「えぇっと…イクト君〜?」

万田が声をかけながら扉を少し開き、内側を覗きこむ。

「…あー…」

ベッドに寝転んでいたイクトが、彼女のほうを見ながらダルそうに起き上がった。

「ふぅ、良かった、逃げてないわね」

彼の姿を確認した万田は安心して扉を開き、中へと入っていった。

「はい、これ。晩ごはん」

万田は弁当とお茶をイクトの膝の上に置いた。

「…うわ、またコンビニ弁当かよ。
なんか他のもん食いたいんだけど。いい加減、もう飽きた」
「贅沢言わないの。私だって同じなのよ」

イースターに捕まったイクトは、研究室の内部に作られた小部屋に監禁されていた。
九十九、千々丸、万田の3人は日替わりで研究室に泊まり込みながら、
イクトが逃げ出さないよう監視している。
そして今日は、万田の当番だった。

「あのさ、風呂、入りたいんだけど」

弁当を食べ終えるとイクトが言う。
研究室には、シャワールームが備え付けられている。
元々、あまり成果をあげられていなかった九十九たちは会社で徹夜することも珍しくなく、
ここには一通りの設備や小物が用意されていた。
その一部は、必然的にイクトも使うことになった。

「終わるまで私はここにいますからね?」
「はいはい、分かってるよ」

腕組みをしながら入り口の前に立つ万田。
カチャカチャ、とベルトを外す音が中から聞こえ、次に、ジッパーを下ろす音がし、
最後に布が肌と擦れ、足の先から抜ける音がする。
やがて聞こえてきたのは、サァーというお湯の流れる音。
他の音は、一切聞こえなくなった。
耳を澄ませてイクトの動作を確かめ、警戒していた万田は、ふと不安を感じた。
シャワーの音にまぎれて、イクトが良からぬ行動を図っているのかもしれない。
その可能性は、十分ある。
危険を感じた万田は、後ろを振り向いて、そっとドアを開けた。
イクトが間違い無くそこにいることを、確かめたいだけだった。
しかし、そんな万田の不意を突くように、彼女の目に飛び込んできたのは、
おとなしくシャワーを浴びているだけの、無防備なイクトの姿だった。

「……!!」

万田は慌てて、ドアを閉めた。
イクトには聞こえないと分かりつつも、とっさに謝罪の言葉が口をついて出た。

「ご、ごめんなさい…」

それは独り言のようで、万田は胸のあたりをギュッと押さえた。
自分の予想を遥かに超える鮮明さで、イクトのシルエットが見えてしまった。
それはまばたきする間ほどの一瞬でしかなかったが、
万田の目にはイクトの裸がはっきりと焼きついていた。
スラリと長い手足、けれど決して華奢なわけではなく、肩はきちんと大きい。
要するに、男としてとても理想的な体形。
分かりやすく言えば、カッコイイ。
それが、イクトの肉体。

「や、やだわ、私…子供の裸を見て、何ドキドキしてるのよ…」

仕事一筋の万田にとって、男を意識する感覚は、ずっと遠くに忘れていたことだった。
周囲にいる男といえいば、九十九と千々丸。
共に、イクトと比べれば男とは呼べないような男達。

イクトはまだ高校生の少年でしかない。
万田からすれば、子供と呼んでも差し支えない。
けれど同時に、肉体的には十分な男であることも紛れもない事実。
いや、むしろ成人した男よりも、清廉さや瑞々しさを持っているという点で、彼は遥かに勝っている。
幼さとほぼ同義の若さは、イクトの最大の武器なのかもしれない。

「イクト君…きっと、女の子にモテるんでしょうね…」

万田は顔を赤くしながら、呟いた。
おそらくイクトからすれば、自分は「どうでもいいヤツらの中の1人」でしかない。
ましてや異性としてなど、意識されているはずもない。
そのことが、悔しくもさえ思えたが、それでかえって、万田はおかしな妄想を抱かずに済んだ。
心に生まれた動揺は、誰にも悟られぬうちに収めるつもりだった。

