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□□□ CLANNADのSSもどき □□□
AFTER後に読んでください。
大したものじゃないけど。















































久しぶりのゆったりとした休日の朝。
俺は朝食後のコーヒーを啜り、いつまでも続くと思う幸せに浸っていた。
「朋也くん」
渚の声で、俺は現実に呼び戻される。
そして、今日は週に一度の古河家への顔見せの日だったのを思い出す。
「ああ、もう行くのか?」
コーヒーカップを置き、立ち上がる。
「いえ、その前にちょっと相談が…」
相談?
渚がわざわざ相談なんて言い出すのは余程の事だろう。
一度は立ち上がったが、また座りなおす。
「相談って?」
「その、実はお父さんの事で…」
何か言いにくそうに顔を俯く。
あのオッサン…。
渚の父親であり、俺の義父でもあり、
妻に早苗さんを持ちパン屋を営む古河秋生がどうかしたというのだろうか?
と、わざわざ説明する俺。
…一体誰に説明しているのだろう?
で、そのオッサンの事をわざわざ口に出すなんて本当に重大な事だろう。
例えば…。
『俺は海賊になるぅーーーっ!』
とか言い出していたりしているんで、止めてくれというのかもしれない。
『なんとぉーーーっ!』
…意外と似合いそうだ。
でも、この街には海なんて無いから違う事だろう。
「…オッサンがどうしたんだ?」
「お父さんが…」
決断したのか眉をしかめて渚は口を開いた。
思わず俺は息を呑んだ。
「……」
「…最近ヘンなんです」
別に大したことじゃなかった。
オッサンの事だから、本気で海賊になるのを考え出してもおかしくはなかったが。
「朋也くん、今ヘンなこと考えました」
「そんなことはないぞ」
俺は心を読まれやすい体質だったりするのだろうか。
そのうち法律で保護されたりするコトになりそうで大変だ。
「…?」
まあ、悪ふざけはほどほどにして渚の相談に乗る事にする。
「…んで、オッサンは元々ヘンじゃないか?」
ヘンというより子供みたいな人だ。
見かけは大人、性格は子供、その名はパン屋のオッサン。
どこかしまらないのがあのオッサンらしい。
「お父さんは優しい人です」
なんだかんだであのオッサンは子供に好かれている。
口が悪くとも、どこかに優しさがあるんだろう。
事実、俺と渚の愛の結晶…つまりは俺たちの子供、汐もオッサンの事を好いているらしい。
「だけど…最近はなんかヘンなんです」
渚は顔を顰め、俯く。
「しおちゃんも怖がってて…」
ちらりと汐の顔を見る。
「……」
どこか涙目。
そういえば、ここ最近の汐は何かに怯えていたようだった。
俺が聞いても何も言わなかったが、顔を合わせる日になって怖くなったのだろうか。
「汐?」
「…こわい」
「え?」
「…あっきー、こわい」
どうやら問題は深刻なようだ。
あの汐ですら怖いというオッサンの現状。
想像もつかない。
「つまり、俺になんとかしてくれと?」
「はい、朋也くんなら何とかしてくれると思って」
「早苗さんでもダメだったのにか?」
「私も一緒に説得したんですけど…」
実の娘や早苗さんですらダメなら、俺でもダメだと思うのだが…。
それだけ渚は俺を信頼してくれているのだろうと、勝手に自己完結をする。
「朋也くんとお父さんは似てますから、気持ちが理解できるんじゃないかと思うんです」
「ぐあ…」
やはりそういう理由からか。
ともかく、汐が怖がっているのは見ていられない。
なんとかしないといけないだろう。
そうして、多少気が重いながらも、出かける事にした。

