内心
※乙女の夢を壊す恐れがあります。
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せめて、今だけでも。
難しい問題にわざわざ手を出して、普段間違わないような問題をいくつも間違えて。
彼女の行動の理由は、時折見せる寂しそうな表情が物語る。
時々時計を気にするのは、今日の授業が終わる時間を確かめているからだろう。
いつもどおりの冷静の仮面をかぶって「先生」らしく間違いを指摘すれば、彼女はしおらしくそれを訂正する。
訂正のときに淀まず答えるということはきっと、わざと間違えているんだろう。
(時間稼ぎなんかして…どうして俺に都合のいい状況を作りだすんだ)
あの日から彼女の態度が少しずつ変わっていったのには気付いていた。
成績が安定してあがり始めたのもちょうどあの頃からで、よく質問してくるようになった。
本人は隠しているつもりでも、素直な彼女に俺を騙しとおすことはできなかった。
「あ、ちょっと待って」
「はい?」
「時間過ぎてるんだけどどうする?」
さり気なく授業時間の終わりを指摘すると、彼女の瞳が曇る。
「えっと…もう少しで終わるんで、もうちょっとだけやってもいいですか?」
控えめに、伺いを立てるように返される予想通りの言葉。
俺はいつもどおりの表情を作って淡々と答える。
「分かった。…じゃあ塾長に言ってくるからそこ読んどいて」
「はーい」
延長を許可すれば、分かりやすく彼女の語尾は弾む。
向けられる純粋な好意に、後ろめたい思いが増す。
事情を知らない塾長に延長を告げると何の警戒心もなく許可が下りる。
受け持ちの生徒と一緒に塾長が帰ってしまえば、俺を止められるものがまた一つなくなってしまう。
手を出すなんて、いけない。
当たり前のことを頭で復唱しながら彼女をちらりと見やる。
教科書に視線を落としたままため息をつく彼女の姿に、ふっと身体に熱が上る。
<ベスト個別塾のです。いつもお世話になってます。
さんですが入試直前ということもあって少し不安があるらしく、過去問をもう一度解きなおしたいとの事です。
まだしばらく時間がかかりそうですので、授業が終わり次第こちらから連絡させていただきます>
自戒しているそばから、手が勝手に彼女の母親宛のメールを送信する。
彼女の母親を欺く罪悪感が胸元でジリジリ疼く。
それすらも背徳的な誘惑に見えてしまうのは、どうしてなんだろう。
<ありがとうございます。最後の授業まで延長していただいて、なんだか申し訳ないですね。
心配性なところのある子なので、励ましていただけると助かります>
ここで彼女の母親が娘を早く帰らせろと言ってくれれば、俺も少しは理性を取り戻したんだろう。
でもあれから1年以上かけて築きあげてきた彼女の家庭との信頼関係は、大学生の男と娘を二人きりにしておくことへの抵抗を
とっくの昔にどこかへ追いやってしまっていた。
俺が悪いんじゃない。
俺を信じた君の家と俺に恋をした君が悪いんだ。
自分の良心に言い逃れをするようにそんなことを頭に浮かべて、俺は彼女の隣に立った。
いつかと同じ行動に彼女が顔を上げる。でも、昔のような警戒心は感じられない。
すっかり俺に心を開いたを見下ろして、俺はついに彼女を思い通りの方向へ誘導しはじめてしまった。
「…やっと二人きりになった…もう逃がさないよ」
それは、本心。身勝手な本音。
俺がそばにいることを無邪気に喜ぶ彼女は、まだ気付かない。
俺が求めている愛情が何を意味しているのかに。
優しく始まりのキスを与えて、俺は静かに一線を越えた。
すみません(土下座)
一応表向きは甘い幸せな話を…と思ってたんですが「体温」を書いたときには(正確には「体温」のおまけを書いたときから)
この男はこういう心積もりでした。最低。
お気付きの方もいらっしゃるかもですが、あちこち見返すとこの男本当に最初から愛じゃなくて欲で動いてます。
あまりにも夢っぽくないシビアな方向性にすっ飛びました。
前述のとおり申し訳ありませんが苦情は受け付けません。