〜空に紡ぐ者〜
その日、山吹色のドレスを着た少女は不機嫌を隠す事無く
辺りに重い空気を撒き散らし、近付く者に容赦無く攻撃していた。
その日は彼女の誕生日だった。
今日はサラサランドの王女として、今日の主役として立っていた。
国の祝辞という事もあって、朝から城下町は祝いの華やかさを持ち、賑わっている。
各国の重鎮も朝の早々から駆け付けた。
彼女の気を惹こうとする歳若い貴族達も同様だ。
それらの来賓達に丁寧に応答していく。
父である国王と自分に挨拶に来る彼らへの対応もいい加減ウンザリしはじめていた。
同じ言葉、同じ動作の繰り返し。ただ違う事と言えば、それぞれの顔が違う事か。
このただっ広い対面の間で、ずっと座りっぱなし。
少しの間取れる休憩もその間かから離れてはいけない事も
彼女がウンザリしはじめる原因の1つでもある。
一国の王女として、厳しい環境下に置かれている彼女にとって本当に心を許せる人間は数少ない。
だから言葉では嬉しい事を述べていても、心は冷めている。
もういい加減、終わらないかしら…
そう思い始めていた。昼を過ぎてからは式典広場で国民に挨拶。
夕方から夜にかけては各国の来賓達と舞踏会と、
今日のスケジュールはギッチリと埋まっている。
そろそろ心の底から笑える相手でも来ないと、息が詰まってしまいそう…
彼女は特大の溜息を付く。隣に座っている父に窘められて、表向きは取り繕う。
扉を開けられ、従者が深々と頭を下げる。
「陛下、姫様。キノコ王国のピーチ王女様がお着きになられました」
その言葉に笑みを浮かべた父がこちらに向く。
「デイジー、ようやくお目当ての人物が着たな……通せ」
従者に指示を出し、下がらせる。
暫くして、3人の影が間に姿を表した。
真ん中には桃色のドレスに身を纏った美しい金髪の女性。
彼女の右には、キノコ王国の大臣。キノじいの名で慕われる老人。
その反対側には、赤い帽子に赤のトレーナーとオーバーオールを着た青年。
3人は暫く歩を進め、玉座へ続く階段の手前で止まる。
「陛下、デイジー姫様。今日の良き日、とても喜ばしい事と思います」
「遠路遥々、申し訳ないな」
ピーチを筆頭に仰々しく頭を下げる3人に声をかける陛下。
その姿に、デイジーは疑問詞しか浮かばない。
「いえ、キノコ王国とこのサラサランドの今後の更なる発展と親交を思えばの事。
病床の父に代わり、お祝いを申し上げさせていただきます」
「ピーチ姫の父君は病床の身であったな。養生するよう、伝えてほしい」
更に形式的な会話の続く2人をよそに、デイジーの視線は一点にあった。
「…マリオ、ルイージは?」
力無く言葉に出す。しかし、その場を凍りつかせるには十分な言葉だった。
マリオの顔が引きつっている。どうにも彼は嘘を付くのが上手くない。
彼は顔を背け、頬をかく。
「その…いや…ルイージは来れません。都合が付かなかったもので…」
「……嘘」
誰にも聞こえないくらいの声でポツリと零す。
随分前から、式典の事についてはピーチとマリオには知らせていた。
ピーチには護衛としてマリオとルイージを連れてくるように、
マリオには救国の英雄として式典に列席出来るはずだから
ルイージをお付きとして連れてくるように、
そう頼んでいたのに…彼は来なかった。
せっかく、せっかく彼が来ると思ってこの日に合わせてドレスを慎重したのに、
化粧だって丁寧にしたのに、来ないなんて…
「ピーチの、マリオの、ルイージの馬鹿〜〜〜〜っ!!!」
何かが吹っ切れた。期待していた分、込み上げた怒りも大きかった。
その場の事なんか構わずに力の限り叫んでいた。
それからずっと、彼女は不機嫌のまま。
さすがに式典に出ている時は笑顔を作ってはいたものの、
マリオに突き刺さる痛い視線は容赦無かった。
そんな彼を見ていて、思った事。今日の彼は不審過ぎる。
式典の前、彼は側近を遠ざけ父と2人っきりで話していた。
父にどんな話をしたのか尋ねても教えてもらえなかった。
夕方から舞踏会が始まってからずっと、
あまり食事に手を付けず、彼は時計を気にしている。
何の変哲も無い普通の時計を見上げては、そわそわする。
ピーチ姫もピーチ姫で、尽く貴族達の誘いを丁重に断り続けている。
そんな彼らの様子を観察していると、マリオがピーチに話しかけ
2人一緒にデイジーの元に来た。
「…姫」
膨れっ面で場を睨みつけるデイジーにマリオが声をかける。
窓ガラスを覗けば、陽が暮れ始めいる。
「なによっ」
不機嫌を露にし、短く応答する。
そんなデイジーに苦笑いを浮かべるマリオ。
「…姫の部屋で、ピーチ姫と俺とで少し話をしませんか?ここでは話し辛い事なんですが…」
ジト目のデイジーに、にっこりと笑いかけるマリオ。
「お願いします。とても大事な事なので」
「……分かったわ」
笑いかけていても目は真剣だった事に彼女は折れた。
適当に理由を付け、ダンスホールから離れる。
部屋の前の衛兵も扉から離れるように指示し、話を聞かれないように配慮する。
ピーチとマリオが入った後、自分でシッカリと鍵をかける。
「で、話って何なの?」
振りかえりながらマリオに問い掛ける。
「実は、何もありません」
アッサリとした答え。
