あんずあめのきせつ




「あれ、食べたいの」


そう言うと、彼は苦笑した。


「…去年もそう言ったよね、


言外に、去年結局それがどうなったのか思い出せと言われている。
それが分かっていて、私はすっとぼける。


「そういえばそうだったね、あの時は緊張してたからなぁ」


浴衣で出かけた去年の花火大会のときも、隣に居たのはだった。
ただ、あの時はまだ、恋人未満だったけれど。
お互いに相手の気持ちを探るのに手一杯で、両思いだなんて全然気付けなかった、
幼稚だけど懐かしくて甘酸っぱい思い出。
去年あんず飴を上手に食べられなくて手がベタベタになったのを体よく緊張のせいにして、
私は笑った。
の苦笑は、変わらない。


「じゃあ今年は緊張してないから上手に食べられる?」


優しい苦笑のままで意地悪な台詞を吐くに返すのは、やっぱり笑顔。
去年はこんなふうにまた一緒に夏を迎えられるなんて、思ってなかった。
日を増すごとにを好きな気持ちは増して、比例するように幸せも増える。


「どうだろう、と一緒だといつもドキドキしてるからなぁ」
「よく言うよ」
「本当だもん」
「…はいはい」


分かってるよ、と言いながらがミネラルウォーターのボトルとタオルをちらつかせる。
私があんず飴を食べたがった挙句、また失敗するのを見越していたとしか思えない準備のよさ。


「もう、意地悪」
「思いやりだよ」


さらりと返される冗談に笑って、すっと手を差し出す。
いつまでも、こんな幸せが続きますように。
そう願いながら、手をつないで歩く。


「おじさん、あんず飴ちょうだい!」
「…二つね」
「はいよ!お客さんたちラブラブだからおまけしとくね!」


露店でからかわれて、笑い声が起こる。
来年も、その次も、ずっと。幸せな時間をと一緒にすごしたい。

小さな祈りを袂にしまって受け取るあんず飴は、やっぱり甘くておいしかった。




*   *   *

12月に毛布片手に書いた。季節読めない。
ちなみに過去作置き場の夏祭り企画第2作目の設定を引き継ぎました。

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