「アイデンティティ」
「……………。」
「きゃー、神父さま、触ってもいいですかぁ??」
「ええ、どうぞ。」
「わぁぁ♪」
真正面にはクリスの半分も生きていないような…少女。
目をキラキラ輝かせて…こちらを見つめている。
「やーん、可愛い〜っ」
「……………。」
少女はおもむろにこちらへ手をのばす。
情け容赦なく、その手は私を抱きしめてくる。
それこそ、ずっと欲しかったおもちゃでも手に入れたかのような幸せそうな表情で…
彼女は、私に抱きついた。
「……………ニール神父。頭痛がするのだが」
「すみません、ウルグ。もう少し遊んでやってください」
申し訳なさそうに苦笑しながらも、ニール神父が私を助けようという気が全くないのは
最初から分かっていた。
突然クリスの家を神父が訪れた時点で気付くべきだった…
いや、以前ハントの教会を訪れた時に覚悟しておくべきだったのだろう。
少なくともこの教会の中にいる限り、私の名は「ウルグ・S・イクシャード」ではなく
「わんわん」で固定されてしまうと………。
「ねえ、わんわん。わんわんはどこに住んでるの?」
「……私か。私はあるハンターと共同生活…いや、一緒に住んでいる。場所はこの街の近くだ」
「そうなんだぁ〜♪やっぱり犬小屋にすんでるの?」
「いや、普通の家だ。」
「へぇ〜、いいなぁ!」
私のプライベートを聞いて一体なんの価値があるのだろうか。
答える義理もないような質問ばかりだが、少女の横で微笑んでいるニール神父に
「健全な少年少女の育成は平和への貢献ですよ」…などと
完全に丸め込まれてしまった経緯があるため、返事をせざるを得ない。
…こんなところでクリスのために勉強した低レベルの言語が役に立つとは思わなかったが。
「ねえ、わんわんはどうやっておしゃべりできるようになったの?」
「……そうだな、一生懸命練習したからだろうな」
「そっかー、すごいね!わたしも頑張ったら色んな事できるようになるかなぁ?」
「そうだな、…結果も大事だが頑張る事はいい事だ」
「じゃあわたしも頑張ってお勉強して、大きくなったらわんわんと一緒にお出かけする!」
「…私と出かける?」
「うん!神父さまみたいに、わんわんと一緒に【のるだ】とか【ろましあ】とかにお出かけするの!」
「……。(遊びで出かけているわけではないのだが…言っても無駄か)」
「そうですね、世界もこれから平和になって行くでしょうから…
大きくなったらウルグと一緒にロマシアに遊びに行きましょうね。」
「はいっ!」
「そのためにはちゃんとお勉強をしないといけませんよ。いいですか?」
「はいっ!」
神父に諭されて元気よく返事をしたかと思うと、少女は再び私を振り向いた。
その目は相変わらずキラキラと輝いていて…どこか手のかかる私のパートナーを髣髴とさせる。
「約束しようね、わんわん!
ろましあに一緒に行って、ゆきがっせんしようね!」
「……ああ、そのうちな。」
うなずいてやっただけで「やったぁ」と叫んで少女ははしゃぎ回る。
全く…子どもと言うものはどうしてこうもエネルギーの塊なのか、理解に苦しむ。
だが、「わんわん」とあのロマシアに遊びに行こうと約束出来るのも
世界が平和に向かいつつある証だと考えるなら…、悪くはないものだ。
「またきてね、わんわん!約束忘れちゃだめだよ!」
「ああ…分かっている」
神父と共にハントの教会を後にする途中、不意に声がかかる。
「ああ、ウルグ。そういえば」
「何だ?」
「………否定、しなくなりましたね。「わんわん」…」
「面倒になっただけだ。」
「そうでしょうか?私にはそうは見えませんでしたが…」
…確かに。
もう私は「生物兵器」たる必要もないのだ。
たまには…ただの「わんわん」として生きるのも…悪くないかもしれないな。
どうもタイトルのつけ方が下手だな、と痛感してみたり。
ウルグ好きなのに…なぜか大抵可哀相な目にあってますね、私の文だと。
「ママ」だったり「だーりん」だったり…そして今回はわんわん(汗
そのうちブルー・スフィアあたり一撃飛んで来そうでひやひやしてます(笑)
あ…冒頭の女の子のセリフで女の子が「触ってもいいか」と聞いてたのはウルグです。
決して神父さんじゃありません。(…でも読み方によってはそう聞こえるかも…笑)
↓ニュアンスを読み違えるとこういう事になります。
零:「きゃー、神父さま、触ってもいいですかぁ??(神父様に抱きつく気満々)」
神父「……………あの…………(困)」