「Good At」





「わぁー、すごい!私は絶対できないよ〜。」
「だろ〜?実は結構練習したんだよな〜」


純粋に感嘆しているエストスと、得意気な笑みを浮かべるアレク。
アレクの手のひらの上には……結び目のついた、サクランボのヘタ。


「エストス、知ってる?
 口ん中でサクランボのヘタが結べるやつって、キスが上手いんだってさ」
「へぇ〜、そうなの?じゃあアレクも上手なんだね!」
「まぁな〜♪なんなら試してみる?」
「……俺が試してやってもいいぞ」
「狽ーっ……い、いや、ファウストが相手なら遠慮するってば」
「くくく……冗談だ」
「いや、冗談じゃなきゃ困るって」


アレクとエストス、ファウストのやりとりを聞いたシャイアがくすりと笑う。
おしゃべりが得意なアレクも、ファウストの前では太刀打ち出来ないらしい。
キスという単語に少し恥ずかしそうな反応を返すエストスの純粋さも微笑ましい。
自分にもそんな時期があっただろうかと回想して少し苦笑するシャイアは、
ふと外気を感じてドアの方へ目をやった。


「あら、おかえりなさい。二人でお出かけだったのかしら?」
「ええ…たまには教会へ戻らないと。」
「……」
「ヴァンまで行ったのね。お疲れ様。
 (……ということは、レインは交通手段に使われたわけね)」


案の定視線の先で面白くなさそうな表情をしていたレインに向かって、シャイアは声をかける。


「サクランボ、もらったの。二人も食べるわよね?」
「ありがとうございます、シャイアさん。」
「……俺はいらない」
「あら、そんなに甘すぎないから大丈夫だと思うわよ?」
「向こうで騒いでる馬鹿どもにでもくれてやれ」


楽しげに話しているアレクとエストスに一瞥をくれて、レインはライターを手に部屋から出ていった。
ウルグに家の中で喫煙するなとうるさく言われたからだろう。
レインをあまり気にする風もなく、シャイアは一人分のサクランボをさっと水に通す。


「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」


ニールがシャイアから小皿に入ったサクランボを受け取った途端、
アレクがその肩にぽんと手を置いた。


「どうかしましたか?」
「ほら、サクランボと言えばさっ。神父さんもやってくれよな〜♪」
「え…?」
「だからー、ヘタ。口ん中で結べるかどうか、ってやつ!」


やってやって、と楽しげにせがむアレクはまるで本を読んでくれと頼む子どものようで。


「仕方ないですね……」
「お、もしかして自信アリ〜?」


神父さんも隅に置けないな〜、と冷やかすアレクの横で、
ニールが小皿から一粒サクランボをつまみ上げて、ヘタも一緒に口に入れる。


「アレク…あんまり神父さんをからかっちゃダメよ」
「いーじゃんか、神父さんだって結構乗り気みたいだし〜?」
「そ、そうなのかな…?」
「ま、細かい事は気にしない〜♪あ、チェグもやってみる?」
「ぼ、僕はいいよ…こんなに大きいもの、口の中に入んないもん……多分。」

「……………これで、いいですか?」


丁寧にハンカチの上に置かれたサクランボのヘタは、きっと出来ないだろうという
アレクの予想を簡単に裏切っていた。


「…お、出来てるっ……意外だなぁ〜」
「悔しそうだな…負け惜しみか?」
「違っ……っておい、俺も出来たんだから負けてないじゃんかよ」
「くくく……冗談だ」
「(くっそ〜、俺ってファウストに遊ばれてる?)」
「確かに意外と言えば意外…かもしれないわ。
 神父さんなら食べ物を粗末にしちゃいけないって断ると思ってたから。」
「まぁ…ヘタは食べる部分ではありませんから」


シャイアの感想をさらりと流しつつ、ニールはふとエストスに目を留めた。
なぜか、彼女は結ばれたサクランボのヘタをじっと見つめている。


「エストス?」
「え、あ、はいっ!?」


声をかけられて驚いたように顔をあげた次の瞬間、エストスの頬が桃色に染まる。


「そんなに意外でしたか?…私がこんなことをするのが」
「あ、い、いえ、そうじゃなくて!その、神父様も…上手なのかなって…
 や、やだ私、何言ってるんだろう!ご、ごめんなさいっ!!」
「エストス…焦りすぎよ」


無意味に謝りながら、エストスは頬に両手を当てた。
どうにか頬の熱を抑えたいようだったが、上手くいっていないのは誰の目にも明らかだった。


「…大丈夫、ですか?」
「!」


心配そうな表情をうかべたニールが近付いた直後、エストスの赤面がいっそうひどくなった。


「シャイア〜、どうしちゃったの、エストス?」
「………チェグナスは知らなくていいのよ」


声こそ聞こえなかったものの、エストスがなぜあんなに赤くなったのかシャイアにはよく分かった。
そして、状況を掴めていないアレクとチェグナスには気付かれないように、
こっそりとファウストの身を案じた。


<何を考えていたのですか?エストス。
 ……そんなに赤くなっていると、
 サクランボと間違えて、とって食べてしまいますよ?>



(………意図的に間違える気だな)



それからしばらく、身の危険を感じたファウストは意図的にエストスを特定の人物から
遠ざけ続けたらしいが、その後どうなったのかは定かではない。


わー甘ったるい(自分で言うな)。
このカップリング2度目ですね…どうもこのお二人だと、ほのぼのっぽいものが書きやすくて。
サクランボのヘタ結べる人ってすごいですよねぇ……私は絶対出来ないです。無理無理無理;


余談ですが…上のコメントの「甘ったるい」を変換かけたら…「余ったルイ」になりました。
余り扱いされたら…きっとすごく怒るだろうな、ルイ氏。


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