だが、物音に敏感な黒猫は、
万田が扉を開いたことで生じたわずかな空気の流れの変化を、敏感に察していた。
熱いお湯を頭から浴びながら、イクトは微笑していた。

「なぁ、あんた。さっき、オレが風呂入ってるとき、覗いただろ?」

シャワーを終えたイクトは、出てくるなり万田に問いかけた。

「な、何をバカなことを言ってるの?!」

平静さを取り戻そうとしていた万田の努力は脆くも崩れた。

「ど、ど、どうして私がイクト君の裸を覗かなきゃいけないのよ!!」

濡れた髪を拭きながら見下ろしてくるイクトに、万田はかかとを浮かせながら反論した。

「ふぅん、やっぱり見たんだ、オレの裸」
「ち、違う、そうじゃなくて・・・!」
「つーか、全部分かってるし。隠そうとしなくていいよ。あんたは、オレのことを監視してただけだろ?」
「そ、そうよ、私は、イクト君が逃げないか心配で…そ、それだけよ、本当に…
別に、覗こうだなんて思ったわけじゃぁ…」

ただ、実際に見てしまったという罪悪感から、万田の声は次第に小さくなっていく。

「排水口と換気扇しかねーのに、どっから逃げるっていうんだよ」

イクトはあきれたように言う。

「…ごめんなさい」

万田はしゅんとなって、イクトに謝った。
不純な動機は少しも無かったとはいえ、やはり異性のシャワーを覗いてしまったのは問題だった。

「いや、別にいーんだけどさ」

イクトは俯いている万田のあごに手をやり、自分のほうを向かせた。

「それより、さっきから気になってることがあるんだけど」
「…え?」

顔を近づけながら、イクトが続ける。

「おねーさん、良く見ると、すげぇ可愛い顔してんのな」

そう囁いて、きょとんとしている万田に、キスをした。

「むぅっ???!!!」

口を塞がれたところで、万田は目を見開き、イクトの胸を突き飛ばした。

「ぷはっ…ちょ、ちょっと何するのよっ!!!」

メガネが曇ってしまうほどに真っ赤になりながら、腕をブンブン振りまわす万田。

「何って、キスだけど」

イクトは舌をチロッと出して自分の唇を舐めながら、微笑する。

「思った通り、唇も柔らかいな」
「な、何言っているのよ!いきなりどういうつもり?!何をしたのか分かっているの?!」
「ああ、分かってる」

再び、万田に近づくイクト。

「ひ、人を呼ぶわよ?!警備室に連絡すれば、すぐにいっぱい来ちゃうわよ?!」
「あんたがそうしたいのなら、いーんじゃねぇ?でも、こんな状態で人に来られると、困るんじゃないかな」
「こ、こんな状態って…キャァッ?!!」

答える間もなく、イクトは万田の腰を抱き寄せ、再び口付けた。

「んむぅぅー?!んんんーー!!!」

背中にしっかりと腕をまわし、脚を絡ませるようにして、抵抗を封じる。
傷つけるほどの強さでは決してなく、しかし万田の力ではどうすることもできないほどの力で抱擁をしながら、
イクトは彼女の唇を吸った。

「んぅっ…んちゅっ…れちゅっ…」

舌で唇をこじ開けられ、唾液を奪われる。

「ふぅ…むぅぅ…ぷはぁっ…!!」

キスが終わると、イクトは腕の力を弱めた。
そうすると、万田の膝が砕けてしまいそうになった。
彼女自身、自分の反応にびっくりした声をあげる。

「きゃっ…?!」
「っと、危ない」

イクトは万田を支え、再び抱きしめる。
彼の腕の中で、万田は荒い息を繰り返した。

「は、離しなさい、早く、離して…」
「嫌だ、離さない。ねぇ、おねーさん、彼氏とかいる?」

イクトに問われると、万田は顔を逸らした。

「そんなの、いるわけないじゃない…」
「どうして?」
「だ、だって…私は、仕事が全てだもの…」
「へぇ、もったいねーの。年、いくつなの?」
「そ、そんなの言えません…!」
「ふーん。ま、いいや。なぁ、これからオレが何をしたいか、分かるか?」
「…お、大人なんだから、それくらいわかるわ」
「してもいい?」
「…ダメよ、もう、これだけにして…」
「オレにしてくれなくてもいいからさ。オレが、おねーさんにしたいだけなんだ」

