わたし あなた

novel



 いつの間にか、スノウの横でぼんやりするのがリドの日課になっている。
 スノウは初め居心地が悪そうにしていたが、そのうち慣れたのか、気にしなくなった。
 リドも、初めは居心地が悪かった。前とは勝手が違う。ふたりの間にある空気も変わってしまっている。
 それでも近くにいないと落ち着かないのだから、仕方がない。
「リド、」
 スノウが下のほうを見つめながら、リドを呼んだ。
「あそこにいる、あの人が、オベルの王様なんだよね?」
 スノウの視線を追うと、タルたちと何やら話し込んでいるリノの姿が見える。スノウの横に並びながら、リドは頷いた。
「オベルって、どんな国?」
「どんな?」
 リドはきょとん、と首を傾げた。どんな国、と問われてもリドには上手く表現する方法が浮かばない。
 困惑が伝わったのだろう。スノウは微かに笑った。
「別に大したことが訊きたいわけじゃないんだ。ただ、君から見てどんな国なのかと思って」
「行って見れば、分かるよ」
 リドは何の含みもなく言った。望むのなら、今から連れて行っても構わないと思った。
 しかし、スノウは苦笑しながら首を振る。
「そうじゃないんだ、リド。君から見た感想を聞きたいんだ」
「? どうして」
 リドの問いかけに、スノウは視線を僅かに視線を逸らした。「僕は――……」
「僕はずっと、自分のことを話してばかりだったから。今は君の考えていることが知りたいと思って」
 タルのところで快活に笑っているジュエルがこちらに気づいたのか、手を振っている。スノウが手を振り返したのを見ながら、リドも振り返す。ジュエルに肩をつつかれたポーラも、こちらを向いて笑った。
「だって僕は、皆に比べて君の事を何も知らない」
 抑揚のない声で告げられた言葉に、リドは頷くことも首を傾げることもできなかった。
 そうだろうな。とも、そんなことはない。とも、思う。
 幼い頃から共に時間を過ごしてきた。リドという人間を一番良く知っているのは誰か、と言ったらスノウだろう。
 けれどスノウとリドとの間には、段差のようなものが存在した。会話は一方的だった。
 少なくとも、理解しあう関係ではなかった。
「恥ずかしい話だよね。ずっと一緒にいたのに」
 リドは曖昧に首を振った。スノウは複雑そうな顔をして続けた。
「でも、今は、君のことが知りたいと思うんだ、リド」
 リドは何と応えていいのか分からなかった。
 スノウは今、リドと対等の立場に立とうとしているのだろう。リドの言葉を待ち、リドを知ろうとしている。
 では、自分はどうしたらいいのだろう。リドは思う。対等の立場、というものが、そもそも良く分からない。
 スノウのことを、よく分かっているつもりでいた。けれど今は、よく分からなくなってしまった。
 スノウが、リドの言葉を待っている。分かっているが、唇が張り付いたように開かない。
 リドは呆然と立ち尽くした。


end

2006.04.01


novel


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