Spring*



桜の木がならぶ、広いキャンパス。
時間は夜。
街灯が照らし出す桜はピンクとも白ともつかない幻想的な色。
風に吹かれて少しずつ散り始めた花びらが、時折私の目の前を通り過ぎる。


…綺麗な、風景だった。
事情が許せばいつまででも見入っていたいくらいの。
でも。
私…、には、しなくてはいけないことがあった。

それは……家に帰る事。


「参ったなー………ここ、どこ?」


そう、私がいるのは確かに自分の大学のキャンパス。
でも…通いはじめてから2日の私に、詳しい道が分かるわけもない。
しかも桜が見たくて少し奥の方まで来てしまったから…、帰り道を見失った、ってわけだ。
確かに一人暮らしの身だから、別に遅くなっても誰にも怒られないけど…、
夜中のキャンパスに一人で取り残されるのは…さすがに嫌だった。


「来た道くらい覚えとけばよかった…」


買ったばかりの教科書の山が、重い。
木に囲まれたキャンパスは、春とは言ってもまだ少し肌寒い。
そしてなにより、「迷子」の心細さが…いちばんの苦痛だった。


「…………新入生?」
「!」


突然、真後ろから声がした。
弾かれたように振り返ると、そこにいたのは一人の男の人だった。


「ごめん、驚かせちゃった?…こんな時間に人がいるなんて珍しいなーと思ってさ。」
「あ……」


その人の素性は分からないけど、でも、急に私は安堵を覚えた。
とりあえず……一人では、なくなったから。


「その………迷子なんです、私」


ちょっと恥だとは思いながらも、無事に家に帰りたい一心で私は状況を説明した。
男の人は少し笑った。


「だと思ったよ。すごい不安そうな目してるもんね」
「あの…正門、どっちですか?」
「あ、案内してあげるよ。俺もこれから帰るとこだし」
「ありがとうございます!」
「そんなに大げさに感謝しなくていいって。1年生はしばらく迷うからさ、ここ。
 無駄に広いよね。」


ついてきて、って言うと男の人はゆっくり歩きだした。
私に歩調をあわせてくれてるみたい。


「あ、俺まだ名前言ってなかったよね。
 2年の。よろしくね」
「あ、私は…、です。ええと…先輩、よろしくおねがいします」
でいいって。その代わり俺もちゃんって呼ぶからさ」
「はぁ…」


親しげに話しかけてくれる、先輩。
不思議と…さっきまでの焦りも不安も、いつのまにかなくなっていた。


「知ってる?ここのキャンパス鹿が出るって噂」
「え、鹿ですか!?」
「そ。…ま、田舎のキャンパスってそんなもんだよ。俺はまだ見た事ないけどね」
「鹿……じゃ、今度探してみますよ。」
「見つけたら教えてね?あ…でも、迷子にならないように」


くすくす、楽しそうに笑う先輩。
私を助けてくれたのがこんなに親切な人で良かった。


「あ、そうだ。番号とアドレス教えて?…ちゃんがまた迷子になったら、助けに行ってあげるから」
「あはは…ホントですか?」
「ホントだよ。はい、携帯出して」


言われるままに携帯を出して番号とアドレスを見せると、先輩は慣れた手つきでそれを登録した。
それから私を振り返って、ぽんと頭に手を置く。


「じゃ、後でメール送るから。もちろん迷子になってない時もメールとか大歓迎だからね。」
「はーい」


にっこり笑いながら、私はなんだか不思議な予感がしていた。




(………私、もしかして好きな人が出来るかもしれない。)


久々のオリジナル更新でした。
なんかもうしばらく書いてなかったので色々と………(遠い目
しかも微妙にね。…実話混じりなんですよ。
キャンパスで迷子になった黒川とか。
あと、ウチの大学鹿はいないけど狸はいるらしいです。…恐ろしい……(笑

なんか終わり方中途半端だったのでもしかしたら続き書くかもです。

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