082:赤い糸





もし、赤い糸なんてものが本当に存在してるとしたら、どうする?

自他共に認める変わり者のあなたは、ちょっと視線を上向かせて考え込んだ後、真顔で答えたね。



「とりあえず、ハサミで切る。んで、その糸で相手の身体を食い込んで痛いくらいに縛り付けて、放置する」
「はぁ!?…変態というか、もはや鬼畜だよそれ」
「いや、最後まで聞けって」
「えー…縛ってどうすんの、変態」
「自力で解いて俺のこと追いかけてくるような相手なら、一生愛する。
 ほどけなかったら、知らない」
「……がそこまで変態で鬼畜でドSだと思わなかった……」
「なんでだよ、運命とかじゃなくて自分の意思でちゃんと愛してほしいっていうたとえ話だろ。
 むしろいい事言った、っつって俺に惚れるところだと思うんだけど」
「あー、私縛られるとかそういう趣味はないわー、遠慮しとく」
「だから、それはたとえだって…」


面白半分で変態をさげすむ目をしてみせる私と、困ったように頭をかく
昼時の食堂の喧騒が会話をかき消してしまうと、まるで私が悪者みたいに見える。なんてことだ。
皿から持ち上げたブロッコリーをほおばる私の正面で、は丼を空にする。
混んでいるのが分かっているからあんまり長居はできないけれど、せっかく雑談を装って
ほんの少しとはいえ、の恋愛観を聞きだすことに成功したのだから、このチャンスを逃したくは無い。


愛されたい派なんだ?なんか、もうちょいアグレッシブな人ってイメージあったからちょっと意外かも。」
「そう?身も心も羊みたいにおとなしいバリバリの草食系だと思ってるんだけど」
「…身も心も外側は羊みたいにおとなしい鬼畜で変態の草食系?」
、言ってることがメチャクチャだよ」
の話してることまとめてみただけだよ」
「恣意的過ぎる…」


苦笑を浮かべて、は食堂の湯のみも空にした。
それがそろそろ立ち去ろうと思ってる合図だってことを知っている私は、あわてて残ったサラダを食べきった。
ドレッシングのレモンがつんとした刺激をよこす。

彼の周囲の人たちは、彼が演じる「変人」のキャラクターに惑わされて、好奇の目を向けながらも
どこかで距離をとっている。
はじめは私だってその一線を置いた人たちの群れの中に混じっていたけれど、授業や昼休みに
たまたま会話をするようになって彼の独特な世界観に惹かれて以来、ほんの少し積極的に接するようになっていった。
さすがに、私みたいな凡人がいきなりの恋愛対象になれるとは思ってないけれど。
友達から仲良くなるくらいの努力、したっていいと思うんだ。
この気持ちを恋愛って呼ぶかどうか不慣れな私にはまだよく分からないけど、
を好きだと思う気持ちに変わりは無いんだし。

食器を片付けて荷物をまとめると、昼休みはもう残りわずか。
私はまだあと2時間授業が残っているし、は今日の授業は終わりだろうけど夕方からサークルがあるからまだ帰らないだろう。
また図書館の2階の隅のほうでゆったり読書でもするんだろうな、なんて推測しながら食堂を出ようとしたとき、
二歩先を歩いていたが思い出したように振り返った。


はさ、赤い糸あったらどうするの?」


食堂を出て行く人の波に流されかけながら、私はを見上げる。
好奇心の浮かんだ目が好きだな、なんて思いながら、用意していたのとは別の答えを返した。


「そうだなぁ、…とりあえずのところに持っていって相談する、かな」
「俺に?」
「で、もしがそれ切って私のこと縛りつけたら、自力で脱出して追いかけて蹴っ飛ばしてやる」
「俺に向かってアグレッシブとか言う人の答えじゃないよ、それ」


けらけら笑うの笑顔が見られたから、今はとりあえずそれだけで嬉しい。
だけど、いつか私が本気でに恋をしたら、そのときは。


「蹴飛ばす代わりに、私が捕まえてやるって言ったほうがよかった?」


最高にふざけた顔でそう言って、私は軽く手を振って教室に走った。
あっけに取られるを残して。


…ああ、伝染しちゃった。の変人ぶりが。
やっぱりいつか、責任とってもらわなきゃ。



遠いか近いかもわからない将来、赤い糸持って、私がのこのこ現れたら。
あなたはどんな顔して、私を見るんだろうね。



*   *   *

どうしてもう少し常識的な関係が書けなかったのかしら。

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