「マリアさん、先輩、一体どうしたんですか?」
クレトが不安げに尋ねてくる。
そうね、不安にもなるわよね。
あんなベルグ、私も初めて見たから。
自分から手を傷付けようとするなんて。
どんどん勝手に一人で歩いて。
もうどこに行ったのか解らない。
「手、大丈夫ですよね?傷めていませんよね?」
「・・・大丈夫よ。そんなに壊れやすくないから」
そう言ってあげるけど、もしかしたらベルグは手を壊してしまいたいのかもしれない。
手が壊れたら任務は外される。
ベルグはそれを望んでいるのかもしれない。
「探しましょう」
彼の真意を確かめたくては、いけない。
「いた」
中庭に佇んでいる銀髪の青年。
同僚を見つけた彼女はゆっくりと近付く。
「ベルグ」
同僚の声に、ベルグは振り返る。
「あなたは、どうしたいの?」
彼の真意が知りたい。
何をどうしたいのか、この場ではっきりさせる必要がある。
「傷付けたくない」
視線を落とし、小さく呟く。
「そうね」
やっと素直になった彼。
今まで任務という言葉に邪魔されていた本心。
それを聞き出せて、自然に彼女の表情が明るくなる。
微笑を浮かべ、同僚の顔を覗き込む。
今まで、何の躊躇いもなく、任務を遂行していた。
任務のためには人を殺すことも厭わなかった。
そんな自分達が
『θを傷付けたくない』
と思ってしまった。
「ねぇ、ベルグ。私達なら、傷付けずにすむかもよ」
艶やかな笑みを浮かべる。
「私達は傷付けたくないって思っているもの。だから、傷付けないように、あのコを連れて来るように努力できるわ」
それが出来るのは自分達だけ。
「・・・そうだったな」
傷付けたくないなら、傷付けないようにすれば良い。
だた、それだけのこと。
「長期戦になるな」
「そうね」
この二人は付き合いが長い。
それだけ、互いの思考を理解している。
恐らく、同じ作戦を考え付いたのだろう。
「僕も手伝います!」
先程とは違い、晴れやかな表情を浮かべるマリアと普段通りの冷静さを取り戻したベルグ。
それを嬉しそうに見ているクレト。