私と苦来がこういう関係になったのは、
本気で好きになったから告白したとかいう清く正しい過程を経たわけではなく、
単にお互いに性欲があって、そして私がフタナリだった、
それだけの話と言えば身も蓋もないけれど、それが確かに事実だし、
取り立てて不道徳と非難されるほどでもないはずだ。
現代に限らず何百年も昔から、はっきり言ってよくある話。

ただし、苦来は普通とは違う事情を抱えていた。
彼女は心を病んでいるのだ。
快楽を欲する原因のいくらかが、それと関係あるに違いなかった。
けれども、それを私がどうにかすることを期待されていたわけでないことは、もちろん分かっていた。
私だって、お節介をやく気はさらさら無く、自分の性欲が満たせれば満足だった。

それなのになぜだろう。
いつものようにみんなとしゃべっていて、
苦来が薄笑いを浮かべながら冗談なのか本気なのか分からない恐ろしい事を口走ると、
私は心がとても痛く感じるようになっていた。

彼女は私とそうなる以前から何も変わらない。
わずかに残った糸でつま先立ちを続ける操り人形のようだ。

心が痛くなるのは、自分が彼女にとって未だ性欲を満たすだけの存在でしかないのだと思い知らされるから。
いや確かに全くその通りなのだけれど、私はいつの間にか、それほどまでに苦来のことを好きになっていた。

とは言え、格好付けてみたところで、
フタナリの私の性欲は強いから、相変わらず苦来に欲情しているのもまた事実だった。

だから私は余計に夢中になって、苦来とセックスした。
苦来も、生理でもない限りいくらでも受け入れてくれた。
それどころか、自分から私を求めることが何度もあった。

夜、皆と一緒に帰るフリをして、私と苦来だけこっそり引き返す。
借金まみれの私はホテルなど使えないので、楽屋でするのがほとんどだった。

楽屋に戻ると、苦来は畳に座って裸になりはじめる。
私は立ったまま、衣服を脱ぐ。
既に私は興奮していて、自分のパンツを脱ぐときには、硬くなった下半身が勢い良く飛び出して跳ねた。
膝を付いて苦来にキスをすると、彼女が左腕を私の背中にまわしながら、右手で私の性器を握った。
指で作った輪っかでしごかれると、私の性器は熱くなり、鈴口から透明な汁が溢れた。
私は彼女の唇、それから頬と首筋を舐めてから、乳首に吸い付き、同時に下腹部を指で探った。
薄い陰毛で覆われた割れ目を見つけ、左右に開くと最初にクチッと音がした。
その場所を指先でずっと愛撫していると、苦来が背中を反らせ、大きく息を吐いた。

「あぁぁ…気持ちいい…」

苦来の声と一緒にクチュクチュという湿った音が立ち、
泡立った白っぽい愛液が私の指先に絡みついて、匂いがしてきた。
苦来は体をよじりながら自分のバッグに腕を伸ばし、コンドームを一つ出して、私に渡した。
私はそれを付けて、苦来に覆い被さった。
彼女を抱きしめ、耳のすぐそばで、吐息を感じた。
手を添えなくても、入り口は簡単に見つけられる。
私の性器は、苦来の体にすっかりなじんでいた。

「あっ、あああっ…」

挿入すると、苦来は泣いているような声を出して、私にしがみついてきた。
平常時、いかにも体温の低そうな彼女の体が、
今は興奮のためむしろ熱いほどで、私はそのことにとても興奮した。
手を付いて上体を起こし、腰を振ってピストンさせると、
普段はボソボソとしかしゃべらない苦来が、鼻にかかった甘ったるい声を連続して発した。

「あっ、あっ、あんっ、あんっ」

その可愛いあえぎ声がもっと聞きたくて、私は激しく苦来を突いた。
彼女の体が汗で濡れ、色白の肌が桜色に染まる。

「あっ、あっ、ね、ねぇ、がんちゃんも、気持ちいい…?」

彼女が私の腕を掴み、体を揺さぶられながら私に問い掛けてくる。
青っぽい色をした、得体の知れない絶望を抱えているような瞳からは、
今はひたすら快楽しか読み取れず、それを見つめていると、
彼女の全てが私のものに出来たような錯覚がして、嘘でも少し嬉しかった。

「私も気持ちいいよ、くくる…」

間抜けな台詞を真顔で答えて、私は鼻息を荒くしながら、さらに激しく苦来を突いた。
華奢な彼女の体が畳の上で跳ね、私は自分の体で押さえつけるようにして、それを止めた。
それでも、腰だけは振り続けた。

「ああっ、がんちゃん、すごい気持ちいいっ…イキそう…!」

苦来が耳元で叫ぶように言う。

「がんちゃん、私、イクから、がんちゃんも、イッって…!」
「うぅぅぅ、くくるぅ…!」

強く締め付けられ、私の性器が脈打ち、絶頂した。

終わると、苦来はけだるそうに寝たまま、無口になった。
私も黙ってコンドームの始末をして、隣に寝転んだ。
ふと、彼女の腕で視線が止まった。
よく見ると、苦来の腕には、自傷の痕がいくつも残っている。
本人が堂々として一切隠さないから、みんな気付かないフリをしているだけなのだ。

『最近、新しい傷が増えていなくて、安心した』

私はそう思ったが、苦来からすれば“大きなお世話”だろうから、口には出さなかった。
ただ、どうしても無視することができず、恐る恐る、彼女の腕に触れた。

「……」

苦来は嫌がらなかった。
無言で天井を見ていた。
私は指で、そっと傷を撫でた。
その場所に触れるのは初めてだった。
傷は盛り上がり、肉が硬くなって、皮膚が張っている。
見れば見るほど痛々しくて、泣きたい気分になってきた。
けれども、やはり何も言えなかった。

しばらく私にされるがままだった苦来が、おもむろに口を開いた。

「…私みたいな人間は、リストカットだのオーバードースだのって、
でも結局いつまでも生きて、落語やってると思うから…」

苦来が語った内容は恐らくまぎれもない真実なのだろうが、
だからといってとても喜ぶ気にはなれず、私は悲しい顔をしたままだった。
すると彼女はそんな私を横目で一瞥して、

「でもね、がんちゃん。私、最近はちょっと違うふうに思うの…。
『死ねないから生きている』とか、そういうんじゃなくて…」

苦来が私のほうに顔を向ける。

「がんちゃんのこと、好きだから…。
だから、生きたい、っていう…。
最近、ちょっと、そんな感じ…」

「な、なんだよそれ」

咄嗟に私の口から、そんな言葉が出てしまう。
戸惑う私の反応に、苦来はさして驚くわけでもなかった。

「がんちゃんは、私のこと、好きじゃない…?」
「す、好きだよ!分かるだろう?!大好きなんだよ!」

私は叫んだ。

「ありがとう、嬉しい」

苦来がニッコリ笑顔になった。
私はもう号泣しそうで、慌てて起き上がり眼鏡を外し目頭を押さえ、なんとか我慢しようとした。

「がんちゃん、顔がのび太になってる」

苦来が寝たままフフフと笑った。
結局、涙がボロボロこぼれ、おまけに鼻水まで垂れて、
私の顔はいよいよのび太になったけれど、しばらく泣けて仕方がなかった。

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