夜、自分の部屋でユー子はベッドに寝転びながら、携帯の画面を見つめていた。
映し出されているのは、今日の昼休みに自らが撮影したるんの写真。
といっても、「撮影」と呼ぶほどの大仰な作業をしたわけでは決してなく、
弁当を食べている彼女に何気なく携帯を向け、ボタンを押しただけ。
そうして撮られた写真の中のるんは、
箸を持った手でピースサインを作りながら、間の抜けた笑みを浮かべていた。
携帯を見つめるユー子の顔は、興奮で紅くなっていた。
「あぁ、るん…食べてる最中やのに口を大きく開けて笑うから…
ツバが口の中でたくさん糸引いてしもてる…」
昨今の携帯のカメラ機能はとても進歩していて、
肉眼では確認できなかった生々しい部分まで鮮明に描写していた。
「るんのツバ…るんのツバって、どんなやろ…」
ぷにぷにとした柔らかそうな唇やきれいなピンク色の舌と比べて、
ネットリとたくさん糸を引いた唾液だけが、ひどく卑猥に見えた。
今まで一度も観察したことなどないるんの口内には、
いつもこんなに濃い唾液がたっぷりと溜まっていたのかと思うと、興奮した。
これをペニスにいっぱい垂らして、
るんの温かい手のひらで優しくしごいてもらったらどれほど気持ちが良いだろうかと、
そんなことを想像せずにはいられなかった。
「はぁぁ…たまらんわぁ…」
ユー子はるんのことが好きだった。
そして、ユー子はふたなりだった。
下着の中で、ペニスが勃起をはじめていた。
それは平常時でもかなりの大きさで、薄い包皮がムチムチと張ってしまうほどで、
ゆで卵のような大きな睾丸を二つ包み込んだ陰嚢と共に、
下着に“押し込む”ことに苦労するほどだった。
そんなペニスがムクムクと勃起をしてゆく様子は、
まるで芋虫の成長を早回しで再生しているようだった。
柔らかかったペニスが鉄のように硬くなりながら太く長くなってゆくと、
包皮がムキムキと捲れ、鈴口から溢れた透明な汁でネバァっとした糸を引かせながら、
真っ赤に充血した先端部分を露出させた。
ユー子は童貞だったが、生殖能力が人並み外れて優秀であることは、
その外性器の大きさを見れば明らかだった。
そしてるんも、既に生殖が十分に可能な年齢に達している。
例え性欲なんてものは全く持っていないのだとしても、それは紛れもない事実だった。
つまりユー子がるんの膣にペニスを突っ込んで精液をドピュドピュと発射すれば、
間違いなく彼女を妊娠させることが出来るのだ。
文章で表せばほんの一行で済んでしまうほどの簡単な作業。
子作りという行為。
けれどもそれはユー子にとって、決して叶わぬ夢だった。
少なくともトオルという年下の女の子の存在がある限りは、絶対に無理なことだった。
金属バットを手にして守護天使のように常にるんのそばにいる、
あの“撲殺天使”がいる限り、は…。
「うち、るんの恋人になれなくても構へん…
せやけど、せめて想像の世界でだけは…るんを犯したいっ…!!」
ユー子は携帯を枕の上に置いてからうつ伏せになり、毛布を被った。
そして、自慰をはじめた。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
枕にあごを乗せ、るんの写真を見つめながら、
ユー子は毛布の中でお尻をカクカクと振って、ペニスをシーツに擦り付けた。
「るんっ、るんっ、めっちゃ好きや、るんっ…!」
彼女の名前を繰り返し呼びながら、ユー子は一人で交尾の真似事をした。
「ああっ、気持ちいいっ、気持ちいいっ!」
シーツとの摩擦と、腰を押し付けるたびに自らの重みでペニスに加わる圧迫感が、
“膣への挿入感”を錯覚させ、ユー子を夢中にさせた。
それは現実のセックスとはかけ離れた乾いた感触だったが、
発情した童貞のユー子にとっては、十分過ぎるほどの快感だった。
普段は膨らんでいる陰嚢が体内に引き寄せられて収縮し、
ペニスの根元に左右それぞれくっ付いた二つの大きな睾丸のシルエットをくっきりと浮かび上がらせていた。
ペニスに血管が浮かび、鈴口からトロトロと先走りが漏れて、糊をこぼしたかのようにシーツを濡らしていた。
もはや、ユー子は射精をするためだけに必死だった。
ベッドが揺れてギシギシと音が出るほどに激しく腰を動かし、ペニスを摩擦させた。
るんとセックスしている気分に浸りながら、妄想の中でるんに問いかけた。
(るん、気持ちええかっ?!気持ちええやろ?!)
