027 松葉杖
「、次美術だろ。そろそろ行かね?」
「悪り、俺といくから。」
教室の後ろの方から聞こえてくる、会話。
和田くんと、もう一人は… 。
いちおう…アタシの、彼氏。
「あーやっぱ可愛い彼女がケガしてる時くらいそばにいてやるって?
そーだよなー、俺も彼女がいたらそうしてたよ、きっと」
「うるせーよ、和田」
からかわれて怒るクン。
かーわいいのになぁ。
なんて本人には、絶対言えない。
だって恥ずかしいし、きっと怒るから。
普段はクールでとおしてるクンだもんね。
「じゃ、先行って先生にが彼女と一緒に授業サボる気だって言っとくから」
「バーカ、ざけんなよ」
口は悪いし無愛想だし。
だけど何に対しても余裕で、器用にこなしちゃうクン。
そんな余裕のあるところに惚れたんだけどさ。
アタシが告白しても、さらっと「いいよ」って返しただけだし。
…要するに、そう。
アタシはもっと、かまって欲しかったりするんだ。
「おーい、さっさとしろよ」
和田くんを追い払ったクンが、アタシの名前を呼ぶ。
でもさ、クン?
さっさとしろよって言われても、アタシ無理なんですけど。
アタシの足は今、片方だけギブスにつつまれてていう事を聞かない。
松葉杖がなきゃ、歩くの一つ満足に出来ないんだから。
急げって言われたって無理に決まってる。
「無理」
アタシが即答すると、呆れた顔でクンはアタシの方に歩いてくる。
それからアタシの机に手をのばして、さっとアタシの教科書を拾い上げる。
「ほら、これなら立てんだろ?」
こういう何気ない優しさにアタシが弱いことを、クンは知らない。
知られたら悔しいから、アタシも教えない。
アタシは机の横に立てかけてあった松葉杖をとって、立ち上がろうとした。
「大変だよなー、も」
いきなり、クンがアタシを見てしみじみつぶやく。
「何?急に」
何言ってんのアンタ、とでも言いたそうなアタシの表情を見て、
クンが言葉をつないだ。
「いや、まだ1ヶ月以上治んねーんだろ?そのケガ。
その間ずっとこれのお世話じゃん」
そういって松葉杖を指差す、クン。
アタシは肩をすくめて見せた。
「まあね。松葉杖って意外と不便なんだよね。
ってか、置く場所に困るし邪魔なくせに、ないと歩けないしさ。」
しかも走れないから時間かかるし。
正直に言うと、アタシが骨折して松葉杖になった時一番最初に思ったのは、
面倒だなー、ってことだった。
普段そんなにおとなしいほうじゃないアタシが、足の骨折っちゃって
満足に動き回れないって、意外と辛い。
授業終わって椅子から立つだけでもひと苦労だし。
「でもねー、それより思うのはね、これじゃクンの隣を
満足に歩けないじゃんか、って事なんだよね」
アタシがそう言うと、クンは一瞬反応した。
確かにいつもどおり無表情なんだけど、それでも微妙に動揺してたって分かるのは、
やっぱり彼女の特権だと思う。
「アハハ、動揺してる」
アタシが笑うと、クンはムッとしたような表情になって、
でもその後すぐいつもの落ち着いた表情に戻った。
それから、ほんの少しだけ勝ち誇ったような表情になって。
「バーカ、隣なんか歩けなくたっていいじゃんか。
…キスは出来んだからさ」
あっ、って思う間もなく。
クンはアタシの正面に回って、速攻でアタシの唇を塞いだんだ。
アタシは真っ赤になって、クンをにらみつけた。
「バカ!」
「イヤならよけろよ、バーカ」
「どっちがバカさ!アタシがアンタとのキス嫌がるわけないでしょ!」
「…」
思わず大声になっていて、自分の言ったことが恥ずかしくてアタシはさらに赤面した。
クンも、必死でポーカーフェイスを保とうとしてたけど
どう見たって顔が赤かった。
「普段素直じゃねーくせに、いきなりそーいうコト言うなよ」
照れて横を向くクンが、やっぱり可愛かった。
「素直じゃなくて悪かったわねー」
アタシも同じくらい照れてたけど、クンはアタシのコト可愛いなんて思うのかな。
「…ほら、行くぞ」
「うん」
松葉杖をついたアタシと、少し離れて歩くクン。
まるで素直じゃないアタシたち二人のココロの距離みたいじゃない?
でも隣を歩けないからってアタシは悲観したりしないからね。
だってアタシたちの心は、必ずつながってるんだから。
ゆうみ様からのリクエストをちょうだいして書いてみました。
零は松葉杖を使った経験がなくてちょっと苦戦したんですが…
ついでに、最初からカレカノ設定もこっちは初挑戦だったのでなおさらドキドキ(冷汗
相手自由夢の中では比較的甘い仕上がりになった気がします。
ゆうみ様こんな感じでいかがでしょうか?
リクエストありがとうございました♪