「雨の日だけは」
「…止まないわね、雨」
「…。」
「クリス達…大丈夫かしら。チェグナスも…私達の事、心配していなければいいけれど」
「…そうだな」
大雨のせいでドラゴニア・マウンテンから下山できなくなったらしい二人のハンターが
小さな声で途切れ途切れの会話をしている。
金髪の女性の方は沈黙を恐れるようにとりとめもないことをぽつりぽつりとつぶやき、
青い髪の男性の方は話こそ聞いているもののたまにしか返事を返さずに
何かを考え込んでいるようだった。
「アレク…」
「ん?」
「…いいの。なんでもないわ」
「…」
静か過ぎていつもの貴方らしくないわ、どうしたの?
たったそれだけ質問しようとしたのに、なぜか彼女にはそれが出来なかった。
アレクという名の男性は何も追及せずに黙っている。
「シャイア」
「!」
次に口火を切ったのはアレクのほうだった。
声をかけられたシャイアは突然の事に小さく驚く。
その反応が今はここにいない彼女のパートナー、チェグナスの動きを思い出させる。
「なに…、アレク?」
「…………いや、いい」
「え?」
要領を得ない発言の真意をとりそこねて、シャイアが怪訝そうな顔をした。
座りこんでいるアレクの横顔からは、感情らしいものは読み取れない。
「何だったの?…どこか、怪我でもしてるの?」
「…違ぇよ。」
短く否定の言葉を返した直後、またしてもアレクは黙ってしまう。
声をかけづらい雰囲気ではあったが、シャイアとしてはいつもと全く様子の違う
アレクを放っておくことの方が嫌だったのだろう。
「じゃあ…何のこと?」
「…」
「教えてくれない?気になって仕方ないわ」
アレクの表情がかすかに変化したのをシャイアは見逃さなかった。
自嘲じみた苦い表情だった。
そして次の瞬間、シャイアは強く自分を引き寄せる誰かの手を感じた。
気付けば…アレクの目の前に座らされていた。
「アレク?」
「…悪りぃ…しばらく、抵抗すんなよ、シャイア」
「え…!?」
耳元で聞こえた声に驚く間もなく。
シャイアはアレクに抱きしめられていた。
反射的に身をこわばらせ、なんとか力強い腕から抜け出そうとしたシャイアだったが
アレクが弱々しくつぶやいた声を聞いてその動きを止めてしまった。
「……シャイアみたいな姉貴が…俺にいたらよかったのにな」
「え…」
「俺が誰かに甘えたくなるなんて…らしくないか」
「アレク…」
なんの気まぐれがそうさせたのか。
シャイアの手は自然とアレクの髪を撫で始めていた。
驚いたアレクが思わず腕の力を緩めても、シャイアが離れる事はなかった。
なにか共感のようなものを覚えつつ…シャイアは小声で話しかける。
「…でも、いいわよ。…たまに、だったら。」
「え?」
「だから。……たまには、私の弟になってもいいって…言ってるの」
「シャイア…」
再び、アレクの腕が強くシャイアを抱きしめた。
「…仕方ない弟ね」
「他の奴らには、言うなよ」
「もちろん分かってるわよ…それに、言えると思う?アレクに抱きしめられた…なんて。」
「ん、まあ…そうだな」
あと少し…雨が止まなければいい。
そんな自分の考えに自分でも少し驚きながら。
急ごしらえの姉弟は、静かに雨宿りを続けた。
ハロウィンイベントの影響でちょこっとアレクにぐらついた勢いで書きました。
アレクはシャイアといるのが一番似合うかなぁ…という妄想の元に。
でも今回は恋愛ではないです。…多分。
(と言いつつ線引きが微妙で不安だったため◆をつけてあるわたし。小心者です/笑)