013:唇


「…さん、これは?」


あぁ…予想通り。
私の大好きな先生は、私の単語テストの結果を見て呆れかえった。
別に、わざとやってるんじゃない。
一応頑張ってるつもりだし。
なのに。
先生が作ってくれる単語テストで満点を取れたためしなんか、一度もないんだ。


「ごめんなさい…わざとじゃないですよ?」
「分かってる…」


分かってる、って言いながら先生はため息をつく。
そりゃ、自分でも問題だとは思うよ?
抜き打ちってわけでもないんだし、家庭教師が来る曜日だって決まってるんだから
それまでにちゃんと勉強しておけばそれなりに点数が取れるはずなんだ。
…十分じゃないかもしれないけど、一応単語練習はしてるのに。
なんで、半分しか点数が取れないんだろう…。


「…とりあえず直そうか。まず、Absentは<欠席の>と言う意味で形容詞、
 <辞書>はDictionary。
 それから…」


先生の指が、<唇>の単語のところで止まった。


「<唇>のスペルはRじゃなくてL。
 RIPだと、<安らかに眠れ>というラテン語の省略で、お墓に刻まれる文字になるんだけど…」
「えぇ、お墓!?」


大声でビックリする私に、先生が苦笑した。
…つくづくバカだって思われてるんだろうな…。
そんな風に思われたくないのに。先生に認められたいのに。
っていう、一人の男の人に、認めて欲しいのに………。


私がうつむいてると、先生が私の肩を叩いた。


「…具合悪い?大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です!どうやったら覚えられるのかなーって、考え事してただけなんで!」


心配そうに私を見てくれる先生にむかって、にっこり笑ってみせる。
先生はそんな私を見て何を思ったのか、急にしゃがみこんで私と目の高さを同じにした。


「そうだな…Lipに関して言えば……これなら、もう忘れないんじゃないか?」
「え?」


次の瞬間には、先生の顔が至近距離にあって。
思わず目をつぶると、…やわらかい何かが、一瞬だけ私の唇に触れたんだ。
…まさか、って思って目を開けると、ほんの少し顔を赤くした先生がこっちを見ていた。


「あの…先生っ…」
「…一応、さんの気持ち、知ってるから。」
「え…き、気付いてたんですか!?」


パニックになった私を見て、先生がまた苦笑する。
でもその目は、いつもより少しだけ…優しく感じた。


さんは考えてる事がすぐ顔に出るから。…そういうところが、好きなんだけど」
「え…、先生……?」
「次の単語テストで点数伸びたら、…俺の事はでいいから。」
「ホントに!?…私、頑張ります!あの、頑張りますから…」
「何?」


「次のテストでいい点数取れたら、って呼んでください」
「…70点を越えたら、そうするよ」


今はまだ、ただの先生と生徒の関係だけど。
」「」って呼び合えるようになるまで…そんなに時間はかからないよね?
ねえ、先生?
頑張って勉強するから…待ってて、ね。


初の家庭教師ネタでした。黒川は個別指導の塾に行っているのでなんとなくニュアンスが分かったり…
ちなみに、恋愛沙汰こそないですけどうちの塾はすっごく小さいところなので
夜の7時半から9時過ぎまで大学生の男の先生と二人っきりで勉強って言う
なんともスリルあふれる(謎)シチュエーションにたびたび遭遇します。

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