070:かくれんぼ




隠れるのはお好き?



「さっさと決めちゃえよ」
「失敗する可能性ないんだから怖がることねーって」
「つか、4ヶ月目だろ?いまだに何もしてないとか信じられない」


うるさい外野に辟易しながら、は帰り支度をさっさと終わらせた。
試験前で部活もないし、早く帰ろうと思っていたのだが。
廊下に出たはいいものの、テスト勉強という単語を辞書から丁寧に洗い流した友人たちが群がってきて帰るに帰れない。


「お前なー、小学生じゃないんだから、キスぐら……ぐえ、何すんだよ!痛てぇって!」
「制裁」
「なんでだよ!」
「うるさい」
「韻踏んでんじゃねーよ!」


馬鹿みたいな雑談で話をそらそうとするも、相手が複数いるとやりづらい。
結局また「彼女とのキスはまだなのか」という下世話な話題に戻ってきてしまう。
やけにしつこい友人たちが、に事情聴取を迫る。


「でさ、なんでしないわけ?」
「好きなんでしょちゃんのこと」
「あ、まさか三次元の女の子に興味ないとか」
「馬鹿」


くだらない脱線を繰り返しつつ、話がキスをしない理由に向かっていく。


「いいじゃん、教えろって」
「なんか困ってんなら相談乗るからさー」
「別に、なんでもねぇよ」
「なんでだよー、こないだちゃん気にしてたぞ?ホントはまだ片思いなのかな、って」
「………それ、ホントか?」
「マジ」
「…………」
「おい?黙っちゃってどした?」


不意に言葉を切って、が立ち止まった。
不思議そうにを見る友人たちの輪の向こう側に向かって、は声をかけた。


「俺だって周りの奴がのぞいてなきゃ、とっくにしてたよ。
 …そういうわけだから、。人のいない場所まで、逃げるぞ」
「え?」


の言葉に疑問を返したのは、誰だったか。
あっという間に友人の包囲網を突破したが、廊下の角に隠れていたの手首をつかんだ。
え、と誰かがつぶやく間にはもう、を連れて逃避行を開始していた。


「何あれ」
「…てか、バレてたじゃんこないだ公園でのぞいてたの」
「ちゃんと隠れてたのにな」
、かくれんぼの才能でもあるんじゃね?…どこいったか見当もつかないわ」
「教材室とか」
「馬鹿、教材室2階だろ。とっくに外出てるよ、多分」


を物陰に隠していたことも二人の帰り道の光景をのぞいていたこともあっさり見抜かれ、
立場のない友人たちは互いに肩を竦めあうのだった。
無論、今度こそ人目のない場所にたどり着いた二人がどうしたのかは、言うだけ野暮である。




最近友人ネタが多い気が。

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