(え〜と、どれがいいかなぁ…)
真朱がカップ麺をまた食べたいと言うので、
公麿はコンビニで自分のための食料を買い込むついでに、
陳列棚にたくさん並べられた商品の中から、どれにしようかと考えていた。
カード越しに彼女に直接語りかけることも可能なわけだが、
店員や他の客がいる状況ではそうもしていられない。
それに、公麿ですら迷うほどの種類があるのだから、
何も分からない真朱に意見を求めたところで、意味がない。
公麿は、一人で考えた。
(あまり辛いのは良くなさそうだなぁ…あと、くどいのも…
ここは無難に、ノンフライのさっぱり系にしておくべきか…)
しばし悩んだ後に公麿が選んだのは、『低カロリーのあっさりしょうゆ味』なカップ麺だった。
これを次回、“あっち”へ、つまり金融街へ行くときに持参して、真朱に食べさせるのだ。
*
かやくと粉末スープを入れたらお湯を注いで、
ふたを閉じたら液体スープを上に乗せて温めておいて。
「あとフォークを忘れずに持っていかないとな。
タイマーは…まぁいいか。
ちょうど向こうに着いたら食える頃だろう」
公麿は両手でカップ麺を大事に持ちながら、ハイヤーに乗り込んだ。
運転手の井種田は特に興味が湧かないらしく、そんな公麿を一瞥しただけで、
車内で会話は一度もないまま金融街へと到着した。
今回の目的はディールではない。
ただ真朱が食事をするだけ。
テーブルと椅子のあるところを適当に見つけ、公麿と真朱は向かい合って座った。
丸いテーブルの中央には、お待ちかねのカップ麺。
ちょうど数分経って、食べ頃になっている。
「おお〜、今日のは柄が違う〜」
「柄?ああ…容器のことを言ってるのな」
「ね、もう食べていい?」
「その前に、スープを入れないと」
公麿がふたを全部剥がし、銀色の平べったい袋の端を切って、
仕上げの液体スープを麺の上に垂らしフォークで混ぜようとすると、
「自分で出来るからいいよっ」
と真朱は公麿からフォークを奪い、ズボッと麺の中に突き立ててグルグルとかき回した。
「これでいいんでしょ?」
「まぁ、うん」
公麿に確認を取ってから、真朱は「ふひひ」と口元に笑みを浮かべ、
可愛い糸切り歯を見せながら「あ〜ん」と口を広げて食べはじめた。
フォークに麺を三、四本引っかけて、ズルズルと啜る。
頬を膨らませてモグモグとやりながら、時々ゴックンと飲み込んで、そしてまたズルズル。
「うまいか?」
「ん〜?…う〜ん…ムグムグムグ…」
公麿が問うと、真朱は曖昧に答えながらも、ひたすら食べ続けた。
「なぁ、この前から気になってることがあるんだけど、一つ訊いてもいい?」
「いいよー…あむっ、ズルズルズル…」
「真朱の体の中で、食べた物って、どうなってるの?」
「…ぶっ、ゲホッ、ゲホゲホッ!」
真朱は咀嚼中だった麺やネギやらを口から噴き出しながら、激しくむせた。
そして、猛烈に怒り出した。
「はぁ?!何でそんなこと訊くの?!」
「いや、だって、アセットが食事してるわけだし、自然な疑問がわいて」
「その疑問のどこが自然なのよ?!そんなことが気になるなんて、頭おかしいんじゃないの?!」
「怒るなよ。別に、『排泄するのか』って訊いてるわけじゃないんだから」
公麿がうっかり本当の疑問を口にすると、真朱の顔はみるみる真っ赤になっていった。
「し、信じられない!何なの、それ?!公麿って絶対変態!いやらしい!」
真朱はテーブルを叩き、食べるのをやめ、不機嫌そうに頬杖を突いて横を向いた。
「公麿が変なこと言うから、もう食べない!」
「えぇ…」
予想もしていなかったほどの真朱の怒りっぷりに公麿は戸惑ったが、
とりあえず謝っておこうという気分にはなった。
「なんか、ごめん、真朱。ちょっと、無神経だった」
「ふんっ」
真朱はそっぽを向いたままだ。
「えぇと、ところでそのカップ麺は…」
「知らないっ。公麿が食べれば?!」
右手で握ったままだったフォークを戻して、真朱は言った。
「いや、俺はさっきもう食ったからあれなんだけど…」
と言っても特別満腹というほどではないので食べられないこともないのだが。
公麿はカップ麺を見つめた。
まだほとんどが残っている。
このままでは、のびていく一方だ。
(もったいないな…俺が食べるか…)
公麿は既にディールによって多少の、いや、彼の感覚から言えば相当な利益を得ており、
カップ麺の一つや二つにこだわる必要など全くないのだが、
だからと言って目の食べ物を粗末にしようとは、決して思えなかった。
公麿はフォークを手にし、カップ麺を一口啜った。
その様子を真朱は横目で見つめていた。
「ん?」
最初の一口で、公麿は「あれ?」となった。
「なぁ、真朱。これ、味薄くないか?」
「…そんなの分かんない」
と、真朱の素っ気無い答え。
もしやと思い公麿が麺をかき混ぜてみると、原因はすぐに分かった。
「ああ、これ、粉末スープが溶けずに固まってたんだわ」
麺をよくほぐすようにしないと、意外に残ってしまったりする。
けれども、フォークですら使い方がままならない真朱が、そう出来ないのは無理もなかった。
「よし、こんなもんかな」
公麿は再度よく混ぜてから、カップ麺を真朱に差し出した。
「やっぱり、おまえが食べてくれよ。というか、食べて欲しい。
そのために、買ってきたんだから。まぁ、無理にとは言わないけどさ」
真朱は目の前に置かれたカップ麺と公麿の顔を交互に見て、
しばらく黙っていてから、口を開いた。
「…じゃあ、食べる」
「うん、食べてくれ」
公麿の表情が緩んだ。
真朱は機嫌を直してくれたようで、無心でカップ麺を啜りはじめた。
「なぁ、うまいか?さっきと味違うだろ?」
公麿が尋ねると、真朱は一旦啜るのをやめ、口から麺を垂らしたまま、彼を見つめた。
そして「うん」と頷き、また啜りだした。
(どうだか…)
公麿は苦笑いしたが、真朱は気にも留めずに器を傾けスープを味わっている。
「また今度、持ってくるよ。次はどんなのが食いたい?」
「ん〜、公麿に任せる…モグモグ…」
「そっか。ま、適当に選んどくわ」
「…うん。…ありがと」
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