023:潤う
あまりの申し訳なさに、もう、土下座さえしてしまいたくなる。
「ホントごめん…保健室行ってタオル借りてくるから!」
「あ、いや、そんなに気にしなくても…」
「いや、だって明らかに100%私の責任だし!ホントごめんね、すぐ行く…」
「そんな、あわてないでいいから…まず、水止めて」
ありふれた高校のありふれた放課後の風景。
急いで帰っていく生徒に部活に勤しむ生徒たち、きこえてくる甲高い笑い声。
その中で異彩を放つのがこの場所…職員玄関に程近い花壇の横だった。
もちろん異常な植物が植わっているとか、その類の話ではない。
問題は、まだ水の流れるホースを片手にあわてて謝り倒す女子高生と困ったように立ち尽くす濡れ鼠…
もとい、だった。
説明するまでもないが、が濡れ鼠になったのはのせいだった。
「あ…」
あわてて蛇口をひねりに走っていったを見送るの視線は状況とは裏腹に
さほど不快そうにはみえない。
幸い、2学期が始まったばかりだったので気温も高くすぐに風邪を引きそうな状態ではなかった。
すっかりあわててホースを片付けることもなくそのまま持って戻ってきたがまたに謝る。
「ほんとに、ごめんなさい!」
申し訳なさのあまりか多少周りが見えなくなっているにほんの少し苦笑しながら、は首を横に振った。
その辺のまっすぐなところも、微笑ましい。
「本当に、大丈夫だから。教室戻ればジャージ置いてあるし。
…ああ、じゃあ俺先教室戻ってるから、さん保健室でタオル借りてきてくれる?」
「あ、わかった!行ってくる!」
走り出してからホースの存在に気付いて恥ずかしそうに蛇口へ戻っていくを見送りながら、
はこっそり微笑んだ。
ちょっとホースで水かけられるくらい、なんてことはない。
夏休み明けに久々に会った片思いのクラスメイトと話せる口実になるなら、むしろ恵みの雨だ。
「あー、俺やっぱり重症。
こんなことで喜んでるなよ」
あわよくばこの後デートにでも誘おうか、そんなことを考えてにやけるの心は、
ここ1ヶ月で一番潤っているような気がした。
久々に書いたのでなんともいえない短さを感じます。