陽が沈んだ後の風は涼しい。スィンは暫くぼう、としながらその風を感じ、目の前の自分の胸程まである石に触れた。夕闇を映して、ややオレンジがかったその石は冷たく、風と同じように心地良い。
「お前に喰らわれると、人は何処に行くんだろうな」
石の影の、凝った闇へと問いかける。呟きにも近いそれに嗤ったのか、闇は声を震わせて応えた。「さあ」
「どこかに行くのか、留まるのか」
「消えてしまうのか」
楽しそうに闇はスィンの言葉を攫う。
スィンは嘆息した。
「お前と会ってから墓とは何だろうと思うようになったよ」
魂がここに、この手にあるというのなら、死者は何処にいるのだろうか。
石から離れ、別の手に持っていた花束を置く。ふわ、と甘い匂いが鼻についた。
静かな土のなか、安らかに眠っている誰かに花を手向けるのも、手を合わせるのも、自己満足と言われてしまえばそれまでだ。しかし、そうは思いたくない。
存在が消えても、繋がる場所があるのなら。
「お前は存在そのものが、墓場みたいなものだな」
夕闇に、低い嗤い声が響く。
スィンの影は濃く伸びて、やがて闇に呑まれた。
end
2006.06.24
Copyright(c) 2011 NEIKO.N all rights reserved.