006.別れ
「本当に、いいの?」
みんなの、心配そうな声。
「うん、いいの」
明るい、わたしの声。
本当は、笑顔になるのはちょっとつらいんだけど。
でも、泣くのはわたしのキャラじゃない。
「ホント、2週間すごく楽しかった〜。
来週からはちょっと寂しいかもしれないけどね〜?」
明るく言い切ったわたしに、みんなは納得したみたいだったけど。
親友の恵だけは、なんだか納得してないみたいで。
みんなが先に音楽室に行った時に、ぼそっと、話しかけてきた。
「ホント、後悔しないの?は。」
「え、何が?」
できるだけカラッとした笑顔を作ったつもりなのに、ほんの少し語尾が震えた。
そうじゃなくても…恵は、気付いてたみたいだけど。
「本気だったんでしょ?…先生の事。ホントになにも言わないつもり?」
真剣な目でわたしを見てる、恵。
さすが、親友の目はごまかせないね。
…なんて思いながら、それでもわたしはへらっと笑って見せた。
「だって、しょうがなくない?こっちはごく普通の女子高生で、むこうは
大学4年生だよ?しかも、一応先生なんだし。
ホントはなんの接点もないはずだったのに、こうやって2週間も一緒にいられた
だけでも十分満足だもん、わたし」
いつまでもへらへらしてるわたしを、じっと見つめて。
恵が、言った。
「の、ばか」
それから、わたしを置き去りに、音楽室にいってしまった。
ああ、恵にばか、って言われちゃった。
…わたし、ホントにばかだから。
どうして、あの人のこと好きになっちゃったんだろう。
先生。
わたしのクラスにきた、教育実習生。
数学の担当で、とっても優しいからみんなに人気で。
わたしは最初、おとなしそうで、頼りないなって思ってたんだけど。
でも、今は、わたしの好きな人。
体育の授業でおもいっきり足首捻挫したトロいわたしに、
「さん、大丈夫?」
って優しく声をかけてくれた時から。
わたしの、だれよりも一番大好きな人。
クラスの友達も、みんな応援してくれてたんだけど…
「はぁぁ…」
今日で、最後なんだ。
教育実習期間。
せっかく会えたのに、せっかくウチのクラス担当してくれたのに。
先生のおかげで、得意じゃなかった数学、好きになれたのに。
もう、お別れなんて。
寂しいけど、告白なんかする勇気、わたしにはないし。
「あと、3時間かぁ…」
恵の顔が、頭に浮かんだ。
「本気だったんでしょ?」って。
そうだよ、わたし、本気で先生のこと好き。
ただの恋愛ごっこじゃなくて。
ホントに、ホントに、好きなの。
今日でお別れなんて、ホントは絶対いや。
このまま先生に忘れられちゃうなんて、ぜったい…ぜったい、嫌。
なんにも言わずにおわかれするなんて、ホントのホントに、ばか。
そんなの、嫌だから…。
「先生っ!」
突然呼ばれて、びっくりしたみたいに先生が振り返る。
「あぁ、さん」
だいぶ驚いたみたいだったけど、名前を覚えていてくれたのが嬉しかった。
いつもの優しい笑顔が、オレンジ色に染まってる。
一瞬でも気をぬいたら、泣いてしまいそうで。
わたしは、あわてて笑顔を作った。
「先生、2週間、ありがとうございました。
わたし、先生の授業うけられてすっごく嬉しかったです」
告白するほど、勇気はないけど。
でもやっぱり、伝えたくて。
「ありがとう、さん。そう言ってもらえるとこっちも嬉しいよ」
先生の笑顔が、わたしの胸をしめつける。
どうかすると、先生を困らせてしまいそうで。
「行かないで」って言って、大好きな先生を困らせてしまいそうで。
わたしは、ぐっと唇を噛んだ。
「さん。」
うつむいたわたしの、頭の上から。
先生の声がした。
「2週間、ありがとう。楽しかったよ」
それから、わたしの頭に、何か降ってきた。
あたたかくて、大きな…何か。
遠慮がちに触れるそれが、先生の手だって気付くのに、少し、時間がかかった。
ねえ、先生。
先生。
教育実習生と、生徒の関係は今日でお別れだけど。
でも、いつかまた …
いつかまた、会えるよね?
わたし、次に先生に会うまでに…もっと、いい女になるから。
その時は…。
「」って、呼んでもいいかなぁ…?
先生が、帰った後。
心配した恵が迎えに来てくれた。
泣きながら、笑ってたわたしをみて、恵は
「よしよし」って言って、先生がしてくれたみたいに頭をなでてくれた。
「恵、さっきはごめんね」
「ううん、ばかって言ってごめん。それから…」
「頑張ったね、」
恵の言葉が、勲章をもらったみたいに嬉しかった。
…もう、泣くのはやめよう。
次にまた、会える時まで。
わたし、先生にふさわしい女の子になれるように、頑張るからね。
だから、…。
いつかまた、会おうね…。
ちなみに、今回のお相手が教育実習生なのは実話に基づいてたり。
…ええ、モデルは零と零のクラスに来た教育実習生です(暴露!
めちゃめちゃ一方的に片思いでしたけど(-_-;)
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