015:演技
「…じゃあ、何だ?はもう俺の事は嫌いだ、と。」
「…そうよ」
「だから別れたい、と。」
「そうよ。いけない?」
まだ大丈夫。声は、震えてない。
が、私を見た。
軽蔑とも、ショックとも、あきれ返ってるとも取れる表情の本当の意味は、私には分からない。
だってきっとは、…ほっとしてるはずだもん。
浮気がばれる前に彼女がいなくなれば、堂々とあの子と付き合える。
私はが好きだから…
の枷にだけはなりたくない。
重いって思われる前に、自分から、出ていきたいんだ。
「…俺のどこが悪かった?悪いところがあるなら直すって言っても無駄なのか?」
「ごめん、もうやりなおす気はしない」
「…他に、だれか男でも?」
浮気してるのはでしょって怒鳴りつけそうになって、私はなんとか気持ちを押さえ込んだ。
せめて最後まで、物分かりのいい子でいたい。
「いないよ。でも…別れたい」
「」
「…なに?」
出来るだけ淡々とした口調で、に答えた。
ホントに冷めたから別れたがってるんだって、に思わせるために。
「俺に何を隠してるんだ?」
「え?」
「…さっきから一度もこっちを見ない。は嘘をつく時、いつも絶対目を合わせない…」
「…嘘なんか」
の言う通り、目を伏せてしまったのにあとから気付いた。
そんな細かい事をが見てたなんて、なんだか意外だった。
「だったらこっちを見て」
「見たく、ない」
本当に、と目を合わせたくなかった。
目が合ったらきっと、泣き出しちゃうから。
無理して物分かりのいい子になろうとしてるのに、「と別れたくない」って泣き出しちゃったら意味ないから。
の気持ちが私じゃない誰かにうつってるのに、迷惑なんかかけたくなかったから。
「!」
苛立ったようなの声が聞こえた。
でも私は、の方を見ないでソファから立ち上がった。
もうの部屋に来る事も、…きっと、ない。
「バイバイ、くん。…くんなら、新しい彼女、すぐできるでしょ」
「…まさか、…」
「私より大事な子がいるなら、もっと早く言ってくれても、よかったのに。幸せに…ね。」
「!」
部屋から出ようとした私を、が強い力で無理矢理引っ張った。
抵抗しても、は私を放さない。
「ちょ、やめて!」
「待て!俺は、…」
「放して、くん」
「…本当なんだ、…俺は以外の誰とも付き合うつもりは…」
「口ではなんとでも言えるでしょ」
「信じてくれ!」
「無理よ、…嫌、信じられない」
「…………」
本当は信じたいよ。
今だって私はの事大好きだよ。
でも…さよなら。
あなたのとなりにいるべきなのは…、もう、私じゃないから。
私はの腕を振り切って、部屋の外に出た。
「ごめんな、…俺のため、だったんだろ…」
去り際に聞こえたの声は、聞かなかった事にして。
物分かりのいい元彼女の仮面をかぶったままの私は、自分の家に向かった。
…演技をやめて、の事を想って泣ける場所へ。
頑張って書いた悲恋…ハッピーエンド主義者は悲恋書き向かないみたいですね(汗
途中で何度もハッピーエンドに逃げようと思ったんですが、結局微妙なラストで落ち着いてしまいました。
…それにしてもヒロインと彼はいったいいくつだったんだろう…全く考えてなかった…(汗