「Catch or Caught」



「…私達としては、今の時点で彼の協力を得られなくなるのは避けたいのですが。
 ロマシアの脅威が去った後の事はともかく…ご協力、いただけませんか?」
「分かった。…場所は?」
「サンドーの【オフィス】付近です。その時の従者役は、私がつとめます。」


ノルダ王城。
その謁見室では二人の金髪女性が会話を交わしていた。
密談めいたそれの後、一人は何事もなかったかのように城を去り、
もう一人は何事もなかったかのように執務に戻った。


「…それはお前たちの勝手な都合だろうが。俺に協力する気はない」
「レイン、頼むよ!」
「我々もいい加減疲れてきているのでな。ブラック・レイン捕獲の依頼がこれだけ
 世間に取りざたされては、同行している我々にも危険が及ぶ」
「俺は知らん」


ノルダ・町外れ。
目下【オフィス】から捕獲依頼の出ている賞金首、ブラック・レインは
金髪青年と狼とエルフと白翼族と聖職者に詰め寄られるという異様な体験をしていた。
捕獲依頼が出てからというもの、当然のようにレインと同行しているクリス達も
色々な筋から狙われているのだ。
その厄介な状態を回避しようとウルグが考え出したのが、芝居を打つことだった。
レインを捕獲するのがいかに無謀で危険な事なのかを他のハンター達に見せつければ、
少しは狙われる回数も減るだろうと言う趣旨の物だった。
無論、小芝居などする気のないレインは拒否の一点張りだったが、
最終的にはそれまで黙っていた聖職者ニールの一言でかたがつく事になった。


「レイン。…私達に協力する事は、ヴァン国王との約束でもあったはずです。
 貴方に拒否する権利があると思いますか?」
「…ちっ」


それから数日後の夕方。サンドーの【オフィス】周辺で小さな騒ぎがあった。
青い髪のエルフと赤い目の少女が激しく口論をはじめたのだ。
罵声を浴びせあう二人に周囲の注目が集まってきた頃。
さらに大きな「騒ぎ」が、姿を現したのだ。


「煩い。」


不機嫌そうな声と共に、黒いロングコートに銀髪の長身の男が現れたのだ。
その手には長い槍が握られている。
喧嘩を見守っていた人々も、それが誰なのかはすぐに理解できた。


「…ブラック・レイン!」


青い髪のエルフがその名を叫ぶと、あたりが静まり返った。
名を呼ばれた当人は、ちらりとそのエルフを一瞥しただけだった。


「騒ぐなら砂漠で騒いでこい。俺が黙らせる手間が省ける」
「なんだとっ!?」


また頭に血が上った様子のエルフに向かって、茶髪に赤い目の華奢な少女が
身体に不釣合いな威圧感のある声で話しかけた。


「…ちょうどいい標的ができたな。どちらの魔力が強いか、あの賞金首で試してみよう。
 【オフィス】にアイツを突き出せたほうの勝ちだ」
「おもしれぇじゃねぇか!やってやるよ!俺様の氷魔法、受けてみな!」


ブラック・レインにむけてそう宣言すると、エルフはおもむろに呪文の詠唱をはじめた。
だが世界一の賞金首ともあろう男がその隙を逃すはずがない。
なぜか長引く呪文の詠唱が終わりきらないうちに、レインの槍がエルフに振り下ろされようとした。


「無用心だな!」


エルフに狙いを定めたレインの背後に素早く回りこみ、少女がレイピアをかざした。
レインは焦ることなく槍を振り回しながら振り返り、少女の頼りないレイピアを弾き飛ばした。
まるで少女が後ろに来る事を計算済みだったかのように。
とっさに飛びのいた少女を無視し、レインは再びエルフに向き直った。
無駄なスペルを織り込んだおかげで威力のほとんどを失ってしまった氷魔法がエルフの指から放たれる。
だが勢いのない氷の刃など、槍一つで叩き落とすのはレインにとって造作もないことだった。


