夏祭り極短話2
※相手→女主
夏の夜。
どこの町でだってやっているような、ありふれた小規模な盆踊りの催し。
興味はないけれど、たまたま通りかかったついでに寄ってみた。
そうしたら、君がいた。
「あれ、くん!こんなとこで会うと思わなかったわー。家近いの?」
「うん、バイト先がこの近くでさ」
「そっかぁ。知り合いがいるって分かってたら浴衣できたのになー。」
「あ、見てみたかった。」
「別に浴衣着たって美人になるとかないけどね。」
他愛ない会話の裏で、つい君の浴衣姿を思い浮かべてしまう。
金魚の入った袋を下げて、僕の手につかまって危なっかしく歩く君。
…気持ちを伝えられるほど勇敢じゃない僕にはおよそ手のとどきそうにない幻想だけど。
「やっぱり小さいお祭りだとさ、お店もすくないよね。…あんず飴、好きなのになぁ」
「…あ、ないのか」
「うん。期待してたのに」
言われて神社の境内を見渡すと、確かにまばらな出店の中にあんず飴を売っていそうなところはない。
がっかりしたように少し唇をとがらせた君が、学校にいるときよりも少し幼く見えた。
「来週の花火大会のときはあるんじゃない?たしか去年は出てたよ、あんず飴。」
「あー、あれくらい大きいお祭りならきっとあるよね。じゃ、来週まで我慢しよっかな」
「浴衣も着たらいいじゃん、そのとき。見たことないけど多分似合うよ」
「んー、じゃあ来週は浴衣であんず飴ね。決まり。」
普段だったら、無邪気な君の笑顔を見たところで満足してしまうのに。
夏の雰囲気にのまれて、僕は少し大胆になっていたらしい。
帰り際にふっと思いついたような振りをして、君に探りを入れる。
「…あ、そうだ。」
「なに?」
「花火一緒に行かない?あんず飴おごるよ、そんなに好きなら」
「え、いいの?どうせ彼氏もいないし、誰誘おうかなーって思ってたところなんだよね。
じゃあくんと行く!」
「ほんとに?」
「うん!…じゃ、メールで集合時間とか決めようよ。」
「うん。楽しみにしてるね、ちゃんの浴衣」
「あはは、おだててもなんにもでないよ」
きっと君と見る花火は格別だ。
上機嫌で神社を後にしながら、僕はまだ食べてもいないあんず飴の味を口の中に思い浮かべていた。
夏祭りと勝手に題してすごく短いお話をさくさくアップしようじゃないかという企画です。2本目。
夏休み終わったら過去ログ部屋に移送予定。
ちなみにあんず飴好きです。食べ方下手なんで毎回べたべたしてしまうけど。