「θ!!!」
青い光が消え去り、θも共に消えた。
荒れた荒野に、満身創痍の三人が残された。
「……っ」
「永禮さん!」
ぐらりと膝を崩した永禮を、Σが受け止める。
「何てことを…っ」
愚かな行いを叱咤すると、
「あれ、ありがとーのちゅーとかは、ないんですかね?」
痛みを誤魔化すように、わざとふざけて。
苦しげな呻きを吐いたかと思うと、永禮は意識を失った。
「バカ……っ」
いくらΣでも、傷の具合までは分からない。
しかし、鼻につく血の錆び付いた臭いが、永禮の傷の深さを思い知らせる。
「どうして私などを……っ」
声は、永禮には届かないだろう。
どうして自分を庇ったのか。
分かり切っている。
あの時Σを助けることができたのは、永禮だけだから。
あの場面にあったのがαでもθでも、迷わず永禮は同じように行動しただろう。
自分が傷つくことなど恐れずに。
その勇気が、怖い。
彼の愛が、痛い。
いつか自分の為に命を落としてしまうのではないかという、不安。
やはり、駄目なのだろうか。
優しい時間は、これ以上続かないのだろうか。
続かせてはならないのだろうか。
永禮の顔が見れない。
彼にとっては当たり前のことが、今は歯がゆい。
今、彼が見えたら。
見えて、いたら。
「永禮…さん…っ」
失いたくないと、切実に思った。
彼の光も、心も、全て失いたくないと思った。
自分と共に堕ちようとする彼を、留めなければ。
光を、失わないために。
汚れのない心を、失わないために。
それは、静かな決心。