089:B

「うわー、最悪」
返ってきた悪夢の期末テストを目の前にして、
アタシはため息をついた。
…英語、ホントは得意なのに。
なんで、こんな点数取っちゃったんだかなぁ…。
ー、点数どうだった?」
後ろから名前を呼ばれて、アタシはドキッとする。

だ。
後ろの席のは、スポーツは万能だけどアタシよりちょっと成績が下。
でもなんか最近妙に頑張ってるらしくて。
今回のテストも、
「よーし、、期末の点数で勝負だ!」
なんていっちゃってさ。
でも相手がだから、結構楽勝で勝てるかなーって思ってたんだけど…。
「おーい、さーん。聞いてる?
 テストどうだった?」

さすがに無視してるわけにもいかなくて、アタシはやっと振り返った。
「うーん、今回はダメだった」
「へえー、って俺と違って英語得意じゃなかったっけ?」
…人の気にしてる事を。
「英語好きなんだけどなー、数学に比べたら。」
アタシが苦笑いしてごまかそうとすると、がさっと手をのばしてきた。
「あ…!」
アタシが驚いてる間に、いとも簡単にアタシの答案を奪い取って、
がのぞきこんだ。
「81点、まあまあじゃん?」
「ちょっとー!返してよー」
わめいてるアタシにはお構いナシで、が模範解答とアタシの答えを見比べる。
「へえ…やっぱ得意なだけあって文法とか全部できてんじゃん。
 どこ間違ったの…?」
「ただのケアレスミスだよー。返してってば。」
「どこどこ?…あ、この辺か!」

の指の先には、アタシのスペルミス。
Decideって書かなきゃいけなかったのに、
あたしが書いたのは、Becide。
ホントに、高校生とは思えない、バカみたいな間違い。
普段は成績優秀で通してるアタシがこんなミスしてるなんて、
…それも、よりによってに見られるなんて。
ホントに恥ずかしい!
「へえー、でもこんな間違い方するんだ?珍しー。」
「悪かったわね!それよりはどうだったの?点数。」
ちょっとした反撃のつもりでアタシがそう言うと、は得意げに笑った。
「英語でに勝ったの、初めてだなー。」
そういって…はアタシにそっと点数を見せてくれた。

…83点。
ほんのちょっとだけど…たった2点だけど。
確かにアタシは…に、負けてたんだ。
「あー、悔しい!2点差で負けてる!」
本気で悔しがってるアタシを見て、がまた笑う。
その得意気で嬉しそうな表情が、悔しいけど…ステキだった。
「しょうがないなー。俺がに英語教えてやるよ!」
なんですって、って言い返そうとしたアタシの前で。
がアタシの答案のウラに赤ペンで

 <Be mine>


…って、書いたんだ。


「何かいてんのよ!っ!」
思わず顔を赤くして、アタシはに向かって叫んだ。
だって…こんな文章、赤ペンで書いたら消せないじゃない!

アタシに負けないくらい顔を赤くしたが、ぶっきらぼうに返事を返してくる。
「Bって字の正しい使い方に決まってんだろ。
 の頭なら、意味も…分かんだろ」
そういってふっと横を向いたが、他の誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
「それ、命令文だからな。拒否すんなよ」

(あ…)

その瞬間、アタシには分かっちゃったんだ。
このために。
たったこれだけのために、がすっごく頑張って勉強したって事。
たったこれだけの単語を並べるためだけに、嫌いだって言ってた英語、
バカみたいに必死に勉強したんだって事。
アタシに勝つために。
アタシの心を、…勝ち取るために。

…」
「なんだよ、拒否すんなって言ってんだろ」
拒否なんか、するわけないじゃん。
ホントはアタシ、いつも心の中での事追いかけてたんだから。
走り回ってる時の横顔とか。
教室でみんなとしゃべってる声とか。
バスケでシュート決めた時の嬉しそうな顔とか。
のどんな小さな行動だって、心に焼き付いちゃって離れないんだから。

テストの点数に一喜一憂する声でにぎやかな教室の中。
頬を赤らめた男の子の横顔を見つめながら。

<I will Be yours.>

アタシは、アタシより2点分だけ頑張っただれかさんへのメッセージを、
そっと…、つぶやいたんだ。



言い訳コーナー

 …好きな女の子に告白するために勉強まで頑張っちゃう健気な男の子…
が、書きたかったんです!(希望、しかも過去完了)
でも…出来上がったものはこの始末…(自己嫌悪
ちなみに、バスケのシュートがどう、っていう描写につっこみはナシの方向で(汗

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