「ねぇ師匠、静句さんて、こけしがお好きなんですかい?」
「さて、初耳だな。だがまたどうして」
「いえ、このあいだ何気なしに気付いたんですけど、静句さん、こけしを持ち歩いていらっしゃるようで」
「ほう」
「それが『絵付け』されてない、素のこけしとでも申すんでしょうか、木目のまんまの、初めて見るような形で」
「ふうん」
「一尺くらいはありそうですよ。けどわりと細身で、胴はくびれて少し曲がってるんです。太いところで一寸半くらいでしょうか。で、頭はまん丸でこれまた小さい」
「ほほう」
「珍しそうな一品だなあと。それがよく磨き込まれて艶があって、なんなら黒光りしそうなくらいで。ずいぶん大事にされてるご様子でしたから、てっきりご趣味なのかと」
「なるほど。だがそれは知らんな。まったく知らん」
「おやまあそうでしたか、そいつは少し意外でした。いつもご一緒の師匠でもご存じないことがありましたとは」
「静句は木訥としているからな。後で訊いてみようか?」
「ああいえいえ。また私が余計なことを口走ったと知れたら、静句さんに殺意のこもった目で睨まれちまいますんで」
「ふふふ。なら訊かぬでおこう」

目を閉じ微笑む鴉夜に
「本当は何かの武具かもしれませんし。というかそっちのほうが道理でしょう」
津軽は補足して自分も笑った。
それもそうだと鴉夜も思った。

鴉夜の命に応える為の傀儡であること――。
それが存在理由であり、静句はその為に生きてきた。

よって己が生まれついてのフタナリであることはもとより、童貞でいまだキスの経験すらないことや、変態なことなど、それが鴉夜にとって何の関係もない事柄である以上、一切を告げず、また悟られぬよう振る舞ってきたのは当然だった。

しかし九百年以上生きている鴉夜に、果たしてそれだけでバレずに済むものか――。いや普通はバレる。けれども鴉夜が本当に何も知らずにいたのは、静句が従者として表面上は完璧に自我を(性欲も)消していたことは大前提であるものの、単にあまりに短小すぎてフタナリと気付いてもらえなかったという解釈が最も実態に近かった。

ちんぽよりチン毛のほうが長い包茎。勃起してもちんぽが毛に埋まったまま。チン毛の密度も長さも量も常人を数倍超え尻の間からはみ出ている。すなわち外見上はただの剛毛女。とてもちんぽが付いているようには見えない。

そんな静句が指先二本だけを使いモゾモゾ行う自慰は、本人がいくら性交を夢想して激しくやっているつもりでも、傍から見れば『マン毛の中が蒸れて掻いている』仕草にしか見えず、どうやっても『せんずりを掻いている』ようにはならなかった。

万が一にでもそれを鴉夜に見られたところで、なにせ少女時代の衛生状態が激烈に悪かったから、むしろ静句の常識よりその手の行動に寛容で、かえって怪しまれなかったろう。

かくして五体満足であった時分から、鴉夜は何も知らなかった。
首から下の全てを失った今となっては、ましてや知る由もなかった。

鳥籠で移動する不自由な生活がはじまって日の浅い頃、とある八百屋の店先で、サイコロ状に切った生のさとうきびが売られている珍しい光景に出くわした時の事。それを鴉夜が欲したので、静句が買い求め、人目のない日陰の路地に入ってから鳥籠の中に差し入れた。
「いやいや、一つで充分だよ。残りはおまえが食べれてくれれば良いさ。と言っても本当に食べてはだめだぞう?これは繊維を噛んで汁を味わうものだからね」
そう断わって鴉夜は一つを舌の上に乗せ唇を閉じ香りだけを鑑賞した。しばらくして彼女が口から出したさとうきびの欠片を静句は黙ってハンカチで受け止め、丁寧に包み仕舞った。

