午後7時。
華にとって試練の時間がはじまる。

カーチャと一緒の夕食。もちろん、お腹は空いている。
それなのに、華は食欲よりも別の欲求を覚えてしまうのだ。
それは、今日1日で何度も、食事の回数よりもずっと多く催し、
そして満たされたはず欲求。
つまり、性欲。

可愛らしい仕草で小さな口に食べ物を運んでいるカーチャは、
華にとってとてつもない興奮の対象となりえた。

口を開き、噛んで、唾液と絡めて飲み込む。
華からすれば、それは“いやらしいこと”そのもので。
だからもはや食事どころではないのである。
スプーンを持ったまま、意味も無くスープをぐるぐると混ぜて、カーチャに見とれていた。

カーチャのほうはというと、
そんな華の視線にはもちろん気付いていながらも、あえて知らないふりをしている。
そして、自らをたっぷりと視姦させておいてから、不意に語りかけるのだ。

「ねぇ、華」
「は、はひっ?!」

華は高い声で返事をする。

「…あなた、いつも食事の後片付けをするとき、
私が使った食器を舐めまわしているわよね。どうしてそんなことをするの?」
「ええっ?!わ、私、そんなことは…!」
「している、わよね?」
「…は、はい…してます…ごめんなさい…」
「それってやっぱりあれなのかしら、私の唾液に興味があるわけ?
ううん、あんたみたいな変態は、“ツバ”って言ったほうが興奮するのね?そんなに私のツバが好き?」
「す…好きです…!カーチャ様のツバ、大好きです…!!」
「フフフッ。救いがたいド変態ね。でもいいわ、それなら少しくらい味合わせてあげる」

カーチャは楽しそうに身を乗り出し、華に顔を近づけた。
華は期待し、目を閉じる。
だが、数秒待っても感触がない。
代わりに、ピタ、ピタ、と滴が何かに落ちる音がした。

「…??!!」

目を開けた華は仰天した。
スープの器に、カーチャが唾液を垂らしたのだ。

「直接口移しでもらうより、こうされるほうが興奮するのよね?へ・ん・た・い、さん?」
「はぃぃぃ…変態ですぅ…」
「ほら、どうしたの、早く食べなさい?」
「いただきますっ!!」

ズズズッ、といかにも日本人っぽい下品な音を立てながらスープをがっつく華を、
カーチャは愛しそうに眺めるのだった。

午後9時。
華が片付けをしている間に入浴していたカーチャが戻ってくる。

「華も入りなさい?」

カーチャに許しをもらい、華はいそいそとバスルームへ向かい、ドアを開ける。

『…はうあっ!!』

ドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは、無造作に床に脱ぎ捨てられたカーチャの下着。

『カーチャ様の、ぉパンツ…』

華はそれを拾い上げ、小1時間ほど前までカーチャを包み込んでいた部分に顔を近づける。

『クンクンしてごめんなさいっ!クンクンしてごめんなさいっ!』

だが、衝動を押さえることは出来ない。
散々匂いを嗅いだ上で、カーチャの下着と自分の下着を一緒にして手洗いするのが、
華にとって最高に幸せな一時である。

午後11時。
夜回りをしない日の華は、さっさと寝る。

ベッドはカーチャに取られてしまったので、今はソファーが華のベッド。
毛布にくるまってムニャムニャしていると、すぐに夢を見始めた。

華は毎晩、似たような夢を見る。
もちろん内容は違うのだが、設定が決まって同じなのだ。
それは、カーチャと出会った直後の頃、人形のように愛くるしい少女から、
「ハナお姉さま」と呼ばれていた頃の自分が、文字通りカーチャの“お姉さま”であるという設定。

今晩も華は夢の中で、粗相をしてしまったカーチャをきつく叱りつけるのだ。

「ごめんなさい、ハナお姉さま…」
「まったく、悪い子ね!だからあれほど、寝る前にジュースを飲んじゃダメって言ったのに!」
「だ、だって…カーチャ、喉が乾いてしまったんだもの…」
「少しは我慢することを覚えなさい!あんたが1人じゃ怖いっていうから特別に一緒に寝てあげたのに、
おかげで私のベッドがびしょ濡れじゃないっ!!」
「ふぇぇぇ…ひっく…」
「泣いたってダメよ!言うことを聞かない子は嫌いね!」
「ご、ごめんなさい、ハナお姉さま…
これからは、お姉さまの言うことをちゃんと聞きますから…
だからお願い、カーチャのこと、嫌いにならないで…」

カーチャは涙をポロポロとこぼしながら、華にすがり付く。

「そうね、これからは私の言うことは何でも聞きなさい。約束よ?」
「はい、華お姉さま…約束、します…」
「いい子ね」

華はカーチャを抱き寄せ、そしてキスをしようとする。

「…お、お姉さま…?!」

びっくりしてカーチャが身じろぎすると、華は壊れてしまいそうに華奢な少女の腕を掴み、脅すように囁く。

「すぐに済むから、おとなしくしてなさい。言うことを聞かないと、外に放り出すわよ」
「うぅぅぅ…」

カーチャは涙を流し、目を閉じた。
少女は、女がはじめから自分を欲情の対象として狙っていたことを悟った。
小刻みに震える無垢なカーチャの唇が、華に捧げられるのだった…。

午前6時。
朝方になってもまだ脳内で日代わりロードショー状態の自作変態映画を堪能している華の眠りは、
ドシン、という衝撃と共に唐突に遮られる。

「あた、あいたたた…」

華は上下逆さまになって、頭から床に落ちていた。
首を起こすと、毛布の端を手に持った、やや不機嫌そうなカーチャが目に入ってくる。

「おなかが空いたわ。朝食の用意をしなさい。
まったく、奴隷の分際で主人より遅くまで寝ているなんて、どういうつもりかしら?」
「も、申し訳ありまへぇん…ただいま…すぐに、準備を…」

舌を絡ませながらヨロヨロと起き上がる華。
これほど寝ぼけていても、きちんと奴隷として振舞おうとする華の姿に、カーチャは目を細くした。

立ち上がった華の首に、カーチャはぴょんと抱きついて、キスをする。

「…むぐぅ…ぷぁっ?!」

たっぷり2呼吸分、唇を塞いでから、華を見上げてカーチャは微笑む。

「感謝なさい。寝起きの口にキスしてもらえる奴隷なんて、この世であなたくらいのものよ」
「は、はい…ありがとうございます、カーチャ様…」

華はすっかり目が覚めた。
そしてまた今日も1日、この可憐な美少女に奉仕ができる幸せを、心の底から感謝した。

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