カサナリ

※暴力的表現、いじめに関する表現がありますのでご注意ください。



学習性無力感。
そういえばこの間読んだ本にそんなことが書いてあった気がする、とはぼんやり思い返した。
自分ではどうにもならない状況にさらされ続けるうちに、自分には何も変えられないと思い込んでしまって
状況を変えようとする試みすら放棄してしまう。
まさに、自分はそれだったのだと自嘲めいた感情が浮かんできて、それはすぐため息に変わった。


よくあるいじめ。
中学生のころ、はその被害者だった。
成績をねたまれたのか、言動が優等生らしかったせいなのか、それとも加害者側のただの気まぐれだったのか。
今となっては検証してみる気すら起こらない、心の奥底に封印したはずの過去。
もう何年も思い出そうともしなかった忌まわしい記憶が、恋人ができてからというもの、急速によみがえってくるようになっていた。





、おいー」
「きこえねーのかよブス」
「返事しろよー」

「…なに」

「うわ暗っ。」
「さすが。キモい」
「あ、そうだ、いいもの見せてやるよ」

「…なに」

「お前の王子様が、帰りにプールの裏で待ってるってさ!ほら、手紙!」
「よかったじゃん、お前みたいなブスでも愛されてて」
「絶対いけよ!」

「……」

「嫌だっつっても連れてくからな」
「来なかったら何されるか分かってんだろ」
「おい、ちゃんと来るよな?返事は?」

「……わかった」


主に、男子3人。
クラスの人間はみんな見てみぬふりを決め込んでいて。
教師はただの悪ふざけの範囲だろうと事態を甘く見ていて。
苦しい思いを強いられ続けたは、反抗することなく加害者たちの言いなりになる人形と化していた。
当時一番流行っていたのが、彼女をクラス内のもう一人の標的、と強制的に付き合っていることにさせた上で
謂れのない冷やかしを投げつけるという陰湿なやり方だった。
無理やり手をつながせたり、好きだと言い合うまで学校から出してもらえなかったり、そんなことが続いた挙句、
あの日「それ」が起こったのだ。





はかぶりを振った。


?」
「ん、なんでもない」
「そっか。疲れてるみたいだったからさ。
 少し横になったら?」
「んー、膝枕してくれるなら」
「いいよ。おいで」


優しい声に誘われて身体を倒すと、耳元に当たる洋服越しの温かさが眠気を誘う。
ゆるゆると目を閉じたは、しかしまた過去の記憶の続きが脳裏をよぎるのをとめることはできなかった。





「お前らさー、どこまで進んでんの?」
「こないだ手つないだだろ?それからー、キスは?」

「…するわけない」

「んだよつまんねーな!じゃあ今しろよ!」

「………」

「なんだよその目!のくせに生意気な顔すんなよ。」
「そーだ不細工!…はやくキスしろよ!」
「……なあ、キスだけじゃ足んなくね?」
「え?」
「だからさー、今ここでやっちゃうとかさ」
「おいおいここ学校ん中だろ?」
「いーじゃん、どうせこんな場所誰も来ないし!」
「まあそうだよなー?付き合ってるんだから別にいいよなー。…ってわけで、お前らやれ」

「…何、を」

「決まってんだろ!」





「…っ」
?」
「え?なに?」
「ホントに大丈夫?辛そうな顔してたけど…」
「うん大丈夫。最近課題たまってたから…」
「そっか、頑張ってたんだね。あとでごほうびのキスあげようか」


冗談めかしながらちゃんと自分を気遣ってくれる恋人の優しさに、の胸が少し痛んだ。
今の自分を愛してくれる大切な人は、彼女の過去を知らない。





…くん…」
「ごめん、…ごめん…」
「謝らないで、…お願い…」
「ごめん…さん…」
「謝らないで…くん…」
「………ごめん……」


いつの間にか、加害者たちはいなくなっていた。
見つかってトラブルになることを恐れたのかもしれない。
残ったのは狂ったように謝罪を繰り返してを抱きしめると放り捨てられたブレザーだけだった。


「大丈夫、だから」
「…え」
「わたしは、大丈夫だから…泣かないで」
さん…」
「怖かったのは、くんも同じ…でしょ」





?」
「………。」
「寝ちゃった?……疲れてたんだね。」
「………。」
「愛してる。」


眠ったふりを決め込んだに、優しい響きが降ってきた。
反応を返すわけにもいかないので、はそのままゆっくりと頭をなでられる感触を楽しんでいた。

どんな過去があっても、今が幸せならそれでいい。
どこかでそんな言葉を聞いたことがある。
それでもは、ふと考えてしまうのだ。

あの時もしも、男子たちの言いなりになっていなかったなら。
あの時もしも、あきらめずに大声を出すなり暴れるなりしていたら。
あの時もしも、泣きながらお互いを慰めあうことがなかったら。
今のこの幸せなはずの瞬間に恋人に「誰か」の面影を重ねることはなかったのだろうかと。


(……


偽りの眠りの内側で、は恋人への懺悔と「誰か」の名前を重ねた。



不幸恋愛祭を書くたびに謝罪している気がしますが今回もまたすみませんでした。
良心がとがめます。なのに書いています。自己矛盾。

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