After The Stage



「…さん、さん。」


ためらいがちにさんを呼んだわたしの声は、あの人に届いたみたいだった。

わたしの大好きな俳優さんが、こっちを振り向いた。


「…ちゃん!来てくれたんだ!」


たった今感動のフィナーレを終えて舞台からロビーに出てきたさんは、衣装もメイクも舞台にいた時のままだ。
さっきまで物語のキャラクターの一人だったその人がわたしの名前を呼んでくれるのが、なんだかくすぐったい。
大好きなさんがわたしの名前を覚えててくれるのが、すごく嬉しい。


「嬉しいなぁ、ちゃん忙しそうだったから、来れないかもって思ってたんだよ!」


営業用のかっこいい笑顔で、さんがわたしの名前を呼んでくれる。
友達のコネで初めてお話しした時に、さんはわたしの名前も顔も覚えてくれたんだ。
それからいろんな舞台に立つたびに、わたしにも「見に来てね」って連絡くれて…。

それがお仕事なんだって、分かってるんだけど。
ちょっとだけ期待しちゃう。
さん、少しはわたしのこと気に入ってくれてるかなぁ…なんて。


「ホントに嬉しいよ、ちゃん。…来てくれてありがとう。」

「…あ………さん……。」


いきなり、だった。
ほとんど反則って言ってもいいくらい。

突然、さんがわたしを抱きしめたんだ。
びっくりして、恥ずかしくて、嬉しくて、頭の中が真っ白になる。
冗談だって、社交辞令だって分かってるんだけど。
それでもやっぱりドキドキしちゃうのは……わたしがさんに、恋、してるから…?


「恥ずかしいです、さん」

「だーめ、逃がさない。…ちゃんは俺の一番大事な可愛いお客さんだから」

「…他のお客さんが、怒りますから…」

「大丈夫、ちゃんは特別なの。…それに、さん、なんて嬉しい事言ってくれちゃったからには、しばらく離さないよ」

「あ……。」

「それともそんなに俺には抱きしめられたくない?」

「……そんなこと、ないです」





神様。
もし神様が存在するなら。

さんの腕の中にいられるこの瞬間が、少しでも長く続くようにしてくださいね…?


また微妙に実話です。
役者に恋しちゃいけないのは分かってるんですけどねぇ。
役とかに振り回されちゃって本質が見抜きにくい分幸せになるのもずいぶん大変だし、
いろいろ恋をむずかしくしてくれちゃう困った条件が役者に多く降りかかるってのも確かですし。

……それでも惚れちゃうんですよねぇ、舞台で輝いてる人には。




↑…末期だろ、それ。だれかこんな管理人を止めてください(笑

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