王子の肩慣らし
どうして切り捨てられなかったのだろう。
何にほだされたのか…、私は、…通称王子の奴隷になることを選んでしまった。
「…じゃあ、いくつか約束しよう。普段はできるだけ今までどおりに生活すること。
俺の奴隷だなんてバラしたら、どうなるか分かるよね?
もっとも、誰も信じないだろうからさんが妄想しすぎの変態扱いされるだけだろうけどさ」
「…」
「それと、二人きりのときは…必ず俺のことをご主人様か様って呼ぶこと。間違えたらお仕置き」
「えっ…」
「返事は?」
からかいを含んだ視線に見下ろされて、私はもうそれ以上反抗する気にはなれなかった。
くんの機嫌を損ねたくないことに、変わりはない。
「………はい、ご、ご主人…様」
「いい子だ」
口元に笑みをのせて低い声で言われると、背筋がぞくりと震える気がする。
屈辱ながらに無理やり口にだした言葉に、くんは満足したらしかった。
獲物をいたぶるような勝者の表情をうかべながら、彼は私の耳元に言葉を落とす。
「じゃあ、次。この場でひざまずいてもらおうかな」
「えっ」
放課後の教室。
さすがにこの時間ならもうほとんど人なんて通らないけど、でも、部活が終わった人が荷物を置きにきたり
先生が通りかかったりするかもしれない。
そんな場所で跪けだなんて、…やっぱりこのひとはどうかしてる。
「ほら、さっさと動けよ」
「あ、あの…」
「何、口答えする気?」
鋭い視線に射抜かれて、結局私はまた反抗に失敗してしまった。
「わかりました…」
「誰に向かって言ってんの?」
「わかりました……様」
屈辱を覚えながら、私は仕方なく床に膝をついた。
直に肌に触れる床は、意外に冷たい。
これでいいの、と確かめる意味で顔を上げてくんを(恨めしげに)見上げたら、彼はまた満足そうに笑顔を浮かべていた。
「いいねー、こういうの。嫌がる子を無理やり服従させて、調教してくの」
「ちょ、ちょう…!」
あまりにも卑猥な単語をさらりと吐かれて、顔が真っ赤になった。
王子なんてとんでもない。…このひとは、変態だ。
「ああ、今さら奴隷やめるなんて言わせないからね。そんなこと言ったら、もう二度と反抗できなくなるように
きっちりお仕置きしてあげるから」
「えぇ…!?」
「なに驚いてるの、当たり前でしょ。俺の奴隷になりたいって言ったの、なんだから」
「…」
「それとも、本気でやめたいと思ってる?…俺みたいな男には、付き合いきれない?」
「そ、そんなんじゃ!」
「…ほら、やっぱり。俺の奴隷でいたいんだろ?…このマゾ女」
「…っ!」
心細そうな伏し目に、また騙された。
別れたっていう彼女さんのこと、やっぱりまだ引きずってるのかなって思って、あわててフォローを入れたつもりが。
またいいようにからかわれた。
挙句、マゾなんて呼ばれて…恥ずかしくないわけがない。
真っ赤になってしまったことに気付いて顔を伏せた私の頭に、彼の大きな手がそっとのせられる。
「優しいね…は。ちゃんと俺の気持ちを汲もうとしてくれる。
…期待してるよ。俺好みの子に育ってくれること…」
思いのほか優しい声音でそういわれてしまっては、どう言い返していいか分からなくなってしまった。
混乱する私の頭をそのまま軽くなでて、くんは塾の時間だからと帰っていってしまった。
「ああもう…」
普段は容赦なくいじめてくるのに、不意にあんな優しい声を出すなんて。
ご主人様、って呼ばされることに、ほんのちょっとだけ…ドキドキしてしまうなんて。
どうしたらいいんだろう。
「奴隷」の受難生活がまだまだ続きそうなことに、私はなすすべもなくため息をこぼすだけだった。
なんで不幸恋愛また増やしてしまったんだろう。最近若干自分を制御できてない残念な感じがする。
うん。Mなんです。こんなのばっかりかいてます。ほんとすいません。