「Reach for the sky」
「何すんだよっ、この野郎!放せ!」
「教会の前を走らないで頂きたいと、申し上げませんでしたか?」
「お前、燃やすぞ!?」
「出来るものならどうぞ。ですがセレエ様が見ていらっしゃる事をお忘れなく」
思えば、あの頃から俺は知っていたのかもしれない。
…どんなにあがいても、アイツに敵わない事を。
「おい、ニール。俺と勝負しろ」
「ヴァーシス様と、ですか?」
「そうだ。俺が勝ったらお前は城を出ていけ。」
「…分かりました。ではその代わり、私が勝ったら私の事を認めてくださいますね?」
「ふん、お前なんかに勝てるわけないだろう!」
どんなに強がっても、どれだけ気付かないフリをしようとしても。
「…まだ戦われますか?ヴァーシス様」
「くそっ…」
もっともらしい理由をいくつ考えても、事実だけは変わらなかった。
…俺は、あの神父に…勝てない。
「ただいま帰りました、ヴァーシス様」
「………ニールか。セレエなら中庭にいたぞ」
「そうですか…ありがとうございます。」
「ん?…何がおかしい?」
久々に城に戻ってきたアイツの顔は、何があったのかずいぶんと楽しそうで。
「いえ…少々、嬉しかっただけですよ」
「何がだ?」
「…ヴァーシス様が私と普通に会話してくださるので。」
「………別に、今さらお前に反抗する理由も意味もないだけだ」
「成長されましたね、ヴァーシス様」
「……。」
思わずしかめ面になる俺とは正反対に、ますます嬉しそうな表情になるこの男。
全く、食えない奴だ。
不意に、昔の記憶が蘇る。
セレエに頼まれて仕方なくついていった教会で、アイツが話したこと。
獣人族は、かつて空に強い憧れを抱いていたと。
そしていつかセレエや俺も、強く求めてやまない「自分にとっての空」を見つけられるだろうと。
…適当にしか聞いていなかったはずの言葉を今でも覚えていたことを
意外に思いながら、俺はほとんど無意識でつぶやいていた。
「ニール。」
「なんでしょう、ヴァーシス様?」
「…お前の空は、見つかったのか?」
あんな昔の話を覚えていて下さったのですか、と軽く笑いながら、奴は閉じていた目を開いた。
鋭いはずの目は、いつになく温かい色をしている。
「ええ…彼らといると、見つけられるような気がします」
「だろうな。…あいつらといる時のお前は楽しそうだ…特にあの賞金首といると」
俺の言葉にそうでもないでしょうと苦笑するニールの反応がとても自然に見える。
あいつらハンターといた事でニールが変わったのか、
…それとも、俺が今まで気付こうとしなかっただけなのか。
いずれにしろ、俺には初めてニールが「対等な存在」に見えた気がした。
勝ち負けがどうとかじゃない、ニール・フォリア・アテルという個人として。
「ヴァーシス様はいかがです?ご自分の空を…見つけられましたか?」
「さぁな。……ただ」
「ただ、なんですか?」
「…いや、なんでもない」
「そう仰られると気になりますね」
「誰が言うか」
昔、俺にとっての空はお前だった。
どんなに越えようと思っても決して越えられない。
それどころかどれだけ目をそらしても、俺を包んでしまう。
…そんなこと、本人の前で言えるか。
「兄さん!あ、ニールも!ここにいたんだね!」
「…城内を走るな、セレエ。その歳にもなって全く…」
「あ、ごめん……」
「ヴァーシス様も昔はよく走っていらっしゃいましたよね。…教会の前だけ」
「狽ネっ…まだ根に持ってたのか!?」
「いいえ?全く気にしていませんよ。…女神像を爆破しようとした事に比べれば」
「こいつめ…っ」
「おや、また戦いですか?久しぶりにヴァーシス様の相手も、
悪くないとは思いますが…」
「わっ…、に、兄さんもニールも落ち着いてっ…」
ニール。
俺も少しくらいは…成長したか?
お前のいう「空」に…少しだけ、触れられたのか?
いつも通りのニールの笑顔が、なぜか俺には肯定の返事に見えた。
公式サイト様の投稿板で書かせていただいたお話です。
このお話の本当のタイトルは「Touch the Sky」……和訳するとネタバレどころか暗号の答えなので
今のタイトルに変更しました。
ニールさんもヴァーシス様も大好きなんです。の割にキャラクターが激しく偽者っぽいですが…
読んでくださってありがとうございました。