040:天使


「…天使、かぁ…」


私がつぶやくと、後ろの席の君がぎょっとしたように私を見た。
…そんなに、驚く事ないのに。


「…もしもーし、さん。いま、なんて言った?」
「あ、天使って言ったけど?」
「…天使?」


どうやら、私の外見で天使って言葉はあんまり似合わないらしい。
その証拠に君ったらすごいビックリしてるもん。
私だって一応女の子なんだから小説に出てきた天使がカッコいいなぁって思う事くらい、あるのに。

優しくて、ちょっと口が悪くて、でもすっごく頼れる天使。

そんな人が目の前にいてくれたらな…って夢見るのは、別に構わないでしょ?


「あのさ、さん。もう一回、聞くけど。」
「うん、何?」
「…何、考えてるの?」
「え、だから天使が…」
「ダメだよ!」


さっきまでぽかんとしてただけの君が、急に真剣な顔になった。
がたって音を立てて、椅子から立ち上がって、私の正面に回りこむ。
あんまり真剣な表情だったから、心臓がバクバクいいはじめた。
何言われるんだろうって、すごく、緊張する。
音にビックリして教室にいたほかの人たちの視線も私たちに集まってきてるのに、君はそんなこと気にしない。
急に私の正面に立って、君が口を開く。


「天使が迎えに来るなんて、ウソなんだから。死ぬのが怖い人の言い訳なんだから。
 だから早まらないで、さん!
 俺、さんが天国に連れてかれたりしたら、それこそ生きて行けないじゃん…」
「あ、あの…君…?」


なんだか盛大に勘違いしてるらしい君に、読みかけの小説の表紙を見せてあげる。


「…エンジェル、ティアー…?」
「うん。…私、早まってなんかないからね。小説読んでただけだから、安心して。」
「あ、…うん…」


勘違いしたのが恥ずかしかったらしくて、君が真っ赤になる。
私たちのやり取りを聞いていたらしい教室の他の人が、どっと笑った。
そんな君が可愛くて、思わず私もくすくす声を立てて笑うと、君は小さな声で怒ったようにつぶやいた。


「笑い事じゃないよ、
 俺、がいなくなっちゃうかと思って本気で心配したんだから。
 それに…」
「それに?」
には小説の中の天使なんかより、俺の方、見て欲しいもん。
 さっきのが勘違いだったとしても、俺にとっては重大な問題だよ」
「……、君。
 それって、……ちょっと、期待してもよかったり、する…?」
「ちょっとじゃダメ。俺、本気だから」


教室にいた人たちにものすごく冷やかされて、私も君と同じくらい真っ赤になった。


可愛くて、だけどカッコよくて、いつも一生懸命で、…ホントは、ずっと大好きだった
小説の中の天使なんかよりずっと、好きに決まってるじゃん。


「…天使のおかげで、私、好きな人から告白されちゃったみたい」

「うん……大好き、


クラス中から冷やかされて、が恥ずかしがって周りのみんなに文句をつけてるうるさい昼休みの教室の中で。


挿絵の天使が、「おめでとう」って、微笑んだ気がした。


神風成美さまからのリクエストで甘め「天使」、書いてみました。
…なんつぅか、お相手の言動が怪しげでごめんなさい;そして甘くなり切れなかった…反省;;

リクエストありがとうございました。
拙文ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。

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