「…苦ぁい」

台所のテーブルに置いてあった、お姉ちゃんの飲み残した缶コーヒー。
一口だけ飲んでみて、私は渋い顔をした。
代わりに冷蔵庫から、買っておいたコーヒー牛乳を自分の部屋に持っていく。

気持ちばかりコーヒー色をした甘いミルクを飲みながら、
私はちょっとだけ、大人の気分に浸るのだ。

「早く大人になりたいな…」

起伏の乏しい自分の体を触ってみる。

私は本当に、ただの子供だ。
いつまで経っても追い付けない。
お姉ちゃんはもうとっくに、大人だというのに。

お姉ちゃんの部屋で、エロ本を見つけた。
それからしばらくして、エロ本を見てエッチなことをしているお姉ちゃんも見た。
ゴミ箱の中に時々、変なニオイがするびしょ濡れのティッシュが捨ててある謎も、その時解けた。

初めのうち、私は特にショックではなかった。
それよりも好奇心が優先していたし、何より、お姉ちゃんはやっぱり大人なんだな、と変に納得していた。

けれど、性について何も知らなかった私がその行為の意味をきちんと考えられるようになってくると、
途端に私は頭に浮かぶ不快な想像に苦しめられた。

それは、お姉ちゃんが誰かと“セックス”をしている姿。

いずれお姉ちゃんは必ず恋人が出来て、その人とセックスをするのだ。

当たり前の現実に、気が付いた。
とてもショックだった。

裸になったお姉ちゃんが、私の知らない女の人に覆い被さって、おちんちんを入れている。
「好き」とか「愛してる」とか、私が聞いたこともないような言葉を囁きながら、
お姉ちゃんは気持ち良くなって、声を出している。

その時、私の存在なんて、何の価値もない。
考えただけで、腹が立った。

私にはもはや、お姉ちゃんがエロ本を持っているという事実だけでも、とてつもない苦痛だった。

お姉ちゃんはよく、アナちゃんと茉莉ちゃんのことを可愛いと言っている。
でも、いくらアナちゃんだ茉莉ちゃんだと言ってはいても、
結局は私のことを一番大切に思ってくれているのだろうと、心の中で安心していた。
だからお姉ちゃんのそういう行動を、特に何とも思わないでいられた。

けれど、実際は違っていた。
妹の私など言うまでもなく、アナちゃんと茉莉ちゃんすらも通り越して、
お姉ちゃんの心は遠くへ向かってしまうのだ。

いずれお姉ちゃんは、大好きでたまらない人が出来て、
その人と何回もセックスして、その人のことを一生大切にする。

私の出番など、どこにもない。

自分が一番だなんて、そんなバカなことを、どうして信じていたのだろう。

それはきっと、私がお姉ちゃんのことを、誰よりも一番大切だと思っていたからだ。
当たり前すぎて、考えたこともなかった。

私は、お姉ちゃんのことが大好きだった。
それが、いつか必ず誰かに奪われてしまう運命だったなんて。

ショックで頭が爆発しそうになった。
胸が苦しくて、体が熱くなって、変な汗をたくさんかいた。

けれど、どんなに私が苦しんでも、何も変わらないということに、すぐ気が付いた。

だって、これは運命なのだもの。
だから、私は抗うことを決めた。

お風呂に入った後、私はお姉ちゃんの部屋で一緒にテレビを見ていた。

9時からやってるくだらないアクション映画は、
話が中弛みしてきたあたりで、お決まりのエロシーンが始まった。

私は横目でお姉ちゃんを見てみる。
お姉ちゃんはビールを一口飲みながら、
少し気まずそうにリモコンを持って、チャンネルを変えようかどうか迷っていた。

頭の中で、突撃ラッパが鳴り響く。

私は決死の覚悟で攻撃に出た。

「…ねぇ、おねえちゃん。おねえちゃんって、エロ本持ってるでしょ」
「え゛?!」

いきなり、私が言うと、お姉ちゃんは口に入れていたビールを半分噴き出した。

「ベッドの下に二冊と、そこの本棚に一冊ずつ、隠してるよね」
「…な、なぜ知っている?!」

お姉ちゃんは沈黙の後、台詞めかしたような低い声で言った。

「どうしよっかなぁ。お母さんに言っちゃおうかなぁ」

私は立ち上がり、スーっとドアのほうへ歩いていく。

「ちょ、それはかんべん!!」
「え〜、でもなぁ」

私は右足を上げて左足に絡ませ、
そのつま先を床にトントン、と当てながらいたずらっぽくお姉ちゃんのほうを見る。

「どうして、おねえちゃんはエロ本なんて持ってるの?」

無邪気を装って尋ねると、お姉ちゃんは心苦しそうに顔を逸らした。

「…ちぃには、まだ分からない理由だよ」
「ふぅん。そうかなぁ?」

私は微笑しながら、お姉ちゃんのほうへ戻っていく。

「私、本当は知ってるよ。おねえちゃんが、エロ本を読んで何をしているのか。ウフフフ」
「え゛…」
「ティッシュに白いの、出すんだよね?」
「……」

お姉ちゃんの顔が真っ赤になっていった。

「でも、それって少し、虚しくないかな?」

私はパジャマのボタンに手をかけた。

「お姉ちゃんには、エロ本なんて必要ないんだよ。それを分かってもらいたいの」

そして、ボタンを一つずつ外す。

「私はまだ子供だし、おねえちゃんからすればただの妹かもしれないけれど、
それでも私は、生きている女の子なの。エロ本なんかよりは何倍も、“使いものになる”って、思う」

