夏祭り極短話5
※恋人設定
しおさい、だったか。
あまり使い慣れない言葉だけれど、多分それが一番しっくりくる表現。
君につれてこられた平日の夕方の海は、テレビで見る海水浴場とは違ってずっと静かで、波の音がする。
少し雲があるから、感動的に綺麗な夕日を眺めることは出来ないけれど。
にぶい朱色のぼんやりした空も、案外きれいだと思った。
「良いでしょ、ここ。中学校のときからずっと俺のお気に入りの場所なんだ。」
「そっか…いつもここから海見てたの?」
「うん、悩んだり親と喧嘩したりするたびにここ来てた。
ホントは晴れてるともっと綺麗なんだけどね」
「ううん、今十分きれいだと思う。」
まだ陽がしずむには少し時間が残っているみたいで、私たちはしばらく黙って向かい風をうけていた。
前髪がはねあげられてぐしゃぐしゃになったけど構わなかった。手をつないで段差に座り込んでいるこの状況を崩したくなかったから。
「。」
「なに?」
デートの終盤を飾るの声は、いつもと同じ優しい響き。
「愛してる」
「私も、愛してる。…」
キスの代わりにつないだ手にぎゅっと力を込めて、私とは陽が沈みきるまでの時間を目に焼き付ける。
耳を包む潮風と規則的な波の音が心地よかった。
夏祭りと勝手に題してすごく短いお話をさくさくアップしようじゃないかという企画です。5本目。
夏休み終わったら過去ログ部屋に移送予定。
海、ってきいて真っ先に海水浴場の活気に思い至れなかった私はきっとそろそろ年なんだろう。