月夜の声





なんだか、居心地の悪い沈黙だった。
勢いで呼び捨てにしてなんて言っちゃったけど、そこまで仲良しかといわれればそうでもない。
…きっとくん困ってるんだろうな。
そう思って私が何かフォローを入れようとしたときだった。


「そうだね、」
「え?」
「じゃあさ、これから呼び捨てするようにするから、俺のことも苗字じゃなくて名前の呼び捨てにできる?」
「…私が?」
「そ。俺だけ呼び捨てってのも変な話だし。そっちが呼び捨てにしてくれるんだったら、俺も呼びやすいし」


意外にも、くんはあっさり名前で呼ぶことを了承してくれた。
条件付で。
普段あんまり男の子を呼び捨てにしたりしないから、それはそれで私がやりづらいんだけどな、なんて考えながら
ちょっと助けを求めるような気分でくんを見上げた。
私より髪が短いからか、もうほとんど乾いた髪の毛が風にゆらされてる。


「えー、と…」


下の名前を知らないわけじゃない。
ただ、なんていうか、気恥ずかしくて。
今まで苗字にくん付けで呼んでたひとを、急に名前で呼び捨てっていうのも緊張する。


「嫌?」
「ううん、嫌じゃなくて…なんか、照れてる」
「照れんなよそんなんで。こっちまで恥ずかしくなるじゃん」


くんは冗談めかした口調と笑顔を返してくれるんだけど、やっぱりどうにもぎこちなくなってしまう。


「名前で呼んでほしいんでしょ?先にそっちから呼び捨てしてくれたら、いくらでも呼ぶよ?」


まるで子供をお菓子でつろうとしてるような口調が面白くて、つい笑ってしまう。
そういえばくんのこと、全然よく知らないや。同じ部活で学年だって一緒なのに。
きっと仲良くなったらこんな風にいろんな面がもっと見られるようになるはずだ。
だから勇気をだしてみよう、なんて自分に言い聞かせて。
私は少し高いところにあるくんの顔をしっかり見つめた。


「………………。」


その単語を口にした瞬間、くんの視線が嬉しそうに和らいだのが分かった。
たったそれだけのことなのに、何故か無駄に恥ずかしさがこみあげてきて。
思わず視線をそらしてしまった。
頬に当たる風が涼しくて気持ちいい。…まさか、私ったら、顔が赤くなったりしてるんじゃないだろうか。
私が恥ずかしがってるのがわかったのか、気を使ってかけてくれたくんの声は優しく子供をあやすような感じがした。


「馬鹿…そんなに照れられたら、俺だって恥ずかしくなるよ。」
「だ、だって、急に呼び捨てとか…慣れてないし」
「知ってる。
 …さて、そんなに緊張してまで呼んでもらったんだから、今度は俺の番だよね?」


くんがそこで一度言葉を切ったから、私は自然と顔を上げてくんの方を見た。
街灯に照らされたくんの顔には、笑顔が浮かんでる。


「…。」
「…っ!」


瞬間湯沸かし器みたいだ、私。
今まで部活で一緒になったときぐらいしか話したこともなかった男の子に笑顔で名前を呼び捨てされただけで、
こんなに顔が赤くなるなんて。
自分でも予想外すぎてあわててると、くんの笑い声がきこえてきた。


「そんなに顔赤くしなくたっていいじゃん、自分で呼び捨てにしてって言っといて。」
「べつに、赤くなってな…いと、思うんだけど…」
「真っ赤だよ、の顔。こんなに照れちゃって可愛いなぁ」
「ちょっと、からかわないでよくん!…あ」


あわてて否定しようとして、うっかりいつもの呼び方に戻ってしまう。
自分で気付いたのと同時ぐらいに、くんの笑顔がちょっと意地悪な感じに変わる。


、でしょ?」
「うん………
「よくできました」


小さい声で訂正を入れると、「」は満足そうに私の髪をまたわしゃわしゃ撫でた。


「さすがに冷えるから、そろそろ宿泊棟戻ろうか。」
「そだね」
「あ、言っとくけど」
「なに?」


歩き始めて数歩でまた止まってしまったが振り返る。


「明日からもちゃんと、って呼んでよ。」
「…分かってるよ」
「俺もちゃんと、って呼ぶから」


ほてった頬に、相変わらず風が気持ちよかった。


1ページに収めるには若干長いかなぁ、と思って2つに分けてみたんだけど
そのせいかこの設定で他にもいろいろ書けそうな気がしてきてしまった。
…良いからテスト勉強しなよ、私。

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