そう言って、イクトはまたキスをした。
万田は下半身が崩れてしまいそうで、もはや理性を保つことが出来なかった。
強引さとは裏腹に、イクトのキスはとても甘く、抱擁はとろけるように熱かった。

「ここでする?」
「…あっちの…イクト君のベッドがいい…」
「いいよ、じゃあ、そうしよう」

イクトに抱きかかえられ、万田はベッドまで連れて行かれ、そして優しく寝かせられた。

「イクト君…こういう経験、あるの…?」
「さぁ」
「答えてちょうだい、経験、多いの…?」
「おねーさんだって、年教えてくれなかったじゃん。だから、オレも教えない」
「何よ…それ…アアンッ…」

白衣をはだけさせながら、もう片方の手をスカートの中に入れ、
細くて長い指先で弦を爪弾くように、繊細に愛撫するイクト。

「なぁ、もっと声、聞かせてくれよ」

イクトはスカートの裾をたくしあげた。
そしてパンツを一気に下ろし、万田の湿り気を帯びた部分に直接触れた。

「あれ、おねーさんのココ、毛少なくて綺麗じゃん。彼氏いないのに、ちゃんと手入れしてんだ?」
「な゛…こ…これは生まれつきよ…!」
「へぇー」

イクトは楽しそうに目を細くしながら、チロッと出した舌先で、万田のそこを軽く舐めた。

「ひゃはぁっ…!!」

ビクン、となって、膝を立ててしまう万田。

「やっ…あっ…アンッ…アンッ…!」

猫がミルクを舐めているような仕草で、イクトが舌を動かす。
柔らかい秘唇を撫でるように、敏感な突起を突つくように、そして小さな入り口をほじるように。
やがてたくさんのヒダがのぞく穴から蜜が溢れてくると、
イクトは人差し指を使って、その内部を刺激する。
優しく挿入し、指を曲げ、軽く動かす。
同時に、ツンと張ったクリトリスを唇でついばみ、舌先で押しつぶす。

「アアッ…い、イクト君っ…ンアアッ!!」

万田の快感が高まってゆくと、イクトはもう一本の指を滑りこませ、少しずつ動きを早くしていく。
ほぐれた内部は指に吸い付き、動かすたびに「ジュプッ、ジュプッ」と水っぽい音がし、
掻き出されるようにして愛液が溢れてくる。

「イキそう、お姉さん?」
「んー、ンッ!ンッ!ダメ、いっちゃう…いっちゃうっ…!」

万田が少女のような声を出すと、イクトは彼女の唇を塞いだ。
そして、左腕で自分のほうへしっかりと抱き寄せながら、右手の指で器用に万田を導いた。

「むぅぅ…ンンッー…!!ンンンッーー…!!!」

イクトにキスをされたまま、万田は彼の腕の中で果てた。
痙攣しそうになる体を、そうさせぬよう、イクトはきつく抱いた。
快感の頂点は長く続き、それからゆっくりと引いていった。

「んふぅ…ふぅ…はぁ、はぁ…」

万田が終わると、イクトもキスをやめた。
彼との唇の間に、唾液が糸を引いていた。

「なあ、やっぱりオレ…」

イクトが少しだけ、切なそうな顔をする。
彼の下半身はすっかり硬くなり、ズボンを目いっぱい突っ張らせていた。

「…いいわ、イクト君…」

体が浮いているような余韻のする中で、万田は答える。
イクトはジッパーを下ろし、硬くなったペニスを取り出した。
とてつもない美形の彼に、ペニスや陰嚢などという器官は不似合いにも思えたが、
いずれにしろ、皮のめくれた先端は、とてもキレイなピンク色をしていた。

