019:電話
ちょっと浮気ネタっぽいです。許せない方はブラウザバックでお願いします。
「………久しぶり。」
「ああ、さん?どうしたのこんな時間に。」
懐かしい…懐かしい声。
耳を澄ましていつも探してたあの声が…携帯ごしに私に届く。
「ん、ほら卒業してからもう2ヶ月も経つじゃん?元気にしてるかなーって。」
「俺?元気だよ。
それよりさんは?風の噂で彼氏が出来たって聞いたけど」
「……。」
何気ない話だけですぐ、電話を切っちゃうつもりだったのに。
電話の向こうの君は、それとは気付かずに残酷な話題を振ってきた。
「もしもし?さーん?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてたっぽい。
てか、そんな話誰に聞いたの?」
「いやー、それは言えないけどさ。でもよかったじゃん?おめでとう」
「ん………まあ、ね」
なんて、残酷。
私は中学にいる間ずっと、君の事が好きだったのに。
高校さえ同じだったら…今でも好きでいたのに。
ほとんど勢いでつくっちゃった彼氏のこと、おめでとうって言われるなんて。
「それで、彼氏どんな人?元中?」
「ううん、違う。1個年上。」
「ほーぅ、やるじゃん。先輩かぁ。どっちが告った?」
「むこうだよ。」
「へぇ、やっぱモテるんだ?ま、さんけっこう可愛いしなー。」
「冗談やめてよ」
「え、ホントだよ?中学ん時俺の周りにも結構さんのファンいたし。」
「…そうなの?そんな話初耳だよ?」
「へー、気づいてなかったんだー。」
軽いノリの会話が…苦しい。
卒業からたったの2ヶ月の時間が、君をこんなに遠ざけちゃうなんて。
あんなに、好きだったのに。
こんなふうに、過去の事になっちゃうなんて……。
「…なんか、元気ない?」
「え?」
不意に、優しくて気遣わしげな声が耳に響いた。
「今日のさん、なんかいつもと違うなーって。
もしかしてなんか悩んでるなら、聞くよ?」
「…君」
涙腺が、ゆるみそうになる。
ダメ、電話口で泣いたりしちゃ。
でも…、優しい声が、心配そうに私を見ててくれた中学の頃の君の姿を、目の裏に映し出して。
私の目には、こぼれる寸前まで涙がたまっていた。
「……あのね。君、知ってる?」
「え、何を?」
「…私が中学校の時に好きだった人が誰か」
「……うーん、分かんない。さんあんまりそういう噂立たなかったし」
涙が、こぼれた。
「そっか。じゃあ教えてあげる。
私ね、中学のとき、ずっと君の事…好きだったんだよ。」
「…え、本当に…?」
「本当。」
「………そっか。
残酷な質問、してもいい?」
沈黙の後で聞こえた君の声は、少しかすれていたような気がした。
「何?」
「今は……俺の事、どう思ってる?」
「……ホントに残酷だなぁ、その質問。
でもね……好き、だよ。
彼氏裏切るつもりはない。でも…やっぱり、好き。」
無理に明るくつくろった声は、自分で聞いても不自然だった。
泣くのを一生懸命こらえてる、不器用で笑えるような表情。
電話だから、君には見えないけど。
それでも私は一生懸命、泣き顔を消そうとした。
「…ありがとう、……。が俺の事見ててくれたって分かって…嬉しい。」
「ううん、彼氏持ちがこんなこと言っちゃって…ビックリしたでしょ。
なのにちゃんと聞いてくれて、ありがとう」
「。一度だけ…俺の事、名前で呼んで。」
「え…」
「ほら。」
「……………」
「…ありがと。これで俺、のことずっと忘れないですむから。
いつかが一人ぼっちになって寂しかったら、俺が迎えに行くから。
だから今は………彼氏と、幸せになるんだよ。
今は彼氏とたくさん幸せな思い出作って。俺はちゃんと、のこと待ってるから…さ」
「………ありがとう……。」
不自然につくろった声しか、今は聞かせられないけど。
少しかすれて迷ってるような声しか、今は聞こえないけれど。
電話越しに、あなたの優しさが見えるよ。
大好きなあなたの、大好きな笑顔が。
…大好きだよ。。
だからお願い。
私のこと……忘れないで……待っててね……。
ちょっと長めに書いてみました。てか…明らかに浮気でしょう、これ。
現実社会でこの話と同じ事言ったら確実に修羅場でしょうが(笑)
今回は物分かりのいい相手になってもらいました。
人を傷つけるのは良くない。それは正しい。
でも…恋人がいるという理由で、他の何かに目を向けてはいけないことは…ないと思うんです。
自分で責任を取れる、相手を傷つけない範囲での「目移り」は…許されるんじゃないかって。
一つのものに対して盲目的になってしまうよりは、常に周りを見るくらいの余裕があるのは悪い事じゃない…。
そんな持論があるので、黒川は彼氏に面と向かって「浮気はしてもいいよ」なんて言うんです(実話/笑)