#7 賢者の異変、令嬢の危機 3

「心配かけました。もう大丈夫です」
カイルは、まるで憑き物が取れたようにシャロンへ笑いかける。
「貴方…」
「よ、よかったねお姉ちゃん! じゃあボクは、これでっ」
少年が、後ろを向いて立ち去ろうとする。
「あれ、もういいのか? まだ何もしてないだろう?」
そんな少年に、カイルは声を掛けた。
「…え?」
「…え?」
シャロンと少年の言葉が重なる。
「まぁ、邪魔が入ったんだから仕方ないか。せっかくこんな良い所で、良い標的を見つけたのに、残念だった」
「この人…何を、言ってるの?」
怪訝そうな表情で、少年はシャロンに問いかける。
「………」
シャロンは黙って、ただカイルを見ていた。
「ゲーム」
「ぅ!?」
「ただの遊び。おふざけ。だから、途中でバレたら…」
カイルは話しながらもゆっくりと歩き続け、少年の前に立つ。
「はい。おしまい」
「な、なにを…」
「緊張か。こういうケースは初めてだって、顔にも出ている」
「うるさいっ! オレは……っ!」
少年は激昂するように叫ぶが、次の瞬間に、慌てて口を閉ざしてしまう。
「もうボロが出た。稚拙だな」
「だっ、黙れっ!! なんなんだよ…お前…」
「さぁ、なんなんだろう。オレも、名前までは読めないから、答えられない」
「なに言ってんのか、分かんねぇよっ!」
(名前までは…読めない?)
シャロンは、ただじっと眼前の光景を見ながら、事態を把握しようと努めていた。

「あぁ、でも。これなら答えられる」
カイルは、軽く笑いながら、語りだす。
「普段は、周りにいい顔をしている優等生。でも時々、そんな自分が嫌になって、自暴自棄になる」
「えっ…」
「そして、自暴自棄な自分にまた新たな嫌悪を抱きつつも、同時にどこか魅力を感じている」
カイルは肩をすくめる。
「だけど、それは認めたくない。そこで、ジレンマが生じる」
「な、なんでそんなこと…」
カイルが言葉を重ねる毎に、どんどん少年は狼狽していく。
「だから、そのジレンマを発散するために、やっぱり暴力で、弱いものを貶める。自分の中では、ゲームと偽りながら」
「っ!!?」
シャロンは、そこで気付く。自分は、狙われていたのだ、という事に。
カイルは、そんな彼女の様子を軽く一瞥すると、さらに続ける。
「これは、色で表すと『グレイ』だ。しかも、所々に、赤や黄色の斑点が混ざってる。あまり、綺麗とはいえないな」
「……だまれ…」
「それにしても。声を掛けるまでは、そんなに緊張してなかった。これで、何回目だ?」
「黙れ…いいから、黙れっ!!」
少年は叫ぶと、着ていたシャツのポケットから折りたたみ式のナイフを取り出す。
「ッ!?」
カイルの目が見開かれる。
そして、強張る体。
「は…ははっ、知ったような口をきいてても、結局はカッコだけかよっ!」
少年はカイルの様子を見て、自分が優位に立ったと思ったようだ。
「…や、やめろ……」
カイルは、急に胸を押さえると、苦しそうに呻く。
「お前が…お前が悪いんだ!」
少年は、既に自分を見失っていた。震える手で、その切っ先をカイルへと向ける。
「やめなさいっ!!」
その時。シャロンが、カイルを庇うように、少年との間に割って入る。
「なんだよ…どけよっ!!」
「シャロン…さんっ!」
カイルと少年は、同時に動きだした。


「いないね、二人とも」
「んー。たしか、こっちの方に走っていったんだけどなぁ」
「いえ……近いわ」
ルキア達は、林の中を歩いている。
「あっ、ねぇ!あそこっ!!」
突然、ユリが指を刺す。その先に、カイルの姿はあった。
「…えっ!?」
「………」
ルキアとマラリヤは、思わず息を飲む。
彼は、少年の喉元へ、ナイフの刃を押し当てていた。


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