花火に消された言葉




春になったとはいえ、日が沈んでしまえばまだ風は冷たくて。
さっきジェットコースターで水場に突っ込んだときにかかったしぶきが濡らした髪が冷たい。


「15分待ちだって、やっぱ平日で正解だったよね」


別のアトラクションの入り口に立つ看板を眺めていたが振り向いて、無邪気に笑う。
早く乗ろう、なんて言いながら私の手首を躊躇なくつかんで列の最後尾を追いかけにいってしまうから、
初めて二人きりで遊園地デートをしてるというのに、色気なんてどこにもない。
かろうじて繋がってると言えるこの手だって、恋人つなぎなんてもってのほか、むしろ連行されてるって言ったほうが正確なくらい。
甘い雰囲気なんて期待したってしょうがないんだけど、それでも、列の途中にちらほら見える幸せそうなカップルなんかが視界に入ってしまうと、
まあ…正直、思うところもあるわけだ。


「一緒に遊園地行こうよ」なんてお誘いが来たから、どうしても舞い上がってしまうけれど。
私とは、恋人なんかじゃない。
どんなに贔屓目に見たって、親友まで行けばいいほうだ。
それどころか、こんなに無頓着に手首をつかまれたりしてるようじゃ、恋愛対象どころか
異性としてすら見られていないんじゃないだろうかなんていう危惧まで生まれてくる。
私のもやもやした気持ちをよそに、は夜景が綺麗だと評判のアトラクションの順番を
今か今かとばかりに目を輝かせて待ち構えている。
そりゃ、一緒にいられるだけで、十分すぎるくらい幸せだけれど。
いつもなら触れることすら叶わない相手が自分から私の手をとってくれるんだから、嬉しいんだけど。

(すこし、期待しすぎちゃった)

閉園前の花火もきっと、こんなふうに無邪気に健全に眺めて終わってしまうんだろうな、なんて。
ほんの少し苦い気分にひたりかけた私は、から視線をそらして生乾きの横髪をなでた。


、疲れた?大丈夫?」
「えっ、うん…大丈夫だけど」
「それならいいんだけどさ、俺朝からテンション高くてついはしゃいじゃったし」


アトラクションを降りたが、あとから続く私を振り向いた。
心配されるほど体力がないわけじゃないし、自分のエネルギー量を把握している私は
そもそも最初から、ほどはしゃぎまわってないから消耗も遅い。
それでも、こんな些細な気遣いだけでどうしようもなく嬉しくなってしまう自分は、
すくなくとも、気持ちの面ではそうとう重症なんじゃないかと思っている。
もっと構って欲しいだけなの、なんて、まさか言えるわけがない。
色恋的な考えなんて持ってませんよ、って表示するように、子どもっぽい笑顔を浮かべてみせる。
そうして、無邪気な発言でもしてごまかそうとしたら…
口が、すべった。


「ううん、が楽しそうにしてるの見てるだけでも楽しいよ」
「え?」


私の発言に、が動揺したのが分かった。
視線が揺れる。
どうせ本気になんて取らないだろうと思っていただけに、その反応に私も焦る。
急に立ち止まったりするから、2歩分、距離が縮む。


「…?」
「なに?」


前々から心に秘めていたものを見透かされてしまったような気がして、心臓が鳴る。
平静を装ったつもりの返事は、いつもより少しうわずった。
の視線が、いつにない近さで私をとらえている。
周りを歩く人の声すら聞こえないほどの、真っ白な間。
硬直した時間を崩したのは、だった。


「…花火、そろそろだし。こんなところで止まってないで、行こうか」
「あ、そうだね。行こう」


さっきまでと変わらない、平然としたの口調。
歩く早さも変わらないし、いちいち私を振り返ったりしないのだって同じ。
だけど、私より少しつめたい体温はもう、手首には感じられない。
手のひらの熱を奪われる感覚が、私をくすぐる。


「ねえ、夏休みにも、花火見たいな…と二人で、さ」


花火のはじまりを告げるアナウンスに消されるような小さな声でつぶやいて、立ち止まって空を見たら。
ほんの一瞬だけ、つないだ手を強くにぎられたような、そんな気がした。




*   *   *

え?城も王国も領海も著作権も持つ恐るべき動物?何の話ですか私にはさっぱり分かりません。
もちろん作中のデートコースは架空のものですよ!
しかしもどかしい。なんでこんなに距離つめるのが下手なの。

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