001:女子高生
あたりまえのことが もうすぐ あたりまえじゃなくなって
君とも もうすぐ 会えなくなるのかな?
「こんにちはー。」
1月も終盤に近付いたある日の放課後。
私が図書室のドアを開けると、図書委員のみんながにこにこして挨拶してくれる。
いつもの光景。
図書委員でもないのに図書室に入りびたりの私はすっかり、2年生の図書委員の子達と顔なじみだ。
卒業間近の受験生がこんなところにいるのは、やっぱり珍しいらしい。
名前も顔も、最初の1週間で覚えられちゃったくらいだし。
「あ、また来たんですか先輩。呑気ですねー」
「うわぁ…いたの?君。」
「いますよそりゃ。どこかのヒマな先輩と違って俺は図書委員ですから」
何人かいる図書委員の中で、唯一。
私に一度だって笑顔を見せてくれない、可愛くない後輩。
。
一つ年下の二年生だけど私より全然背が高いからなんだか見下されてる気がする。
「ヒマって言うなヒマって。私これでも受験生なんだからね?」
「じゃあ帰って勉強したらどうですか?」
「う…」
ホント、可愛くないんだから。
後輩って言ったらやっぱり無条件で先輩を慕ってくれる可愛い子が定番よねー。
それなのに君ときたら、もう!
「いいの!ここが一番落ち着くんだもん。ねー、チサキちゃん」
「ねー、先輩!」
ほら、私に調子を合わせてくれる2年生のチサキちゃんはこんなに可愛いのに。
少しは年上を敬いなさいよね、君!
「…にしても。なんか先輩ってアレですよね。」
「アレ?何よ。」
「うーん…なんていうか………女子高生らしくない?」
蔵書の整理をしながら、君が私を見てしみじみつぶやく。
なんかムカツクわ。どういう意味よ。
「何それ。」
「うーん、なんていうか、俺のクラスの女子はみんな化粧だの芸能人だのそういう事ばっか興味持ってるのに。
先輩はそれがないじゃないですか。」
「失礼ねー。必要な時は化粧だってするし気が向けばドラマだって見るよ?」
「いや、必要とか気が向くとかじゃなくて。ほら俺、先輩が本以外のことに熱中してるとこ、見た事ないですし」
君の言葉に、私は思わず毒気を抜かれる。
…そう言えば。
この3年間の学校生活、楽しかったけど…必死で何かを追いかけたとか、そういう覚え、あんまり…ない。
「そうかも…」
「え?」
「なんか…君の言う通りかもなー。私もしかしてネクラ?本ばっかり読んじゃっててさ」
冗談めかして言ってみると、君が真面目な顔で応えた。
普段だったら絶対可愛くない事言いそうなのに。
「いや、俺としてはそういう人もありだと思いますよ?」
「ありって?」
よく分かんない事を言う君に聞き返すと、おかしなことに君は周りをきょろきょろ見渡した。
誰もこっちを見ていないのを確かめると、おもむろに…、とんでもない事を言いはなったんだ。
「だから、俺の彼女ですよ。
先輩どうですか?もともと女子高生っぽくないと思ってたから、先輩が女子大生になってもちゃんと続くと思いますよ?」
「え…………ちょ、君?本気?」
「本気じゃなきゃこんな事言いませんよ。…ってか、俺だって焦ってたんですからね?
来月から3年自由登校だから…告白する前に先輩に会えなくなるんじゃないかって」
「そ、そうだったの……!?」
なんか信じられない。
かわいくない事ばっか言って、私をムカつかせるような事ばっかり言ってた、…君が?
私に告白?……本当に?
「本気ですよ、俺。…だから付き合ってください、先輩」
「…っ!」
初めて、君に名前を呼ばれた瞬間。
不覚にも、私の顔は真っ赤になっちゃって。
辛うじて返事を返した私を、君はいつもと同じようにからかう。
そして……私は生まれて初めて、君の笑顔を見たんだ。それも…、至近距離で。
「先輩ってつけなくていいよ。……敬語も、もういらないから、君」
「うわ…顔真っ赤。相変わらず分かりやすいですねー。
でも、そういうとこも好きだから。
……さんもうすぐ女子高生じゃなくなるけど、俺の彼女じゃなくなったら許さないから」
「…………分かってる」
私が女子高生じゃなくなるまで、あと少し。
だけど私は、変わらない自分の居場所を…見つけた。
自分が卒業間近なもんでついこんな話になってしまいました。
主人公の高校3年生女子、ちっとも勉強してないどころか焦ってすらいませんけど、
それは黒川がちっとも勉強せずに怠けてばっかりいたのが、ちょっとにじみ出ちゃっただけで…(汗
高校の友人の皆様。
「実話ベースかよ」ってツッコミ、入れちゃダメですよ?(笑