自虐的な言葉を口にすると、悲しくて声が震えそうになった。

私はそれをごまかして、ボタンを全て外すと、ベッドの上にトフン、と寝転んだ。

「一人でするくらいなら、私を使って、おねえちゃん。
そうして欲しいの。おねえちゃんのこと、大好きだから」
「…好き…?私のことが…?」
「うん。そうだよ。だから、とても辛かった。
おねえちゃんがエロ本読んで、一人でエッチなことをしてるのが。
私は、自分の恋に生まれて初めて気が付いたの。
一方的な片想い、だったけどね…。
もし今、おねえちゃんが私を抱いてくれないのなら、私はこのまま大声を出す。
『おねえちゃんに変なことされた』って、お母さんに言い付ける。
おねえちゃんを自分のものに出来ないのなら、私はこの人生を生きている意味がないのだもの。
ただの妹でいることが、もう耐えられない。
私はおねえちゃんが大好き。
おねえちゃんの恋人になりたい。
間違ってるよね、こんなの。
分かってるの、自分でも。
だから、こんなバカなことをするしかないんだ、私…」

私の仮面はボロボロとはがれて、その下の瞳から涙が溢れそうだった。

お姉ちゃんはテレビの音量を大きくして、リモコンをテーブルに置いた。

「そんなことをする必要はないよ、ちぃ」
「おねぇちゃん…?」

私は少し怖くなって、体を小さくした。
そうしたら、お姉ちゃんはベッドの上の私に覆い被さって、優しく抱きしめてくれた。

「ちぃ、もう、いいんだよ」

お姉ちゃんの声を耳元で聞いて、私の目から涙が一気に溢れた。

「もういいんだ、無理に演技しなくても。ちぃには、似合わない」
「ごめんなさい…ごめんなさい、おねえちゃん… さっきのこと、本気にしないで…
私、ぜんぜんそんなつもりじゃないの…」
「うん、分かってる。大丈夫だよ、ちぃ」
「私はただ…おねえちゃんのことが…大好きで…大好きで…」
「…私も、ちぃのことが好きだよ」
「本当に…?」
「ウソだったら、私のココは、こんなふうにはならない」

お姉ちゃんのアソコが、すごく硬くなっていて、私のお腹に当たっていた。

「私は今、気が付いたんだ」

お姉ちゃんが微笑む。

「ねぇ、ちぃ。私はどうしたらいい…?」
「…どんなに痛くても、必ずガマンするから、おねえちゃんとセックスがしたい…」

私が言うと、お姉ちゃんはキスをしてくれた。
生まれて初めて、お姉ちゃんとキスをした。
唇が柔らかくて、温かい舌が私の口の中に入ってきた。
お姉ちゃんのツバを飲んだ。

私はパジャマとパンツを脱がされて、裸になった。
お姉ちゃんに体の色々な場所を舐められて、指で優しく撫でられた。

それから、お姉ちゃんも裸になって、
硬くて長い棒のようなものが、私のアソコに突き刺された。

裂けるように痛くて、悲鳴を何度も押し殺して、私は泣きながらガマンをした。

でも、少しも辛くはなかった。
快感なんて明日にも忘れてしまうけれど、痛みなら一生忘れないのだから。

私はお姉ちゃんの感触を夢中で記憶に刻み付けた。
お姉ちゃんはしばらくの間私の中に入っていて、
それから私のお腹の上に、白くてネバネバした汁をいっぱい出した。
それが、私とお姉ちゃんの初めてのセックスだった。

そのあとも、数回のうちは死ぬほど痛かった。
でも、私は毎晩、お姉ちゃんとセックスをした。
そのうち痛みは感じなくなっていった。

今までより少し早寝になった私は、
いつも遅くまでゲームをして居座ろうとするみっちゃんをなだめて帰すと、
窓の鍵を閉め、カーテンを引き、部屋の電気を消して、まっすぐにお姉ちゃんの部屋に向かう。

私は大好きなお姉ちゃんに抱かれた後、眠るまでの間、
数を数えるように何度もお姉ちゃんとキスを繰り返して、夢の続きへとまどろんでゆく。

今でも時々、私はお姉ちゃんのコーヒーを一口だけ飲ませてもらうことがある。
やっぱり苦くて、少しもおいしいとは思わない。
あいかわらず、甘いコーヒー牛乳で満足している私。
けれど、私はもう自分が子供であることが辛くはなかった。

急ぐ必要も、背伸びをする必要もない。
だって私とお姉ちゃんは、これからずっと一緒にいられるのだもの。

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