その日の夜、静句は仕舞っておいたハンカチから《宝物》を取り出した。
「あぁ、これが鴉夜様の……」
昼間に鴉夜が舐めたさとうきびはそっくり形を保ったまま、表面はまだ乾いておらずヌルヌル濡れて、ハンカチを開くとネットリした糸が四方に広がった。
(う、うぉぉ……)
下品な感嘆詞が心の中で漏れた。それは期待していた花のような香りではなく、甘い蜜の匂いもせず、由来を知らなければ即座にハンカチごと燃やして捨てているような代物であった。
(く、臭せぇぇ……!)
だが静句は歓喜していた。あんなにも可憐で神々しいほどの美少女である鴉夜の唾液がこんなにも臭うとは。これぞ変態の本望に他ならない。
(や、やべぇぇ…!超臭せぇぇ…!スーハースーハー……クンカクンカ……)
内心で叫びつつ、切れ長な目を見開き鼻の穴を膨らませ必死に臭いを嗅いでいると――不意に背後から主人に呼ばれた気がした。
「ひぃ?!」
静句は間抜けな悲鳴を発した。実は机の上の鳥籠を放置するわけにもいかず、一部始終は部屋の隅で鴉夜から見えぬよう背を向けコソコソ行っていただけであった。ただし彼女はベールに覆われ一時間も前に眠りについたはずだった。

真冬の水風呂に叩き込まれたように静句の興奮は一瞬で冷めた。もとより主人の命とあらばいつでも躊躇なく腹を裂き喉を突いて自決する覚悟はできていたが……。
「はい、鴉夜様、お呼びでしょうか……」
静句はハンカチを改めて丁寧に仕舞い、古式に則った切腹に臨むかの如き面持で鳥籠の前へ立った。そして死刑宣告を受けるつもりでベールを静かに持ち上げたのだが――。
「あ、鴉夜様……?」
そこに至ってようやく全てがただの空耳に過ぎなかったと悟った。

鳥籠の中で鴉夜は眠っていた。というより熟睡していた。
それでも静句は息を呑んだ。その鴉夜の寝顔があまりに《凄惨》だったからだ。
それはまさしく《斬首された美少女の生首》そのもの――顎が垂れて舌が飛び出し、半開きのまぶたから別々の方向を向いた大きな眼球が露出していた。

在りし日の鴉夜の寝顔はそれはもう夜ごとに見惚れてしまう美しさであった。ただし、何かの拍子ですぐに目を明けてしまいそうな、儚いガラス細工のようでもあった。

それが鳥籠で眠る生活へと変わり、思えば今の今まで夜中に一度もベールに触れられなかったのは、色褪せない鮮烈な記憶が静句を躊躇させていたからだった。

ところが現在の鴉夜が以前と変わらぬ容貌を維持していられるのは覚醒している間のみで、熟睡し弛緩するとたちまちこのように崩れてしまうらしい。道理からすれば確かに無理からぬことであるが……。

現在の鴉夜の寝顔――それはまぎれもなく《死顔》だった。
過去九百年間、彼女の排泄を覗いた変態フタナリ女は数千人をゆうに超えるだろう。しかしこの《死顔》を目撃したのは今この瞬間の静句、ただ一人の他に誰もいない。彼女は死ぬとこんな顔をするのだ。

静句の呼吸が早くなった。
鳥籠からは血の臭いも肉の臭いも腐敗した臭いも漂ってこない。代わりに寝息が聞こえる。確かに彼女は生きている。こんなにも寝顔は無残なのに、寝息の仕方は可愛い。そして顔を近づけるとその寝息が微妙に臭いのだ。

気が狂いそうな興奮に駆られ、静句はメイドスカートを持ち上げパンツを下ろした。これから何をはじめようがどんな音を立てようが主人は絶対に目を覚まさないと確信があった。

「鴉夜様、どうかご無礼をお許し下さい……すぐに終わりますので……」
震える声で許しを請いつつ、チン毛をかき分けつまみ出した黒い包茎ちんぽを皮のまましごきはじめた。
「お゛おぉぉっ……!」
一分と経たぬうちに唸り声を発し鳥籠の前で静句はボタボタと射精した。 

明くる日、どこの八百屋を探しても生のさとうきびは売られていなかった。――が、代わりに風変わりな細長いこけしを見つけた。それはくびれた胴がやや曲がり頭は小さくまん丸で絵付けが施されていない無地であった。

ひと目見て静句は『今晩これを尻に突っ込んでオナニーしよう』と決意した。

その日の夜から、鳥籠の前で素っ裸の四つん這いになり、尻にこけしを突っ込んで手を使わず射精するのが静句の趣味になった。

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