そう言いながら、首を振りつつ少し両手を挙げおどけてみせる。
「ふざけないでっ!」
誕生日にここまで振りまわされるとは思わなかった。
不機嫌を露にし、声を荒げる。
しかし、そんなデイジーを目の当たりにしても彼はビクともしない。
「…ですが、コイツにはあるハズです」
そう言い、おもむろにテラスへ続く窓のカーテンを一気に開ける。
「……っ!」
テラスの手摺に腰掛け、こちらをじっと見つめる青年が1人いた。
緑の帽子に、緑のトレーナー。それにオーバーオール。
マリオにそっくりだが、こっちの方が細い。彼の唯一の弟。
「…ルイージ」
フラリと窓を開ける。それと共に、カーテンが風に優しくなびく。
「遅れてごめん…」
笑みを零し、そっとデイジーの頬に手を添えるルイージ。
その手に触れ、その暖かさを感じる
「………馬鹿」
ポツリとつぶやく。
そんなデイジーを引き寄せ、優しく抱き締めるルイージ。
「…ごめんね。それよりも…」
キッとマリオの方を睨みつける。
「兄さん、遅すぎっ!約束した時間から一体どれくらい過ぎてると思ってるんだよっ!!」
「そんな事言われてもな〜…デイジーを不安にさせたんだ。
それくらい罰として受け止めとけ」
「……〜〜っ!」
何も言い返せず、何か言いたげな顔を向ける。
「兄さ…」
「心配するな。陛下からは許可をもらってる」
その言葉にキョトンとしながら振りかえるデイジー。
「お父様から…?何の許可をもらったの?」
その質問にはマリオは答えない。
代わりにルイージが口を開いた。
「君に…見せたい光景があるんだ。少し、ご足労願いたいんだけど…」
いいかな?と、笑みを浮かべ彼女を見つめる。
どうにもデイジーはこの笑顔に弱い。顔を真っ赤にさせながら頷く。
「……うん」
その返事と共にルイージに抱き上げられ、一気に視界が動く。
「じゃあ、行ってくるから…兄さん、姫、後はよろしく」
「あぁ、行ってこい」
「いってらっしゃい」
2人ともにこやかに見送りの言葉を口にする。
「デイジー、しっかり掴まってて…一気に下に降りるから」
「うん…」
デイジーを抱え上げたルイージはそのままテラスから飛び降り、
僅かな出っ張りに次々に足をかけ、衝撃を吸収させつつ軽々と地上に降りる。
そんな光景を見つつ、ぼやくマリオとピーチ。
「さすがはルイージ…俺には出来ん芸当だな…」
「3階にあるこの部屋に身1つで登ってみせるって
言い出した時にはビックリしたけど…」
「ま、俺達は留守番するだけですから…姫、中に入りましょう」
「えぇ、そうね」
そんな会話をしている内に、ルイージ達の影は城から見えなくなっていた。
城の外に止められていた車に乗り、走り続ける。
会話は何も無く、ただ沈黙だけが支配していた。
「…退屈だった?」
沈黙に耐えかねたのか、何気なく尋ねるルイージ。
「…当たり前じゃないっ!……貴方がいないだもん……」
「そっか……」
ルイージの手がデイジーの髪を掻き揚げる。
「ごめんね……」
その手は彼女の頭から冠を外す。
彼女は冠を受け取り、フロントへ置く。
行き場を失った彼の手を頬に添える。
「いいの…今はルイージが側にいるから…」
その言葉にお互い笑みを浮かべる。
暫くして彼が車を止めた先にあったのはワープ土管。
2人とも車を降り、土管に近付く。
「この先にあるんだ…君に見せたい光景」
そう彼は言った。
土管を抜けると、そこは満天の星空が近い場所だった。
雲が土の代わりをし、足場を覆い尽くしている。
所々にツタが真っ直ぐ伸びているのも月明かりでボンヤリと見える。
「ここって…」
「スカイガーデン。キノコ王国、雲の領地区内のコースだよ」
デイジーは首を傾げる。
「…コース?」
「えぇ。ここでレースが開催される予定なんだ。僕はここの設計に携わったんだ」
彼は彼女の背中の向こうを指差す。
それに導かれ振りかえると、ハッキリとは見えないがコースらしき道が見える。
「完成した時には一番にデイジーに見せたかったんだ…」
彼にそっと後から抱き締められる。
微かに冷たく感じる風に、彼の温もりが心地よかった。
「……綺麗ね」
正直な感想だった。
何より、誕生日に2人っきりでいれるのが嬉しかった。
「…ねぇ…」
「…ん?どうしたの?」
そっと耳元で囁かれる。
「そのレース…ルイージも出るの?」
「勿論、出るさ」
抱き締める彼の腕に手を添える。
「見に行くから…絶対勝ってよ…」
「勿論、勝つよ」
そっと彼は首筋にキスを落とす。
嬉しくて、恥ずかしくて、つい顔を赤く染め上げてしまう。
「……もうっ……」
後日、その約束は果たされた。
キノコ王国主催、スカイガーデンを含むサンダーカップを
制したのはルイージだった。
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◆あとがき◆
はい、ルイージ×デイジーのお話でした。
なんだか最後…書き逃げ感があります(><;)
ゴメンナサイ…修行しなおしてきます…
さてさて、一番の突っ込み所といえば、ルイージ!
アンタ3階までジャンプ1つで登ったんですか?(笑)
一体どういう筋肉してるんだ…?
ウチのルイデジに関しては、こんな雰囲気です♪
感想をいただけましたら、何よりです♪