「ウルグ、助けに行こう!」
「待てクリス!軽はずみな真似はよせ!」


エルフと少女が賞金首相手に苦戦しているのを見た観衆のうちの一人が遠巻きになっていた輪から飛び出した。
金髪の少年はナイフを手に、ブラック・レインに向かって進んでいく。
それを追うように、青い毛並みの狼が続いた。
【オフィス】の目の前はもはや乱闘の場と化していた。
氷魔法と弱い電撃、ナイフを使った体術。
なにもかもを薙ぎ払う圧倒的なブラック・レインの強さを目の当たりにしたハンター達は、
今戦っている3人と1匹の助力をする気にもなれず、ただ茫然とするばかりだった。


「いけません、イオ様!相手は賞金首です!」
「だから放っておけぬのだ!」
「イオ様!」


乱闘の外から、二つの声が飛び込んできた。
飾り気はないが十分上品な衣をまとった金髪の女性が、槍を手に乱闘の場へと飛び込んできたのだ。
その従者らしいもう一人の金髪の女性は何の武器も持っていないらしく、
遠巻きに叫ぶより他なにも出来ないようだった。


「お戻りください!イオ様!」


乱闘はさらに激しさを増した。
しかし入り乱れる魔法や武器を一蹴するレインの勢いは変わらない。
イオと呼ばれた女性もレインに劣らぬほどの勢いで奮戦したが、
とっさに乱入してしまったために衣服の事にまで気を回す余裕がなかったようだ。
戦闘向きでない服は彼女の動きの邪魔をする。
そしてそれが、彼女にとって致命的だったのだ。


「!!」


突然、レインを取り巻いていたハンター達の攻撃の手が止まった。
止めざるを得なかったのだ。
取り巻きが騒然となるなか、レインの低い声が夕闇に響く。


「イオ…か。ノルダの王女が、こんなところで賞金首退治か?」
「…っ、放せ!!」
「この俺がお忍びの王女様に狙われるとはな」


ノルダの王女と聞いて、取り巻きには再びざわめきが走った。
当の王女は、賞金首の片腕にしっかりと捕らえられている。
逃げ出そうともがいてはいるものの、所詮男女の力の差には敵わない。
レインの口元に、かすかに笑みが浮かぶ。


「ノルダの王女か…。
 おい、そこのガキ。…一国を担う上玉の女がいくらで売れるか、考えた事はあるか?」
「…し、知らない!それより王女様を放せよっ!」


金髪の青年がそう叫ぶと、レインは腕の中でまだ抵抗を続けていたイオを抱えなおした。
ちょうど片手で抱き寄せられたような格好になると、ふいにイオの抵抗が止まった。
だが、イオの予想以上の動揺が他の意味をもっている事に気付くものは周囲にはいなかった。
早い心音を聞きながら、レインが予定していたセリフを口に出す。


「さあ…最近雑魚が俺をオフィスに突き出すとかで煩くてな。
 気分転換にこういう大物を仕留めるのも…悪くない」
「イオ様!」
「…俺を苛立たせたのはお前たちだ。
 責任は、代表者にとってもらおうか」
「!」
「スティンガー」


イオを救出しようとハンター達が再び動き出すより早く、レインは空に向かって合図をした。
その合図に答えてブラック・ドラゴンが主人を背に乗せる。
抱えられたままのイオは恐怖なのかなんなのか、抵抗する事も出来ずにじっとしているだけだった。
そのまま飛び去ってしまったドラゴンと賞金首と王女を、その場にいた全員が
茫然と見送るより他、何もする事は出来なかった。

数時間後、一人の聖職者が気を失った王女を抱えてサンドーへ歩いてきた。
聖職者の話によれば、フォースの近くのオアシスで気を失って倒れていたと言うことだった。


それから数日の後、ノルダの【オフィス】を通じての王家からの要請により、ブラック・レインの捕獲の依頼が撤去された。
「危険すぎる依頼」は公にしてはいけないという教訓を残し、賞金首とドラゴンは消えてしまったのだ。


「…ほら、上手くいったでしょう?」
「こんなふざけた真似は二度とごめんだ」
「では、ふざけた真似をしなくてすむように今後は賞金の額を増やすような真似は謹んで下さいね、レイン」
「………ちっ」


最も…、後味が悪い思いをしたのは【オフィス】側に限らなかったようだが。

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