカつく。噂聞いて舞い上がってんのは俺だけかよ!くっだらねぇ。
おい!こうなったら絶対お前のこと本気にさせてやるからな!覚悟しとけよ!」
「あ、くん…」
呆気にとられっぱなしだった女子の群をかきわけて、顔を赤くしたが乱暴に去っていった。
突然のの大声に静まっていた教室も、騒然とし始める。
「…すごい、君本気だったね…」
「うん…びっくりした」
「………?」
「え?」
しばらく驚きに浸っていた友人たちは、我に返ってもう一度驚く羽目になった。
いつも冷静なが、耳まで真っ赤になって机に伏しているという珍しい光景のせいで。
お相手ご乱心。