しかし、本当に何があったというのだろう。
汐が怖いというからには髪型か何かが変わったのだろうか。
それなら渚がヘンだと言うのも納得が出来る。
…などと、いろいろ考えながら古河家に向かう途中。
「…朋也くん、一つだけ気をつけて欲しいことがあります」
渚が立ち止まり、何か言い出した。
「あ?」
「今のお父さんの前では間違っても『パンください』とは言わないでください」
「『パンください』?」
「はい」
「正解でも間違いでも言わないから安心しろ」
妙な忠告を適当に聞き流す。
なんでパン屋で『パンください』と言ってはいけないのだろう。
それはカラオケに行って、全く歌わない事と同じだ。
……一度だけ何も歌ったことがなかったのを思い出した。
例えが悪かった。
「そういや…」
オッサンがヘンだと言うのは聞いたが、どんな風になのかはまだ聞いていない。
「…なぁ、オッサンってどんな風にヘンなんだ?」
「どんな風に、ですか?」
「性格がとか、外見がとかあるだろ?」
「ええと…」
「……」
「とにかく…ヘンなんです」
「…」
渚に聞いた俺がアホだった。
こいつがアホの子なのは承知の上だと言うのに。
「……」
ちらりとわが子の汐の顔を見る。
やはり怖いのか、下に俯いている。
とりあえずダメ元で汐にも聞いてみるか。
「汐、オッサンがどんな風にヘンだか説明できるか?」
「あべし」
「あべし?」
「おれのなまえをいってみろ」
「……」
「いきをするのもめんどくさい」
「………」
「わかった?」
「あ、ああ…ありがとう…」
ますますわけがわからなくなった。
まあ、実際に見てみればいいだろう。
心配そうな顔をした二人の手をとり、古河家へと足を運んだ。

久しぶりの古河家。
とは言っても、ほんの数週間ほど顔を出せなかっただけだが。
特に何か変わるような所もなく、普通にパン屋の外装をしている。
実際ヘンなのはオッサンなのだから別に変わるわけもない。
「ん…」
隣にいたはずの渚の姿が無い。
よく見ると、俺の後ろに隠れていた。
そのさらに下のほうに汐もちゃんといたりする。
「どうした?」
「えっと、その…」
目をそらす渚。
「怖いのか?」
「…はい」
「お前の親だろ? お前が先入らなくてどうするんだよ」
「でも、朋也くんのお義父さんでもあります」
「ぐあっ…」
まだ義父という言葉に慣れない俺の弱点をついてくるとは。
言葉に慣れないだけで、ちゃんと実感はしているのだが。
「実の父親と、その娘の結婚相手とどちらが繋がりが深いと思ってるんだ」
「だけど、朋也くんとお父さんは似ていますから」
「理由になってないっ!」
そんなに嫌なのか…。
あのオッサン本当に何があったんだ?
「…ん?」
何かズボンの裾が引っ張られている。
よく見ると汐が何か言いたげにしていた。
「パパ」
「…なんだ?」
「がんばれ」
小さな手を握り締め、俺を激励する。
「ぐはぁっ…」
「朋也くん、頑張ってください」
「わかったわかった、俺が先に入ればいいんだろ…」
結局こうなるのかと思いつつ、戸を開いて中に入った。
「…ぱぁーんぱぁんぱぱぱぱぱぱんぱぁーん、っとくらぁ!」
「……」
全力で戸を閉めて後戻りをした。
今何かとんでもないモノを見てしまった気がする。
何かニワトリみたいだったな…。
「渚、ここは古河パンだよな?」
「はい、そしてわたしの実家です」
「じゃあ、中にいるのはあのオッサンか早苗さんのどちらかだよな?」
「そうだと思います」
じゃあアレがオッサン…?
なんかニワトリみたいな感じだった。
もう一度戸を開け、中を除き見る。
「おーいらはぱーんくなパン屋のアキオっ!」
「……」
よくよく見たら確かにオッサンだった。
ヘンなとこも含めて。
けど、あの髪型はなんだ。
おでこあたりに666とか刺青があってもおかしくないような髪型。
つまり、モヒカンということだ。
少し赤みのかかったオッサンの毛でモヒカン。
ニワトリに見えても仕方が無かった。
とりあえず、いつものように挨拶をして中に入ることにする。
「ちっす」
「早苗のパンは何故うまーいっ!」
聞こえなかったのか、オッサンは何か歌い続けている。
このままほっといて帰ってもいいのだが、そうもいかない。
渚と汐のためだ、なんとかしなければ。
俺はもう一度声をかける。
「おいオッサン」
「アナーキストのパンヤだぜぇーっ!」
「……」
聞いちゃいなかった。
「ただいまです」
いつの間にか渚が俺の後ろに立っていた。
汐は俺の足にくっついている。
「ん、おかえり」
渚の声で気がつくオッサン。
そして、俺を見て呟く。
「…なんだ、おまえも一緒か」
「そりゃ家族ですから、お義父さん」
「ぐあぁっ!」
モヒカンな頭を抱えてよろめくオッサン。
お互いこの呼び名に完全には慣れてないようだ。