頭がぼうっとしそうなほどの快感に包まれながら、すると妄想の中のるんは答えてくれるのだ。
可愛いおでこにうっすらと汗を浮かべ、頬を赤らめながら、甘えるような声で、
「うん、とっても気持ちいいよ、ユー子ちゃん」、と。
「あああっ!!もう、るんが可愛すぎておかしくなりそうっ…!
好き、好き、るんっ、愛してるっ…!!」
ユー子は妄想の中のるんをもっと感じさせようと、本気になって腰を振った。
気分だけは、本当にるんとセックスをしているつもりだった。
「愛してるっ!愛してるっ!
愛してるから、ザーメン出るっ!!射精しちゃうっ!!
なぁ、るんのどこに出したらええ?!
ザーメンをどこに出して欲しい?!
お願い、言うてみて、るんっ…!!」
携帯を両手で握り締めながらユー子が必死で問いかけると、
もちろん頭の中で、るんが答えてくれる。
それは、ユー子が一番望んでいる台詞だ。
「どこでも、ユー子ちゃんの好きなところに出して“ええよ…”」
頭の中で、るんの声が響く。
語尾が少しおかしなことになっていたが、そんなことは問題にならなかった。
「あああっ!嬉しいっ!ほなら、るんのお顔に、ザーメンぶっかけたいっ!!
うちのイカ臭っさいネバネバの精液で、るんのお顔を汚したいっ!!」
いつも心に秘めている願望。
るんの写真を見つめながら、ユー子は腰を激しく振った。
もうこれ以上続けるとシーツの上で全部出してしまう、というギリギリまで動き続けてペニスを摩擦してから、
ティッシュをたくさん取ってフードのようにペニスの根元まですっぽりと被せ、
右手でギュッと握り、左の手のひらで先端を押さえた。
その刺激により、ユー子は絶頂した。
「お゛お゛ぉぉっ!!イクゥゥゥッ!!!」
射精の瞬間、ユー子は動物のようなものすごい声で唸った。
普段ならば絶対に発しない、というより、
発し方すら分からないはずの変な声が、勝手に口から出てしまった。
ペニスが痙攣するようにビクビクと脈打ち、精液がビュルビュルと激しく噴出した。
生温かい感触が伝わり、すぐにティッシュがふやけて、ユー子の手のひらがじっとりと湿った。
「お゛ぉぉ…ほぉぉぉ…イッ、イッってもうたぁぁ…」
射精は十数秒ほどで終わった。
が、その短い間にペニスは二十回以上も脈動し、ゼリーのように重たいドロドロの精液を大量に発射した。
もし本当にるんに顔射していたら、間違いなく顔面パック状態になっていただろうし、
これらのうちのほんの少量だけ、ティースプーン一杯分くらいを指に取ってアソコに塗り付けただけで、
半分以上の確率でるんを妊娠させてしまうだろうというくらい、濃い精液だった。
「あぁぁぁ…あぁぁ…」
射精の直後は、まだユー子は気持ち良さそうな声を出しながら恍惚としていた。
だが三十秒も経つと余韻は引いてしまい、以降は急速に興奮が冷め、ユー子の声も途絶えた。
「……」
すっかり冷静さを取り戻したユー子は、毛布の中から這い出て後始末をはじめた。
ペニスに被せたまま握っていたティッシュをゆっくりと引き抜くと、
ネバァとした生臭い糸がいくつも伸びた。
「い、嫌やわ、うちのザーメン…湯気が立って、臭い…」
ティッシュの中には温かいプルプルとした形のある精液が大量に溜まり、すごい臭いを発していた。
ユー子は汚物を処理するかのように手早くそれを丸め、
中身が染みたり臭いが漏れたりしないよう、
上から新しいティッシュを何重にも重ねてボール状にし、ゴミ箱に捨てた。
「はぁ…」
ユー子はベッドから足を下ろし、ふちに腰掛けて、深いため息をついた。
結局、るんと結ばれない運命ならば、自らに備わっている優秀な生殖能力になど、何の価値もない。
むしろ、有り余る性欲は邪魔なだけ。
そのせいで自分は、大切な友人であるはずのるんをおかずにして、
毎晩毎晩、破廉恥な自慰行為に耽ってしまうのだから。
「るん…」
枕の上に置かれたままだった携帯を、ユー子は拾い上げた。
画面には先ほどと変わらず、るんの写真が映し出されている。
ユー子は決心し、一度は保存していたはずのその写真を、削除した。
自慰の直後で罪悪感に駆られている今しか、そうするチャンスはないのだと、自分で分かっていた。
なぜなら、あとほんの一時間も経ってからこの写真を見れば、
自分はきっとまた劣情を催し、激しく自慰をしてしまうのだから。
「ほんま…堪忍な、るん…」
るんの消えてしまった画面に向かって、ユー子は寂しそうに呟いた。
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