赤い靴履いたのは




背も低くて、スタイルも自信なくて、顔だって十人並みで。
そんな私だから、今まで目立たないように生きてきた。
だけどあなたに出会って、私は気付いた。


恋をすると世界が変わるって。




「あれ、…化粧変えた?」
「あ、うん…」
「珍しいじゃん、どうしたの?」


朝一番に同じ授業をとってる友達が気付いてくれた。
いつも私は最低限のメイクしかしてなかったけど、
少しだけ勇気を出して、アイシャドウの色を変えてみた。


赤似合うね、可愛いよ」
「…ありがと、はじめてつけてきたからちょっと自信なかったんだ」


正直、友達から変って言われなくて安心した。
周りに合わせることしか考えてなかった私が、自分から冒険するなんてはじめてだったから。
恋って不思議だ。
今までできなかったようなことを、いきなりさせてしまうんだから。




「あ、先輩だ。今日可愛い服着てますね。デート?」
「違うよ、たまたま新しいスカートおろしただけ」
「なんだ。でもそれ似合いますよ。」
「本当?ありがと」


せっかくだから誰か捕まえてデートしてきたらいいのに、なんて無責任に笑って
私と入れ違いに学食に消えていく後輩の言葉に、また頬が緩んだ。
それって、これからデートにいってもおかしくないって事だよね?
…いつかあの人ともしデートできたら、こんな風に可愛いって言われたいな。
ほめてもらって少し浮かれた私は、そんなことを考えていた。
せっかくだから、今日は帰りに髪も切ってこようかな。
帰りのプランを考えながら、私は午後の授業のある教室に向かう。






「お疲れ、今帰り?」
「うん。…君は?」
「もう帰るところだよ。さん、電車?」
「うん。」
「じゃあ駅まで一緒に帰ろう」
「え、うん」


並んで歩く帰り道。
私の好きな人は、私の気持ちなんて気付きもしないで他愛ない話を続ける。
駅から反対方向の電車に乗るのが分かっているから、
私は今日おろしたばかりの靴が歩きにくいふりをして、わざとゆっくり歩いた。


「大丈夫?歩きにくそうだけど」
「…あ、ごめんね。急いでた?」
「俺は大丈夫だけどさ、痛いのかなって」


気遣ってくれるのが嬉しい反面、ちょっとした打算の罪悪感がこみあげる。
ごめんね、本当はおしゃれ初心者の私が歩きにくいような靴を選ぶような大冒険、しないんだよ。
そうカミングアウトしたら、きっとさぞかしあきれられることだろう。
あなたと歩いている時間を引き延ばしたいんだよ、なんて
私のことを意識もしてないであろうあなたが聞いたら青天の霹靂に違いない。
くんが、少しペースを落としてくれたのが分かった。
まるで散歩するくらいのゆったりとした歩調で、駅までの距離を縮める。


「あ、そうだ」
「え」


不意に君が足を止める。
つられて立ち止まる私に差し出されたのは、君の手。


「つかまって歩けば少し楽なんじゃない?手、貸すよ」
「え、でも」


嘘なのに、という気持ちがためらいを生む。
まるで私を意識していないからこそ出てくる無邪気な優しさは、
姑息な手段に訴えた私を本人の意識なんてまったく無視してゆるやかに苛む。
出されたままの手を見つめて困惑する私の耳に、君の声が落とされる。


「…なんてね、ごめん。
 今俺、ちょっとズルしようとした。
 さんが歩きにくいのに便乗して、手とかつないじゃおうかな、なんて」
君?」


それでついでにさらって帰っちゃおうかなとも思ったんだけど、なんて
冗談めかした口調の君を見上げられなくて、私はさらに困る。
君の言っていることが嘘だったら、私は今完全にからかわれているわけだし、
そうでないとしたら、正直、経験の浅い領域に踏み込んでしまうことになるから
ますますどうしていいのか分からない。


「ごめん、変な事言って困らせちゃったかな」
「ううん、困ってないの」
「そう?…あ、あの、別に無理にとは」
君」
「…なに、さん」


いつだって十人並みで身の丈にあった生活をしようと心がけていた私にしてみれば、
化粧を変えてみるのも服を変えてみるのも、かなりの冒険だ。
今心配されている最中の赤いパンプスだって、そうとう勇気を出して買ったものだ。
振り返ってみれば、今日は朝から冒険ばっかりしている。
だからもう、乗りかけた船だ。
経験が浅くてよく分からないからなんて、逃げの理由には不十分。
折角だから、今日は最後まで、冒険をつづけてやる。
内心の叱咤に少しだけ時間をもらって、私は自分に挑むようなつもりで顔を上げた。
こちらをうかがっていた意中の人と、目が合う。


「手、貸してくれる?」
「え、でも、俺」
「…この靴ね、すっごく歩きにくいの。だから、」


そう言って、私は軽くステップみたいなものを踏んでみせる。
賢い君なら、私の大嘘に気がついたはずだ。
一瞬考えをめぐらせるような表情をみせた君が、視線をやわらげる。
そして人生で一番冒険した私の一日は、予想以上の収穫を持ってしめくくられることになる。


「駅まで、できるだけゆっくり、歩いてくれる?」
「…分かった、駅に着いたら一度どこかに座って休憩しようね」
「…うん」


駅まで続く長い道を、できるだけゆっくり進んでいく。
優しくて正直なあなたと、臆病でちょっとうそつきな私が並んで。





赤い靴、 履いたのは。

 あなたにさらってほしかったから。





*   *   *

普段とちょっと違う雰囲気を書いてみたかった結果がこれだよ!



お題は「変わっているお題配布所 」さまからお借りしました。

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