「答え合わせ」
同じ答えを見つければそれで正解ってわけじゃないけど。
でも、独りじゃないって分かるだけでも心強いんだよ。きっと。
聞きなれたチャイムが告げたのは、テストの終わり。
４分の３くらい書き込んだテスト用紙は、回収されて教卓に連れて行かれた。
私は問題用紙をたたんで、それから上を向いた。
今日のテストは、これで終わり。
明日の分の勉強をしなきゃな、と思いながらふと、
帰りの支度をはじめようとしていた手を止めた。
たたんだ問題用紙を開いて。
私は振り返った。
「くん、どうだったー？」
声をかけたのは、 。
いかにもな優等生ってわけじゃないけど、頭がよくて
優しいから、すごく出来た人間に見える。
「うーん、今回はいまいちかも。さんは？」
「あ、もう全然ダメ。４分の１は空欄で、残りはきっと全部間違い」
「なんか今回難しくなかった？」
「ねー、あんな問題出されても答えられないもん！」
軽く笑い飛ばしながらちらっとくんの問題用紙を盗み見ると、
丁寧に計算式を書いた跡がある。
くんのいまいちと私のいまいちじゃ差がありすぎるなんて分かってるんだけどね。
でもやっぱり時々悔しい。
「そうだ、さん問３の答え何になった？俺なんかめちゃくちゃになっちゃったんだけど。」
「えーっとねー、問３？」
軽い口調でしゃべりながら、ホントはココロの奥で少しだけ劣等感を覚えてる。
きっと、くんは気付いてないけど。
勉強も出来るし誰とでも話せるし結構優しいし…。
私とは、大違い。
勉強だって中の下ぐらいだし、見た目も性格もぜんぜん可愛くないし。
きっとこうやってくんとテストの答え合わせをする私は、
なんだか不釣合いに見えるんだろう。
「…さん？さん？」
「えっ？」
自分の世界に入りかかってた私を引き戻したのは、くんの気遣わしげな声だった。
「さんどうかしたの？なんかあんまり元気ないじゃん」
「え、別にそんなことないけど…」
「そう？なんか、疲れてるように見えたから」
「大丈夫だよ、ありがと」
自分だってテスト勉強で寝不足のクセに、くんは
私の体調まで心配してくれるんだろうか。
つくづく人間としてのお手本みたいだって思って、内心苦笑した。
それに引き換え、私はどうなんだろう。
自分に何のとりえもなくて、それでくんに嫉妬してるんだから。
ホントダメな人間だ、って思った。
「ホント？あんまり無理しないでね。…あ、あとさ、
もしストレスたまってるんだったら、誰かに言っちゃったほうがいいよ？
…俺でよければ聞くし。」
「あ…ありがと、でも私、大丈夫だからさ…」
大丈夫だから。
そんなに優しくしないでよ。
くんが優しくしてくれると、切なくなるんだもん。
デキの悪い私と、完全無欠に近いくん。
不釣合いなんだって、手が届かないんだって思っちゃうから…、
そんなに、私なんかに優しくしないで。
心の中だけでそうつぶやくと、くんは急に手をのばして、
私の頭にのせた。
「…だったらいいんだけど、もしなんかあったらいつでもいいから言ってよ。
俺が力になれるのは、話を聞く事ぐらいだけどさ」
優しい笑顔を浮かべたくんの姿に、急にうるさい心臓が騒ぎ出して。
なぜか分からないのに、いきなり涙が出そうになって。
あわてた私は、何を思ったのか無理矢理笑顔を作った。
「ありがとう、くんにそう言ってもらえるとすごいうれしいよ」
くんはそんな私を見て、安心したような表情になって手をどけた。
「よかった、さん元気になって。…その、俺…」
「え？」
「あ、別になんでもない。気にしないでいいから」
「え、うん…」
なにがなんだかよく分からないまま、微妙に気まずくなって私は前を向いた。
後ろの席のくんの顔が赤くなってたのを、私は知らない。
もちろんくんも、私の顔が赤くなってたのを知らないんだけど。
でもなんとなく、今までより私とくんの距離が縮んだ、
そんな気がした。
完璧なくんと、欠点だらけの私。
つりあってるかどうかは、自信ないけど。
明日のテストが終わったら、今私とくんが考えてた事の答え合わせしようよ。
どんなにテストの点数が違っても、きっとその答えは同じ。
そんな気が、するからさ…。
ひたすら言い訳。
途中まで実話です（爆
後ろの席の男の子。頭いいんだよなぁ…。
そして彼に嫉妬しまくる可愛くない女は零そのものだったり。
でも世界史のテストで二人そろって悪い点取って
ひそかに喜ぶあたり、零は人間性間違ってますね（苦笑
ヒロインはそんなことしないと思うけど。
思わぬ性格の悪さが露呈してしまった文章でした（笑