しかし、頭がモヒカンな事と妙な歌を歌ってた以外はいつものオッサンだと思うのだが…。
汐が怖がるのはこの髪型のせいだろうと思った。
「すいませーん」
呼び鈴の音とともに子供の声。
客のようだ。
邪魔しては悪いと思い、レジの所から離れる。
形とりどりのパンを選ぶ姿はどこか微笑ましい。
「パパ、いこ」
ズボンの裾を強く引っ張る汐。
こいつ、意外と嫉妬深い所があるのか。
「あ、ああ…」
「行け行け、ついでに娘とともに逃避行でもしてこい」
「ほら、渚いくぞ」
「あ、はい」
渚の手をひく。
「待てっ! なんで渚を連れていく」
「娘と逃避行しろと言ったのはオッサンだろ」
「俺の娘じゃなくて、おまえの娘とだ!」
「だけどオッサンの孫でもある」
「でもお前の娘だっ!」
渚が使った手にはひっかからなかったようだ。
俺がひっかからなかった位だから当たり前か…。
「あのお、すいません…」
さっきパンを選んでいた子供がレジの前に立っていた。
「ほら客の邪魔だ、とっとと行った」
猫でも追い払うかのように、ぞんざいに手の平を振るオッサン。
とりあえず汐を抱き、奥へと向かう。
俺とオッサンの言い争いの中で平然とパンを選んでいたのは流石と言える。
将来が楽しみだ。
「ぬぁにぃーっ!?」
居間で団欒していたら、突然トーンの低いオッサンの叫ぶ声が聞こえた。
そして続けて銃声音が一つと子供の叫び声。
……銃声!?
何かあったのかと、思わず駆け出す。
店の方に行くと、手に拳銃を持ったオッサンがいた。
発砲した後なのか、火薬の匂いがした。
さっきの音がまあそうなのだろうが。
「おいオッサン! あんた何したんだよ!」
近寄るとオッサンは何かブツブツ言っていた。
「パンクはださくねえ…パンクは…」
「……」
今わかった、オッサンはパンクにはまったからこんな髪型にしたのだ。
そんで渚の言っていた通りに『パンください』と言うと、パンクを馬鹿にしたということに。
でも銃はやり過ぎだろ…。
「オッサン、おいオッサン」
「パンクは…」
「…『パンください』」
「だからパンクはださくねぇっ!」
と叫んだと思ったら、俺に向けて銃を撃った。
って危ねーよ!
「ん? さっきの客はどうした?」
どうやら正気に戻ったらしい。
「帰ったよ」
というより逃げたんだろう。
「くっそっ! 今日もまた売れなかったか!」
「そんな髪型してりゃ売れないだろ……」
「お前が店番してたって変わらねえよ。要は気合だ」
気合だけでで売れればこの店はもっと繁盛していると思う。
「時はまさに世紀末ってな、力さえありゃどーにかなるもんだ」
この人の頭の中のカレンダーはどうなっているのか。
「とりあえず、その髪型戻してくれないか。汐が怖がってる」
「あん? 汐が? …そんじゃ戻すか」
あっさりと食い下がるオッサン。
「つーか、なんでそんな髪型に…」
スゴく気になった。
オッサンがどういう理由からパンクにはまって、こんな髪型にしたのか。
「なんでって、おまえが原因だよ」
「俺?」
俺、なんかしたっけ?
「おまえが牛丼屋みたいな名前のヤツと俺と会わせた事があったじゃねぇか」
芳野さんのことだな。
でも、結構前の事だった気がする。
「渚からそいつの歌ったつーCD借りて聴いたら、この通りってわけだ」
俺は全然関係ないように思える。
つーか、芳野さんの歌はロックのはずだが。
「とにかく、俺が悪いってことか」
「そーいうことだ」
納得がいかないが、渚と汐の為にそういうことにするか。

空が赤くなりかけた頃、俺たちは家へ帰る事にした。
「それじゃまた」
早苗さんに挨拶をし、汐をおんぶする。
「またいらしてくださいね」
にこやかに微笑む早苗さんの顔。
「あなーきすとのパンヤーッ!」
そして、オッサンの謎の歌をバックに古河家を後にした。
「あぁーっ! 今日も売れなかったぁーっ!」
その歌をやめれば元通り売れ始めるだろうに。
でも、結局はオッサンの気紛れだから俺にはどうしようもないわけだ。
まあモヒカンから戻せば気分も変わるだろうしな。
どっかの妖怪みたいに。
そうして俺たち家族の少しばかりヘンな休日は過ぎて行った。

「それって誰のことですかねぇ!?」

なんか聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。





元ネタ:スネークマン

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