「…すごい…大きいのね…」
「あんたが、エロいからだよ」

万田に覆い被さるイクトは、おなかにくっつきそうになるペニスを自分で押さえながら、入り口を探す。
チュクッ、と粘膜に触れ、イクトが場所を見つけた。
手を離し、代わりに万田を抱きしめながら、イクトは正常位で彼女と繋がった。

「うっ、うぅぅんっ…す、すごっ…イクト君…アッ、アッ!アッ!アンッ!」

腰を動かすと、万田がすぐに反応した。
イクトは彼女の頬にキスをしながら、ペニスを出したり入れたりして、何度も突いた。
規則的なリズムでベッドが軋み、開いた万田の脚が揺れる。
それをイクトの腰に絡ませながら、彼の耳元で甘い声を漏らす。

「アッ…アッ…イイッ…すごい、気持ちいいっ……!」

するとイクトが言う。

「オレも、お姉さんの中、すげぇ気持ちいいよ…悪い、もう持たないかも…」

端正な顔を焦りで歪ませながら、万田を抱いた腕に力を込めるイクト。

「いいのよ、気にしないで、出していいのよ、イクト君…!」

万田もそれに応え、彼にしがみつきながら叫んだ。

「くっ…出る…」

イクトは短くうめいて、動きを止めた。
最後に腰を深くひと突きし、万田としっかり結合させたところで、射精した。

「あぁぁ…イッてるのね、イクト君…」

脈動し、ドクン、ドクン、と精液を流れ出させるイクトのペニス。
万田は膣は自然と締まり、イクトを絞り尽くそうとする。
すると彼は、あまりに強い快感に戸惑い、背中を震わせた。

「うっ…うぁっ…あっ…」
「大丈夫、ゆっくり味わって…怖くないから…」

彼の背中を撫でながら、万田はうっとりした。
イクトの絶頂は長く続き、彼を悦ばせているという実感が、万田にも深い満足感を与えた。
やがてイクトは力尽きたように、万田の中から抜け落ちた。

ゴポッ…ドロロロ…

2人が結合していた場所から、真っ白なミルクが溢れ出し、シーツを濡らした。
行為が終わったあともしばらく、イクトは万田にキスをした。

「なぁ、オレはいつまでここに閉じ込められてるわけ?」

万田が監禁部屋から出ていこうとすると、イクトが言った。

「…私からは、何も言えないわ…。
ただ、イクト君には、エンブリオを見つけるために、協力してもらわなくちゃいけないから…」
「もし、嫌だと言ったら?」
「そ、そのときは…」
「そのときは無理やり、なんだろ、どうせ?」
「…ごめんなさい」
「別に、あんたに謝ってもらいたいわけじゃねーけど。ま、いいよ。なるようにしかならねーから」

イクトは頭の後ろで腕を組み、天井を見上げていた。
その心の内で本当に思っていることは、きっと別にある。
彼の願いは、ここから出して欲しい、それが再優先のはずだ。
でも、彼は決して口にしない。
言ったところで、彼女が手引きしてくれるはずもないと、悟っているからだろうか。

「もう遅いから、私、行くわね…おやすみなさい、イクト君」
「ああ、おやすみ」

万田は少し胸が痛んだ。
けれど、会社を裏切るほどの勇気と決意を、今この場で持てるはずもなかった。

「と、とりあえず…明日は、私がお弁当を作ってきてあげるわ…
コンビニばかりじゃ、健康にも、良くないからね…」
「へぇ。そいつは楽しみだな。期待してるよ、おねーさん」

イクトは笑った。
その笑顔は、とても優しい笑顔だった。

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