夏祭り極短話3

※相手→女主



大輪のひまわりのように咲き誇る君こそ、夏の女王。



ドン、ドンと撃ち込まれるような重低音も、小気味よく響く高めの金属音も。
細かくリズムを刻むドラムも、時折聞こえてくるホイッスルの音さえも。
全ては彼女を引き立てるためのステージに思えてくるのだから、重症だと思う。
それこそ50人を超えるような生徒たちがいっせいに汗を流して夢中で取り組んでいるのに、
つい彼女だけに視線を引き寄せられてしまう。
まるでひまわりのような鮮やかな黄色の羽根を揺らして軽やかにステップを踏む彼女は、月並みな言葉で表すなら
太陽の化身、夏の妖精とでもいったところだ。

私が内心でどれだけ彼女を賞賛しているかを知るはずも無く、彼女は無邪気に練習を重ねる。
サンバなんてものに興味の無かった私でさえも分かる、彼女がどれだけ観客をひきつける力を持っているか。
弾けるような音の波の上で楽しそうに泳ぐ彼女をみているだけで、自然に笑顔になってしまうのだから。


先生ー!」


私が通りかかったことに気付いた彼女が、満面の笑顔で名前を呼んでくれた。
本番、どこかでパレードしているときには勿論ありえない。全ての観客を楽しませるのが彼女らの使命だから、
視線を合わせたり微笑んだり、そういうことはできても声をかけることなんてあるはずがない。
こればかりは、たまたま(という名目で)他に誰も観客のいない練習場所に居合わせることができる私の特権だ。


「お前ら、暑いから無理しないでやるんだぞ!」
「ありがとうございまーす!」


サンバの爆音に負けないように大声で返すと、彼女ははじけるような笑顔で手を振りかえしてくれた。
他の生徒たちもこちらに笑顔をむけてくれているのは百も承知なのだが、どうにも君以外見えないのが困ったものだ。


我が校のトップダンサー、
大輪のひまわりのように咲き誇る君こそ、夏の女王にして…私を魅了して止まない、愛しい教え子。



夏祭りと勝手に題してすごく短いお話をさくさくアップしようじゃないかという企画です。3本目。
夏休み終わったら過去ログ部屋に移送予定。
サンバって夏ですよねー。ってことでやってみた。短いなやっぱり。

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